第28話【カード収納スキルレベル8】
サーシャとノエルがミナトの事を話し合いながら食事をする頃、僕の方はノエルの気持ちが僕に向いていないのは自分が未熟であると思い、次のレベルを目指して精進していた。
(まあ、嫌いと言われた訳じゃないし恋愛対象に年齢はあまり重要ではないと言ってたから、もっといろんな事が出来るようになれば自ずと結果はでてくるだろう。
今は焦らずにあまりグイグイとしつこく迫るのはやめて
そう決めた僕はレベルがあがるまで配達依頼以外ではノエルに会わない、食事などにも誘わないと決めて町の外れで数週間の間収納の特訓をしていた。
「――
手当り次第にカード化してもほとんど経験値は増える様子が無いのでレベル7で覚えた生き物のカード化に重点を置くため虫や小動物を次々とカード化していった。
「――あ、やばい。
頭がくらくらしてきたということはそろそろ魔力が尽きるのか……。
今日はこのくらいにして休むとしよう。
あ、この捕まえた生き物は持って帰っても使い道かないから全て開放して帰ろうか……」
僕は残り少なくなった魔力に気をつけながら次々とカードから生き物を開放していく。
最後の一匹を開放し終わったとき、脳内で待っていたレベルアップの情報が駆け巡った。
「うおっ!? ゲームとかと違って経験値が数値化されてないからいつもいきなりのレベルアップでびっくりするんだよな」
僕はそう呟きながら内容の確認をしようとしたが予想以上に魔力を使っていたらしく、不覚にもその場で意識を失ってしまっていた。
* * *
――ぼんやりとした意識の中でどこからか小さな子供の声が聞こえてくる。
「あ、めをさましたみたいだよ。おかあさん」
ベッドの布団で寝かされていた僕が目を覚ますと僕の顔を覗き込んでいた人影がパタパタと足音をたてて誰かを呼びに行った。
端的に聞こえた内容から子供が母親を呼びに行ったと思えるが魔力枯渇の一歩手前まで使った魔力はまだ完全には回復しておらず身体のあちこちが悲鳴をあげていた。
奥の部屋からゆっくりとした足音とパタパタと軽い足音が混じり合いながら部屋に入ってきた。
「お体の調子はいかがですか?」
まだベッドから起き上がれない僕の顔を覗き込んできたのは30歳前後に見える優しそうな女性だった。
その側では5歳くらいの女の子が一緒になって僕の顔を覗き込んでいた。
「まだ、思うように体が動かせないようですね。
状況から僕が倒れていたのを介抱してくれたようで、ありがとうございました。
出来ればもう少しだけこのまま休ませて頂けると助かります」
僕が首だけ彼女らに向けてそう告げると微笑みながら頷いて「ええ、構いませんよ」と言ってくれた。
「すみません。
ではお言葉に甘えてもう少し眠らせて貰います」
僕はそう告げると安心をしてまた眠りに落ちていった。
――結局、僕が起きれるようになったのは次の日の夕の鐘を過ぎた頃でほぼ丸一日以上眠っていたらしい。
「うーん。
やっと身体が動くようになってきた」
僕はベッドから起きると大きく伸びをしてから今回の分析と反省をした。
(今回は本当にまずい判断をしてしまったようだ。
これが町ではなく森とかなら獣に襲われているだろうし、いや町でも悪い人に見つかっていたら身ぐるみを剥がされる程度ならばいい方で最悪殺されていてもおかしくは無かっただろう。
今後はもう二度と無理はしないかするとしても信用のおける人と一緒の時だけにしよう)
そう自分の中でまとめた時、部屋のドアが開いて介抱してくれた女性が様子を見にきてくれた。
「あ、起きれるようになられたのですね、良かったです。
もし、よければ食事を食べられませんか?」
「いえ、助けていただいたうえに食事まで受けては申し訳ないですよ」
そう言った矢先に僕のお腹がグーと鳴る。
「丸一日以上眠られていたんですからお腹も空くはずですよ。
大したものはありませんがどうぞ遠慮せずにご一緒してください」
そこまで言われれば無理に断るのも悪いと案内させるままに食堂へと向った。
用意されていた食事はごく一般的な家庭料理でいつも宿の食堂や外食ばかりの僕にはどこか懐かしい感じのする食事だった。
「ごちそうさまでした。
この度は本当にありがとうございました。
見ず知らずの僕を泊めて頂いたうえに食事まで頂戴してしまい感謝しかありません。
お礼と言えるほどのものではないですけどこれを受け取ってください」
僕はそう言うとウエストポーチから何枚かのカードを取り出した。
「カード……ですか?」
「はい。
実は僕はカード収納スキル持ちなんです。
あまりメジャーなスキルではないので……いえ、あまり使えると認識されていないスキルですのでびっくりされるかもしれませんがいくつかの品物がこのカードに圧縮収納されているのです。
本来ならばこのカードを元に戻すには圧縮した人間が必要なのですけど昨日は倒れてしまいましたが有用な使い方が出来るようになったのでお試しも兼ねてあなたにプレゼントさせてください」
僕はそう言うと取り出したカードを彼女を持たせてから追加の付与を施した。
「――
僕がスキルを使うと持っていたカードが一瞬スッと赤みがかってすぐに消えた。
裏を見ると小さな魔法陣のような模様が浮かび上がっており一目で何か特別な物へと変わった事を認識させた。
「これで僕以外の人でもこのカードを開放させる事が出来るようになりました。
ただ『誰でも』となると少々問題が出るので少し改良してカードと紐づけした人のみ開放出来るようにしてみました」
「えっと、すみません。
よく意味がわからないのですけれど……」
いきなりカードを持たされ、聞きなれない言葉を次々と話す僕に戸惑いを隠しきれない彼女に僕は慌てて謝った。
「あ、すみません。
説明を急ぎすぎましたね。
では、試しにひとつ開放してみましょうか」
僕はそう言うと彼女からカードを一度戻してもらい、その中から
「――
彼女の声に反応したカードは彼女の手のひらの上に
「キャー!」
ぴちぴちぴち
びっくりした彼女は
それはそうだろう。いきなり説明も無しにカードから魚が現れて手に乗っているのだから……。
(しまった。べつのものにするかまな板の上で開放して貰えば良かった)
と後悔しながらまた平謝りをする僕がそこにいた。
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