第2話【身分証の発行と斡旋ギルド】
放り出された場所から見えた町は意外と大きく、入口には門兵が旅人の様子を確認している。
「ん? 見ない顔だが旅人か?」
服装こそ、この世界の一般的なものを身に着けた状態で来たので問題はなかったが、なにしろ持ち物が食料とお金を少し持つだけの男がふらふらと町に入ろうのすれば止められるのは当然の事だろう。
「ええ、仕事を求めて来たのですがこの町にお仕事斡旋ギルドってありますか?」
「ああ、もちろんあるが何か身分証を持ってはいないか?
なければそこの詰所で登録をして行きなさい。
それがなければギルドに行っても受け付けて貰えないからな」
門兵はそう言うと側に建てられている詰所を指さして向かうように促した。
「わかりました、そうします」
僕はそう言うと詰所のドアを叩いた。
「――それでは君は他の町や村から来た訳じゃないんだね」
詰所の係員の男にいろいろと質問をされるが元々この世界の人間ではないため国がどうとか町がどうとか言われてもさっぱり分からない。
「――ですから、気がついたらこの町の近くの大樹の下に寝ていたんです。
持ち物もこれしかありませんでした」
何度目かの同じ質問にいい加減うんざりしてきた時、別の部屋から上司らしき男性が現れた。
「彼が報告にあった人物かね?
記憶がはっきりしないでどこの出身かも思い出せないそうじゃないか。
――まあ、いい。君、すまないがこの水晶体に手を触れてくれないか?
これが白く光れば身分証を発行しようじゃないか」
急にその男性はソフトボール大の水晶体をテーブルに置いてそう言った。
「よく分からないですけど、そんな事でいいなら……」
僕は言われるがままに水晶体に手を触れると水晶体は白い光を放ち出した。
「まあ、いいだろう。この町には仕事を探しに来たんだろう?
身分証を発行するから手数料を払って受け取ってくれ。
ああ、斡旋ギルドはこの大通りを真っ直ぐ行った所にある大きな建物だ。
行けばすぐに分かると思うが、もし分からなければその辺りの者に聞けば教えてくれるだろう」
その男性はそう告げると
「手数料は1000リアラになります。宜しいですか?」
残された僕に係員が手数料の支払いを迫るがお金の種類が分からない僕は手持ちにあった手持ちの貨幣をテーブル上に並べて「これで足りますか?」と聞いた。
「もしかして、記憶が曖昧なせいでお金の種類も分からなくなってるのかい?」
本当は初めから知らないのだが係員の男が都合の良い勘違いをしてくれたので僕は「実はそうなんです」と話を併せておいた。
「それは気の毒に……。
いいかい? この銅貨が100リアラでこの銀貨が1000リアラだ。
ここには入っていないがあと小金貨、金貨、白金貨がある。
小金貨が1万リアラで金貨が10万リアラ、そして白金貨が100万リアラだ。
ああ、言い忘れたがこの国の貨幣単位はリアラと言うので覚えておいた方がいいだろう」
係員はそう言うと懐の財布から小金貨を見せてくれた。
「これが小金貨だ。
さすがに金貨、白金貨は持ち合わせていないが大きさが違うのと白金貨は色が違うので見ればすぐに分かるだろう。
もっとも白金貨なんて平民には見る機会などほとんどないだろうがな」
係員の男が思ったよりも親切に説明をしてくれたので貨幣については早々に理解する事ができた。
「じゃあこれが手数料になるのですね」
僕は教えて貰ったばかりの知識で銀貨を1枚係員へと差し出した。
「――確かに受け取ったから暫く待つように、今から身分証を発行して来るのであまりウロウロせずにしていてくれ」
係員の男はそう言うと軽く頭を下げてから奥の部屋へのドアを開けた。
――数分後。一枚のカードを持って係員の男は戻ってきた。
「これが君の身分証になる。
町への出入りやギルドでの登録の際に提示すれば手続きが簡単になるだろう」
「ありがとうございます」
僕はそう言って係員から身分証を受け取った。
町に入ると言われたとおり中心部に向かって1本のメイン道路がまっすぐに伸びていた。
後から聞いた事だが、町の中心に斡旋ギルドがあってそこから8方向に道が伸びる造りになっているそうだ。なぜ斡旋ギルドが中心なのかは『その方が町全体の仕事管理がスムーズになる』からだそうだ。
町の税収は仕事があってこそとの国王命令で、小さな村を除くこの国内にあるほとんどの町がこの形を採用しているらしい。
「――なるほど。この国の王はそういった方面に強いのかもしれない……。
そして、今までの話からするとお仕事斡旋ギルドは国営で現代日本の役所、職員は公務員って考え方で良いのかもしれないな」
そんな事を呟きながら綺麗に整備された道を歩いて行くと1軒の大きな建物にたどり着いた。
この世界に来てから初めて見る3階建ての立派なレンガ造りをしていて正面には立派な紋章の彫刻の入った分厚い扉が開け放たれていた。
「――こちらのご利用は初めてですか?」
ギルドに入って建物の大きさと人の多さに戸惑っているとひとりの女性が話しかけてきた。
「あ、申し遅れました。
このギルドを初めてご利用される方を中心に登録や依頼の相談を担当させて頂いております」
サーシャはそう言うと微笑みながら軽くお辞儀をした。
「それは助かります。
なにしろ右も左も分からない状態でしたので……って、どうして僕が初めての利用と分かったのですか?」
「それは、経験から……ですね。
このお仕事を任されていると初めてこのギルドを訪れた方は雰囲気で分かるようになりましたのでお声をかけさせて頂いた次第です」
(――ああ、ようするにキョロキョロしている田舎者に見える人物に声を掛けているんだな。
まあ、そのとおりなんだから別に腹も立たないけど……)
そういった感情をおくびにも出さない完璧な営業スマイルのサーシャに感心しながら僕は彼女にギルド登録の手続きをお願いする事にした。
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