第8話 皇女ロスマリン姫
「うおおおお.」
血塗られた大鎌がコバロスの首を刈り取った。
鈍い鉄色は何度も何度も繰り返し、赤い血で塗り直されていた。
あの夜空に輝く閃光の後で、攻勢がパタリとやんだ。
何事かと魔法使いに問うても返事がない。兄に魔法で援軍を求めたが、助けに来るはずの婚約者がさっきの魔法で行方不明になった。
死んだな。
魔法による連絡網が出来上がっている現在、音信不通など範囲系の攻撃魔法をくらって全員死亡と相場が決まっている。
婚約者といえど結婚相手の候補であり、あと二人ほどいる。
皇女ロスマリンは全然悲しくはなかった。
それよりもこっちも地獄まで行きかねない。コバロスは攻城兵器など持たないが、ここの村を取り囲む石を積み上げた防塁も3メートルほどの高さしかない。
死んだ婚約者に『迎えにこないでくれ』と祈った。
防塁の上を走り、戦えるだけの幅がある築城技術で皇女達が踏ん張るにも足場がない、外に絶壁ではあるが、内側はなだらかになっていて、3メートルを飛び越えれば4足歩行どころか走行を行い、あまつさえ2メートルほどの壁走りを行うコバロスなのだから、何らかの方法で突破されたとき、そのまま敗北を意味した。
ただ丘陵地帯に建っていて、攻めての側も足場が悪い、コバロスは人間のようにはしごを使うことができない、
5メートルぐらいの板を立て掛けて、得意のバランス感覚で走りながら。突入しようと繰り返すだけ、防御側は橋をかけられたときにそこに集まって、突入者を補殺して、できることなら板を破壊する。
破壊されたら暫くは攻撃がやむが、はるか向こうから長い板がまたやってくるのを繰り返しでいる。昨日の夕方からこの村に入ってきて、夜中にぶっとうしで戦い続けて、もうそろそろ日が上ろうとしている。
板の破壊が終わり、敵の攻撃が一段落したとき、ロスマリンは近くの岩に腰を下ろして兜を取った。
「姫、大丈夫ですか」
一人の老騎士が兜をとった、やはりロスマリン姫の疲労困ぱいだった。
それらの気を遣う余裕もなく、黙ってうなずくのが精一杯だった。
「敵が兵力を入れ替えています」
人数は圧倒的に向こうが多い上に夜目が利き、夜に狩りをする部族から、遠目が利き昼に狩りをする部族へと入れ替わっている。
「敵に虜囚の辱めを受けるなら死を選ぶ、我が首はあの木の根元にでも埋めてくれ」
「何を情けないことをおっしゃるのです」
白髪の混じった男が答えた。
「皇太子様も魔法の騒ぎが解決すれは戦線を押し上げるとはっきりとおっしゃっております、どうか気持ちを切らないで下さい」
姫も魔導士を与えられていた、帝国軍の目安は千人に一人ぐらいで配置される。
「メンバーの交換と共に攻撃を仕掛けてくるだろう、何時間持つ」
「かけられる橋の数によります、今までのように5本バラバラで来るなら夜まで持ちこたえられますが、三十ほど同時にかけられれば、その瞬間に終わるでしょう。
敵の装備次第です」
「教会にいる。シスターレイナを呼んできてくれ」
荒い呼吸の中で、深い溜め息をついた。
「馬鹿なことは考えないで下さい」
「疲労がたたっている、直せないか相談するだけだ」
部下というか、守役の老騎士に自嘲した。
「私は酷い女かもしれない、婚約者の死を聞いても少しも悲しくないのだ。
私を救おうとしたのに、哀れな許嫁だ」
目をつぶり、一息はいた。
「恋人だった訳ではないでしょう。気の毒ではありますが、当然のことです」
「何人、死んだ」
「転落した二名死亡、誰でもが何らかの軽症を負っています」
むこうから白い装飾を着た若い女牲がやってきた、
まだ見習いでも通じるほど若いのに、この周辺に布教にきていた。
そしてコバロスの来襲を受け、年寄りと歩けない子供、体の不自由なものを残して、村人は家畜と共に出ていった。
