第7話 暗黒魔導師
夜間疾走する馬の群れが地面を揺らしながら進んでいる。
全身体毛で覆われているコバロスならともかく、顔に直接かかる風は皮膚を切るように冷たくて痛い。馬に乗る全員が目を細めながら突き進んだ。
馬並の速度で走っていたザッファーラにも疲れがきたのだろう、器用にダンの懐の中に飛び込んできた。
「寄って行かないか」
ダンに背中を預けながら声を掛けた。
「どこに」
「例の魔法陣」
ザッファーラがいたずらに誘うように聞いてきた。
「知っているのか」
「できるなら解決したい」
上級魔導師のデューが馬を寄せて口にした。吐く息は全て白い煙の様になった。
デューはザッファーラとダンの会話を何らかの手段で聞いているようだ、
「遠いのか」
「通り道」
ダンの問いにザッファーラが短く答えた。
「案内しろ」
ザッファーラに命令するとデューに話しかけた。
「デューさん、アカデミーはどこまでつかんでいる。
それとも教会との折り合いが悪いと言う噂が本当なのか、
それゆえに実力を押さえている」
「それもあります。しかし、今回は冒険者として名をはせたパーティを雇っての失敗ですからアカデミーの計算ミスです、魔導師・暗殺部隊の事を言われますが、それより強力なカードだったと個人的には思っています。
敵が想像より強くなっています。
ヴァレンシアの話は私も荒唐無稽だと思ったのですが、なんだか私たちも巨大な流れの中に押し流されていて、確な証拠がない限り、漠然とした不安だけで逆らえない空気がアカデミーに出来ています」
デューが一呼吸おいて続けた。
「現在の魔法技術の水準では不可能な事件です。
複数の仮説を立てて、それを証明する作業をせねばならない。
ヴァレンシアの話も、その内の一つですが、証拠を隠していると叫びながら偏執的な捜査を続けている個人が、アカデミーにいます」
「俗にいう、アカデミーの老人達」
ダンの言葉にデューは黙ってうなずいた。
「正直だな、そこまで話してもいいのか」
ダンが気を使いながら聞いた。
「私もアカデミーをやめて、田舎の小道で占いしている連中の気持ちが理解できる。
老人達は我らの事を手足ぐらいにしか感じていない。
判断がまともならともかく、不老故の老害が組織に忍び寄っています。シャンリー三世辺境伯ならずとも一度つぶしてみたくはなりますよ、
戦場にいるという事は、私もアカデミーの本流でないという事ですよ」
「苦労しているのだな」
「私からも質問してよろしいですか?」
「構わない」
「なぜザッファーラを戦場で使用なさらないのですか。
過去において、アカデミーの上級魔導師が三人がかりで負けています。
結界は切る、魔法は切る、霊体は切る。下手なマジックアイテムより活躍できます」
「オレは彼女を束縛はしていない、協カが得られるならば被害は少なくてすむと思っているが強制はしたくない」
「ザッファーラ様、どうして協力的ではないのです」
デューが直接ザッファーラに聞いてきた。
「答える義務はない」
ぶっきらぼうに返事した。
「ダン様からも聞いて頂けませんか」
「ザッファーラが口にしたくない事をしゃべらせる気はない。
彼女にしては良く話をしている。私の家ではもっと無口だよ」
ダンはこの時代を生きていることにザッファーラが罪悪感を持っていると、感じた。
彼女がこの世界と必要以上の交わりを持とうとしないのを問い詰めたくはなかった。
「私は過去の話も聞きたいのですが」
「彼女は魔法なぞ使えない、我々には魔法的に見える動作もあるが、彼女にとっては自然発生に近い現象なのだ。なんらかの
「私はかつておきた現象だけでも聞きたいのですが。
このままでは自分が老人達の嗜好に染め上げられるような気がして、古代で倫理が確立する以前の、力をセーブしない魔力の爆発を聞きたい。
そうすれば自分はバランスを欠いた人間にならずにすむ、決してザッファーラ様に失われた魔法を教えて欲しいなどと思っていません」
ダンは黙ってザッファーラを見た。
「失礼な、魔法ぐらい使える」
ザッファーラが無表情に答えた。
「どうやら、姫君を怒らせたようだ」
ダンがデューに苦笑した。
「この馬の名前はなんだ」
「黒いからクロと呼んでいた、好きに呼べ」
「クロでいいよ」
ザッファーラのぶっきらぼうの答えにダンが微笑んだ。
ザッファーラの案内で細い間道に一列になって入っていく、アンリが仕事を増やすなと文句を言ったが「元冒険者の腕を見せるいい機会だ」と口にすると、黙ってしたがった。
「あそこだ」
ザッファーラが指差したところに白い塔が建っていた。
俗に言う典型的な魔術師の塔で20Mはあった。
