荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼

第1話【異世界転生は突然に】

「はぁ、今日も憂鬱ゆううつだ……」


 世の中は不況、不況と宣伝して手に職を持たない者からは日々の糧を稼ぐ手段さえ奪っていく。


 ――ピロン。


 突然スマホの呼び出し音が鳴る。


「おっ!? 珍しく今日はこんな早い時間から仕事にありつけるのか?」


 僕はそう考えながらスマホの画面を確認すると配達依頼が数件表示されている。


「おっ! この近くじゃないか今日はラッキーな日になるぞ」


 僕は憂鬱ゆううつだった気持ちを切り替え、喜び勇んで自転車のペダルを踏んだ。


「お待たせしました。自転車運送のハコベルです。

 お荷物の回収に参りました」


 そう、僕の仕事は自転車運送業だ。名前だけ聞くとまともな仕事のようだがなんの事はない、ただの雑用運送屋だ。


 毎日必死に自転車を漕ぎながら指定された品物を指定された場所へと届けて手数料を貰うフリーランスの仕事だ。


「まいどありがとうございました。

 またのご利用をよろしくお願いします」


 この世界、お金を持っている人間が圧倒的に強く持たないものは徹底的に虐げられるクソみたいな世の中だ。


 一度落ちたら二度と這い上がる事さえ出来ない底辺を這いずり回りながら一発逆転の夢を見ていた。


「ふう、これで10件。

 今日の稼ぎは最近になく多かったから久しぶりに肉でも食いにいくか」


 僕は手の中に収まっているお金を握りしめて焼肉食べ放題の店へと自転車を向けた。

 その時、けたたましいブレーキ音と共に目の前にあり得ない光景が現れた。


 ――大型トラックの暴走。


 よそ見運転なのか何かが飛び出して来たのを避けたのかは分からないが、とにかく歩道に居た僕に目掛けて飛び込んで来たのだ。


「――あ、死んだ」


 そう思った次の瞬間、僕の身体は高く高く吹き飛ばされていった。


   *   *   *


「――ここはどこだ?」


 次に意識が戻った時には真っ白な世界に立っていた。


 上も下も前も後ろも何も無い真っ白な空間。


 地面が無いのにあるかのように立つ僕の目の前に突然ひとりの女性が現れ軽くお辞儀をした。


「私はこの世界の管理を任されている女神です。

 この度はこちらの手違いであなたの寿命を奪ってしまい申し訳ありません」


 突然現れた『女神』を名乗る女性は僕が死んだのは手違いだったと言い出した。


「はあ、手違いならば生き返らせて貰えますか?

 僕は今日、本当に久しぶりに焼肉を食べに行くところだったんです。

 毎日毎日毎日インスタントラーメンばかり食べる者の気持ちが分かりますか?

 そんな僕が焼肉を食べられるという超ハイテンションな気分を台無しにしてくれたんですから責任を取ってくださいよ」


 僕は死ぬ直前までお腹を空かせて焼肉食べ放題に行く夢を打ち砕かれたショックで彼女に詰め寄っていた。


「はわわわ。本当にすみませんでした」


 詰め寄られた女神は手を前に出して僕が詰め寄るのを静止すると謝罪の言葉を述べる。


「謝罪はいいから今すぐ生き返らせて焼肉を食べに行かせてくれ」


 なおも焼肉にこだわる僕を困った顔で見ながら彼女が衝撃的な言葉を告げた。


「本当に申し訳ないのですが、あなたの身体は事故の衝撃でバラバラのぐちゃぐちゃになってしまって生き返らせようにも既に身体が無いのです」


「なんだって?」


 衝撃的な事実を申し訳なさそうに告げた彼女は僕に対して代案を出してきた。


「つきましてはお詫びとして新たな人生を贈らせて頂きたいと思います」


「新しい人生だって?」


「はい。今まで居た世界とは違う所になりますが私の管理している世界にあなたを転生させたいと思います」


「その世界では遊んで暮らせるのか?」


「いえいえ、それは難しいですね。

 やはりそれなりの仕事をして生活の糧を稼がないといけません。

 そうでなければ世界の秩序が正しく機能しませんから……」


「やっぱりそうか、まあ仕方ないよな……で、仕事ってどこで貰えば良いんだ?」


「私の管理しているその世界では『お仕事斡旋ギルド』という組織がありますのでそこで仕事を受けてください。

 詳しい事はそこで教えて貰えると思います」


「なるほど、分かった。だが、僕に何が出来るか分からないのに仕事の斡旋をしてくれるのか?」


「最初の登録時にあなたの固有能力スキルを確認してくれますのでその関連から仕事の斡旋をして貰えるはずです。

 そして、今回の私からのお詫びとして生前よりも少しばかり若返らせておきますのと、固有能力スキルの成長上限を開放しておきますので修練を積めば積むほど無限に成長出来ます。

 ですが努力をしなければそれまでですので全てはあなた次第と言う事になります」


「努力か……。

 報われる努力なら幾らでもやって良いが、報われない努力ほど虚しいものはないからな」


 僕がそうつぶやくと女神はニコリと微笑んで「努力は報われるのが私の管理する世界ですので是非とも頑張ってくださいね」と言い残して光と共に消えて行った。


「ちょっとまってくれ、まだ聞きたい事が……」


 女神が消えた空間に向かって叫ぶ僕の身体が徐々に光に包まれ、次の瞬間――僕の身体は意識と共に何かに吸い寄せられるかのようにその空間から消え去っていった。


   *   *   *


「――痛たた。いきなり酷いな」


 次に僕が目覚めたのは大きな樹の下で木の根っこに頭をぶつけて目が覚めたようだった。


「ここはどこだ?」


 僕があたりを見回すと草原の小高い丘にある大樹の下であることが分かった。


長閑のどかな風景だな、以前居た街は鉄とコンクリートの塊で出来た街だったから余計にそう感じるんだろうな」


 僕はその場から立ち上がると遠くに見える町並みを確認し、まず自分の身体と持ち物を見てみる事にした。


 手を伸ばしたり屈伸をしてみたりと身体が良く動く事を確認する。


 鏡が無いので自分の顔を確認出来ないのは残念だが見える範囲の手足と触った感じから少しばかり若返ったような感じだった。


「生前年齢は26歳だったけど、この身体の動きは高校生の頃のようだから16〜17歳ってところだろうか?

 まあ、町に行って鏡でも見て年齢を決めればいいだろう」


 僕はそう呟いて側にあった荷物の袋を確認し、価値の分からないお金らしき貨幣と少しばかりの食べ物を手に町へと向かう事にした。

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