それらの態度を攻めるのは酷だろう、氷点下になれば牛の頭部が割れて死亡したり、尻尾が落ちたりする事が良く起こる、例年より気温が2度低いだけでジャガイモが入ってくる以前は、食物が無くて全滅していた。ジャガイモによる人□増加はここでもおき、近年北部も布教の対象地威に指定さされたばかり。はっきり言えばジャングルのどこかに食べ物がなっていて、海に潜れば魚が取れる南国とは気質が違ってくる。
自然が人間を愛していない大地では、人は人に対して冷酷に成れるのだろう。
教会が寛容なのかといえば、魔法が使えるからというだけで、若い女が護衛も無く一人で派遣されている、彼女は女神ソフィアの愛ゆえに、この場に残ることを決心した。
信仰は守れるかもしれないが、女の細腕で村人を守れるはずが無い。
異文化のコバロスがソフィアの僧侶に敬意をはらうとはとても思えない、彼女も殺され、教会は焼かれるだろう。ホブコバロスの話もあるが、基本的にコバロスは人間の女性を性欲の対象とはしない。
例外もあるが。
狩猟民族であるがゆえに子供だからといって、労働力を求めることはしないだろう。
皇女ロスマリン姫は逃亡者から情報を入手すると、突出する事は分っていたが、帝国の威信をかけて守ろうと思ったが、なかなか思うようにはいかない。
「感謝します皇女ロスマリン・アレクシオン様。
あなたがいなければ村人は昨日のうちに殺されていた」
シスター・レイナはどんな結果も静かに受け入れる覚悟ができている。
もともと教会に入信し、殉教者になる。
死んで再び蘇る、神の御心に従い、日常に安息を得た人が持つ、特有の穏やかな笑顔だ
こういう人物ゆえに教会で煙たがれたのだろう。
「シスター・レイナ、私はあなたを守ると約束したが、果たせそうにない」
「援軍です」
全軍の歓声がわいた。
「ウソー、魔法で妨害にあっているはず」
といいながらも皇女ロスマリンも駆け出した。
「けっこう元気ですね」
シスター・レイナが目をパチクリさせて老騎士に聞いた。
「キャー、ホントにちょっと遅かった気もするけど、グッドタイミングよ」
チュッパ・チュッパ投げキッスを送った。
「凄いわ、勇者様。私の騎士、皇女はここよ」
「なんか姫、性格変わっていませんか」
老騎士とシスターレイナの二人が笑顔で話した。
「馬よ、馬。コバロスは馬なんかに乗らない」
皇女の目は丸くなって息を飲んだ。
「馬鹿な、あの旗わ」
口を開けて呆然とした。
「姫、帝国軍ですか、それとも貴族ですか」
下の方から老騎士が声をかける。
姫のとなりにいた物見の男が答えた。
「真紅の下地に短剣。あのシンプルなデザインは。
ストレンツオ。ダン・ジョウ・ストレンツオです」
「おおおおおおおおお」
軍人達からどよめきが起こった。
「あの新進気鋭の若者か」
「ああ、わしも聞いたことがある。将来の将軍候補といわれている」
「さすがはストレンツオ(剣て総てを成す者)の男。
あの武勇は家名に勝とも劣らん」
「確か、姫とは士官学校で同期でしたよね」
声をかけられたとき、ビクっと激しく肩が動いた、
どうしたんだろうと思った。
「左将軍に姫、右将軍にダン、帝国の将来も安泰ですな」
この戦場に始めて穏やかな笑い声がして、そして静かになった。
カク、カク、カクー、
ブリキのおもちゃのように振り返ると、部下達が見た皇女ロスマリンの顔は凄く惨めそうに嫌な顔をしていた。
「ぐああああ」
いきなり頭をかきむしりだした。
冷静沈着で美しい姫のリアクションとは思えない。
「本当は立場が逆にならなくてはなちない。どこかの戦場で孤立しているアイツに、私は助けにいき、私はダンとは違って静かに穏やかな忠告するの。