「屋上に魔カが強い人間が5人いる。
2階にティターンが1人。
他の部屋に人間が多数いるが屋上の人間のように魔力は感じない、ただ魔法使いではないとは断言できない。地下には女が十人以上いるが生贄の娘か敵なのか区別できない。
庭にコバロスが多数だ。
生きているものの話だ、トラップやアンデッドなどの魔法的な生き物まで知覚できない」
ザッファーラが答えた。
「ティターンってなんだ?」
「2メートルほどの小さな巨人です。
種としてはトロールが、それ以上の大きさで点在しています。
巨人といっても男の方だけで、トロールと違い女の方は人間と対して変わりません。
(トロールは女王種と呼ばれ女の方が大きい。大地に触れていると強力な魔法的再生能力を持ち、傷をたちどころに治す。
エネルギーとして脂肪を蓄えすぎているため、冬に北緯40度ぐらいまでしか南下できない。
細胞の魔法的再生能力により妊娠期間も一か月程度。
小さく産んで大きく育てる。
それでもやはり生物的に無理がかかるのか、普通の健常者は1割程度で奇形種や奇行種と呼ばれる未熟児も多い)
子供の大きさを大きくし過ぎると母体が危険だからという説があります。
種として存続している数少ない巨人です。
古来の神の戦争で作られた先兵ともいわれていますし、炎のムチを持ち、火山帯で熱を吸収して生きる、エネルギー体のファイヤジャイアントや10メートルになるシージャイアント(日本では海坊主と呼ばれる無毛の脂肪体)など、全ての巨人の元の素材だったとも言われています、ただ神通力と呼ばれる魔法を使います」
(地・火・水・風と古代帝国が作った分類や創った種族があるが、後の文化比較論者や生物分類学者や魔法文明考古学者がトロールを地の巨人に分類して風の巨人が見当たらなかった。
島国日本で神通力をさらに特化した巨人『鬼』が伝わり、その中で、これが西方で絶滅している風の巨人ではないかと言われる『天狗』が発見された。
神通力に特化していて、かなり小型化していた)
ダンは軍隊を止めて考えた。
「ザッファーラ、お前は手伝ってくれるのか」
ゆっくりとうなずいた、
「デューと私はティターンと戦う、他の者は娘達の保護を、そしてザッファーラは魔法使い達を殺してくれ。
いや、相手は魔法使いだ、催眠術などあるから、娘といえど信用するな、見張りはちゃんとつけていろ」
魔術師の塔に行けば、嗅覚や知覚が人間より鋭いコバロス達が二十人ほど槍を構えて待ち受けていた。
彼等はすぐに気付き手にした鐘をカランカランと激しく鳴らした。
「やかましーい」
アンリが叫んだ。
人間達もコバロス相手に不意がうてるなど思ってない。
百人ほどで庭を包囲するように、道から庭に出たときダンとアンリが左右に分かれた。
烏が翼を広げるように襲いかかった。
多勢に無勢。
一当たりしただけで半分程が殺されるか無力化されていた。
残ったコバロスは勇敢に槍を構えて向かってくるが、囲まれたあげく背中を切り付けられ、正面から切り付けられ、左右から切り付けられ、一分と立っていられなかった。
「扉を破れ」
アンリの号令一下、戦斧を主武器としている、人間が4人集まってきて、バッコンバッコンとそのまま扉を破壊した。
ダンと打ち合わせしているわけではないが、自然とアンリの方がダンを補助する役へと回っていった。
「ワー」
喚声と共に大して広くもない塔になだれこむ。
夜空に突然炎が発生した、半径2M程の火炎が形成され静かに降りてくる。
「デユー」
ダンが叫んだ、このまま火球を投げづけられれば、半分も塔の中に逃げ込めない。
舌打ちしながらデューが何事か素早く動き出す。火球は仲間であるコバロスが全滅した庭に向けて加速する。
突然ダンの馬となったクロが口を開けて突進した。
「心配ない」
ザッファーラが口にすると、クロが爆発し炎をまき散らすはずの火球を飲み込んだ。
吸い込んだと表現するのが近い。
デューの手の中で何かが形成されていたが、口をアングリと開けて何もなくなった空を見上げた。
「こんなの初めて見た」
ダンがおもわず口にした。
「食い溜めきくから、幾らでも食べる」
ザッファーラがクロに変わって答えた。
「行ってくる」
彼女は階段を使う事なく、ダガーを放って足場を何箇所か作ると、そのまま壁を上った。
魔法使い達が自分の得意で速効性のある魔法を放つが。
ザッファーラの剣で受けられたとき、本来効果を発揮する事なく、燃え尽きるように消えさり、切られて無くなったり、単純に抵抗され効果を現さなかったりした。
最後にはザッファーラの剣だけが残った。
ザッファーラが屋上に上ったときは激しく青白い輝きを放った。