ダン。これが戦場なのよ。あなたも少しはビッグマウスを止めなさい。
そうよ、それなのに、それなのに。
ヤツは8才から戦場にいたらしいけど、戦う度に評価を上げていき、ヤツは本当に口ほどの男だった。入学当時から武道教官より強かった。凄い奴だよ。
あー、こんなの神様、酷すぎる」
「姫、仲悪かったんですな」
質問に素直にうなずいた。
「アレが妄想、コレが現実」
エグエグと泣き出した。
ああダン・ジョ・ン・ストレンツオ様。せめて私を人前で猪と呼ばないで」
そう、周囲に誰もいないときは猪と呼んでも許してあげよう、寛大にも皇女が決断したときだった、涙を止めてさわやかな笑顔を作っているときだった。
「猪、門を開けろー」
ダンの大声が遠い戦場からここまで届いた。
皇女ロスマリンの鼻から鼻水が糸を引いて垂れる、もう涙もでねえ。
「猪?」
「猪?」
「猪?」
「猪?」
信頼している部下達の中でざわめきがおこった也
「コレが現実、コレが現実」
ゆっくりと呪いの言葉をはきながら幽鬼のように立ち上がった。
「コラー、ダン公。私は皇女だぞー。
ちっとは気配りして話せー」
皇女ロスマリンは戦場に向かって怒鳴り返した。
このとき部下達は「猪」の意味を知った。
「元気ですね」
シスターレイナがポカンとした顔をして騎士の一人に聞いた。それもその筈、彼女は姫の疲労を取って欲しいと言われて粗末な教会から来たのだ、
「病は気からと言います。援軍が一番の薬でしたな」
老騎士が冷静に答えた。
早速、門に立てかけている閂を外してダンを迎え入れる準備をした。
兵を入れ替えの時期でありコバロス側はだれが、どこの戦場を受け持つとはっきりしていなかった。キョロキョロと慌てるしかない。
大休人数だけが投入されて受け持ち範囲などもはっきりしてない。城に関する知識もないから、通れる所から攻撃できるなら攻撃するかという雰囲気があるだけ、勇敢なコバロスだから戦意だけは異様に高かった。
帝国のように負傷兵を入れ替えながら戦線を維持するという訓練を積んだわけでなく、ダン達による切り取り放題を許すことになった。
ダンは予定ではすぐに村に入場するつもりだったが、相手の乱れを感じ、しばらくは残って殺しまくることにした。
これだけの人数に勝利することはないが、部族単位で行動するコバロスにとって、身内に死亡者が多数でれば、それだけで厭戦的気分になる。
かれらに戦争をやめさせようと思えば、身内に被害者がでることが一番だ。
その殺毅は凄まじく、勇敢なはずのコパロスが、恐れをなしてダンの周囲に円ができるほどである。しかもダンが乗っている馬が殺した同胞達の太腿や二の腕の肉を食った。どうもそこが好物らしく周囲のコパロスを舌なめずりしながら見ている。
側にいるアンリが思わず自分の二の腕をさすった、ダンは馬のたてがみを持って強引に自分の行きたい方向に馬首を向ける。こんな未調教の馬、ダンにしか乗れない。アンリが残酷と思っている目の前で食事の邪魔をされた馬が不機嫌そうに鳴く。
「皇女も討って出ればいいのに」
「疲れているのだろう」
アンリの問いにダンは答えた、あの女は昔から『機を見るに鈍』である。
我慢しなければならないところで我慢できない、攻撃的というよりは攻撃している間、自分が安心できるという将に相応しくないタイプだ。
戦術や陣形には詳しいが生活感が感じられない、兵も自分も恐怖するという人間の原理を良く分かってない所がある。
学生時代から、いつかこういう事をやるだろうと思っていた。
ダンが動いただけでコバロスの群れが割れて、もう効率的な殺しができないと判断すると堂々と門から村に入った。後を追うコバロスは一匹もいず、むしろ鷹が空から消えた穴鼠のように、ホッとした空気がコバロスの群に流れた。
「ダン、ダン、ダン」
と喚声が巻き起こる中、抜け目のないアンリが皇女の側までかけつけた。
「皇女様。ご無事ですか」
片膝をつき、手を取って恭しくキスした。
『ダンがきている。ダンが来ている、ダンが来ている』
で頭が一杯の皇女様、キスされてから近くに人がいることに気付いた。
「アンタ、誰」
聞いてきた、しかし一般市民出身の騎士であるアンリにとって皇女に口をきいてもらえたというのは、大変感動的な事件だったようでジワーと目に涙をためた。
ここにくるまでは皇女をオレの女にして出世してやると考えていたが、本人を目の前にしてそんな意識はふっとんだ。
『ああ、この人のために死にたい』
心の底から、思い、己の邪な考えを心から恥じた。
「良くぞ、聞いて下さいました。
シン・オブ・オーダー(罪深き騎土団)を率いているアンリにてございます」
家名がないのか、その程度の感想しかいだかなかった。『ダンだ、本物のダンだ』の方を考えずにはいられなかった。
「その騎士団名、あんまりいい名では無いな」
「分りました、皇女ロスマリン・ファンクラブ制作運営委費会にかえさせていただきます」
「良い名だよ、代えなくていい」
これカ普通の反応だよな、こうあって始めて『気安くしてくれ』という言葉が、成立する。やはりダンという男が異常なのだ。
「元気なようだな、私も貸しが返せて嬉しい」
ザッファーラが背中から声をかけてきた、どうやら防塁を飛び越えたようだ。
「それを言うなら、借りが返せてでしょう」
振り返ると血刀を携えたザッファーラが立っていた。
「アハハハハハハ、現代語は難しい」
青くなり、赤くなり皇女ロスマリンも大変な日である。
ザッファーラは何度か夜中に尋ねてきたのだ。ダンが戦場に行くからといって下の毛をわざわざむしりにきたのである。
「私達の時代にはこのような習慣はなく、魔力を吸収して壊れて魔法を成立させなくするお守りがあったのだが、宗教というより教義とは偉大な物だ」
「そんなはずないでしょう」
皇女ロスマリンが大鎌を持ってザッファーラを迎え撃つが、ダンが素手で受け止めた一撃。その上の能力を持つザッファーラに通じるはずもなく、簡単にひっ捕まってズボンとパンツを下ろされる。
「誰か助けてー」と叫ぶが「無駄だ。空気を切った、外部には振動しない」無常にもザッファーラが答えた。
「安産型だな」と口にして十本ほどまとめて引き抜くのである。
「自い根元がついていたほうが、ご利益がある」とか「新鮮な方が、効き目がある」とか口にする始末、この女、ダンが矢傷を負うまでムシリに来る気なのかと恐怖にかられた。
アカデミーに恥ずかしくない一部分を報告するが、結界を破られたはずがないと姫の報告を一蹴する。あまつさえ夢でも見ていたのだろうと笑うものまでいた
シャンリー三世ではないがアカデミーへの予算はストップするべきだ。
彼等はアカデミーの結界は霊体でも感知できると豪語しているが、実際は一人の女が出入りしている。
ジンジンする痛みが彼女に夢ではなく、現実のことだと実感させた。
「お守りにこっそり入れている、ダンには内緒にしているから、そのつもりで話せ
ザッファーラが言い終えたとき、武器をかついでダンがのっしのっしとやってきた。
満面に笑みを浮かべて、「ガッハッハッハ」と笑いながらやってくる。
「ああ、現実はかくも残酷なのか」
ダンが大袈裟に口にした。
「ありがとう、ダン・ジョウ・ストレンツオ様」
政治家の娘と思えないほど顔を引きつらせた偽りの笑顔で口にした。
「猪、殊勝なことを言うではないか]
「ダン、皇女だぞ、恭しく話しかけろ」
アンリから常識的な意見された。
「いいのよ、アンリさん。この男の性根の悪さは知っているから」
「知っている?
毛をむしられたぐらいで縛り首にしようとした女が」
二人とも顔を赤くさせて怒りの感晴がふつふつと沸き出した。
「毛…?」
アンリが聞いてきた、二人とも黙ったままそれに答えない。
「てめえ、いつか決着をつけねばと思っていたが…」
皇女がゆっくりと大鎌を構えた。
「もうついているだろう、また投げとばされたいのか」
肉食獣のような笑いを見せる。
ダンは強かった。余りの無礼に我慢ならなくなり、愛用の大鎌を持って切りつけた時、ダンはそれを素手で受け止めた。
「動きは締麗だが、足腰が踏ん張ってないかち本当の殺傷力を持っていない。
重力を司る力の精霊が封印されて日頃は軽量化を行い、インパクトの瞬間、軽量化している質量を解き放つと同時にカを補助する。
それらの優秀な装備がお前個入の『武』の成長の妨げになっている」
巧みな足捌きで相手との距離の駆け引きを行い、攻撃をした上にタイミング良く切り返す。皇女が求めていることは理解できるが、尻に力を入れて足腰で踏ん張らない皇女が幾ら修業を重ねても、コレ以上の成長は求められないだろう。
皇女が理想とした女戦士ベラは、自然な動きの中で回避しながら、自分が持つ最大インパクトの距離や相手の体勢の崩し、位置を考えながら、攻撃の瞬間は日頃立ち止まって練習する素振りを行っている。
それが瞬間的であり、自然の中にあるから皇女には蝶のように「舞っているようにしか見えないのだろう」実に皮肉気昧に笑っていた。
師匠である女戦士ベラは皇女に本気では教えていなかった。
そしてダンのように盾で受けながら同時に攻撃を叩き込むという待ち昧の戦法は、ベラの技法において一番苦手となる相手だった。
受け即反撃の剣で、受けて肘を打ち込むようなダンには自分でも勝てないと皇女にはっきり口にした。
ダンの方がベラの技法を授業だけで深いところまで理解していた。
ダンは皇女の腹に蹴りをいれて「良かったな猪、戦場では死んでいたぞ」吹き飛ばされた皇女に平然と口にした。
悔しくて涙がでてきた。最後の最後まで勝てなかった、
「中途半端な武術はお前に引き際を教えていない、戦場に出れば怪我ではすまない」
ダンが士官学校の卒業式にわざわざやってきて口にした。
「私より下手なのは幾らでもいるだろう」と取り巻きに囲まれているせいか、強気にでた。
「他人は君と違い自らの弱さを知っている。
もっと自信なげに行動している。
皇族の娘に生まれたからプライドも高く、人間に対して身勝手して粗暴に振る舞うときがある。
礼儀正しいから見えないが、戦いになると人間としての品格の無さが露出する。
戦う以上、相手に対して'謙虚さを身につけてくれ、それのみが洞察力を生み、女剣士ベラのような、まるで予知しているように戦う『武』へと通じている」
取り巻き達がわめきだしダンとはそれっきり別れた。
ダンが優しい…。
弱くなく、世の中の流れに甘えない。
庇ってくれる貴族出身の取り巻きの中で、それだけは理解できた。
「謝りなさい、ダン。あなたが悪い」
ザッファーラが短く口にした。
ダンはザッファーラを見た。
彼女は無表情だった。
「すまなかった」
ダンが頭を下げた。
皇女はその行為によって幾分か怒りはおさまったようだ。
「私は権謀術数や権力闘争など詳しくないか、いつまでも皇女を怒らせたままというのは将軍職を狙う身の上としてもまずかろう。
ダンは皇女の命を助けた。
コレで貸し借りなしだ」
ザッファーラにしては長く話している,
彼女にしては皇女に、かなり気を遣っているようだ。
ダンは子供はいらないというが、やはり子は残さねばならない。
自分はそれができそうにない以上、誰かに依頼せねばならない。
皇女は色々な意昧でザッファーラの眼鏡にかなっていた。
ダンは小さい時から将軍になりたいと言っていた。
ザッファーラはこの世には客として来たと思っているし、ダンの人生は夢をかなえる舞台であってほしい。
物事を時間的に空間的にかなり遠くからとらえた時、二人は実に近眼的な事で角を突き合わせて、時間を無為に浪費している。
このニ人は若い。
彼女が仕え、話をした神々は、現代人の心の中にはいないのに…。
時間というものは、それぐらい悠久に流れるのに……。
コバロス達が身内の死体を引きずりながら退却する。彼等の社会の中にもダンの噂が流れてき.た。
この戦争でダンが一番コバロスを殺している。
そんなの砦に籠られたら、人海戦術でも落ちない。
次第に部族が披けていき、虫食いのようにポカリポカリとあき、自然消滅を待つだけだった。
そう、はるか遠くにある一つの影に気付くまでは……。
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