「化け物め」
タイミングを見計らって小形の稲妻が瞬間的に走るが、1秒を百分の1するような時間の中で、ザッファーラは右手に握った細身の剣で正確に受けた。
魔法使いは魔法を霧散させる、僧侶は魔法を防御する。
この場で行われた奇跡は二つのどちらでもない、魔法は切られ、何の効果も成さずに死んだ。
そして雷は、ザッファーラの剣の上で明滅していた。
剣先を噛むと、口の中て撮後に輝いた後、アースされたかのように消えた。
ザッファーラの『笑った仮面の笑い』を見せた。
暗黒魔導師達は攻め手を失った。
これからの運命をまだ知らなかった。
ダンとデューが壊した玄関から入ると帝国兵が至る所で敵を圧倒している。
シャンリーの軍にあって、精鋭ばかりがついてきていた。
「殺し過ぎるな、油断するな。作戦中には昔の癖だして物を盗むなよ」
ダンがアンリに叫びながら2階にあがる。
アンリはそれに答えずに人を殺しながら地階へと降りていく。
2階の扉を開けて中に躍り出ると緋色の鐘を着た2Mを超える大男が槍を横に構えたっていた。
基本巨人は研磨石器しか作れないが個人で異種族である人間に武器や鎧を作ってもらうケースがある。
神通力の中のテレパスが発達して言語が発達しなかった。言葉を持たない訳ではなかったがサピエンスのように文字が表れなかった。
言葉による虚構を作る能力や脳領域が発達しなかった。
ハーフを介して文化交流や貿易があった。
ハーフは人間の言葉も話せた。
この巨人の鎧は人間の品よりも厚い、軽くて丈夫なのが理想だが、実際は鋼鉄で分厚いのが一番丈夫だ。
重い鎧を着ればスピードが落ちる。
何も着なければ早く動けるが弓矢に対して防御力を持たなくなる。
矢を切り落とすのが理想だが、現実は上手くはいかない、
戦いを生業とする者は、そのバランスに悩んでいる。
ある程度の力があれば、鎧の重さを苦にせず動ける時間帯がある。
ダンは鎧の厚さから敵の技量を量った。
『この男は強い』
「デュー、アレがティターンか」
剣を抜きながらダンが叫んだ、デューは黙って首を上下に動かした。
良く見れば鎧を着た男の死体が3体、魔法使い風の死体2つ転がっていた。
確認する暇はないが、恐らくはここまで辿り着いた冒険者一行なのだろう。
槍の穂先を刃の部分を利用して切りにきた、ダンは両手で剣を持ち直し、遠心力で振り回された槍先を剣で真っ向から直角に受けた。
衝撃が両雄の全身を駆け巡る、双方共に苦痛で顔を歪めた。
「ダン、助けるぞ」
アンリが剣を抜きながら、部屋に入ってきた。地下の散策は終えたか、大した敵はないと判断して誰かに任せたのか、ダンもその辺は判断できないし、興昧もない。
「来るな、お前のかなう相手ではない」
ダンが言い終わる前に巨人が半回転して槍の柄でアンリを突いた。
辛うじて盾で受け止めるがそのまま入り口に吹き飛ばされる。
「アンリ、無事か」
ダンは味方を案じながらも振りかぶってティターンを切りつた。
槍を戻して体制を立て直すことはできないため、そのまま槍の柄で降り下ろされる剣を直角に受けた。
「うおおおおお」
槍を両断して、そのまま巨人の左肩の鎧と鎖骨を砕いた。
殺せなかったのは神通力によって、ダン本体を吹き飛ばしたからだ。
壁に激突するところでデューが魔法の瞬間移動で間に入り、何等かの魔法的手段でダンの勢いを止めて静かに立たせた。
「デュー、敵に魔法を使わせるな、巨人は傷を直すぞ」
巨人は折れた槍を持って構えた。
「トロールではないから再生はしないでしょう、それに冒険者との戦いから癒えてないようです、連チャンで魔力は残ってない」
「信ずるぞ」
ダンが駆け出した。
巨人は使える右手だけて槍を大振りして、ダンの右胴をねらった、
ダンの鎧を砕き、肋骨にひびを入れた。それで終りである。
ダンもまた巨人同様分厚い鎧を着ている、さらに相手の遠心力の最大の攻撃ポイントの遥か内側まで突進してきた。殺傷力を持つポイントで攻撃をさせなかった。
ダンが降り下ろした一撃は首の付け根から分断を開始し、アバラをことごとく粉砕しながら腰骨盤にひっかかって止まった、傷口からは心臓がみえて、直摸噴水のような血を吹き出した。
「グワー」
短い時間苦しんだが、すぐに絶命する。
ダンはアバラの治療なしに屋上への階段をかけあがった。
ザッファーラは全員が到着する以前に全てを終らせていた。
5人の黒いローブの男が生きたまま壁に縫い付けられていた。
手や足を縫い付けているだけでない、心臓や喉のかなり際どい部分に軽くて細長い短剣が刺さっていて、心臓の動きにあわせてトクトクと小さく動いていた。
ザッファーラは手摺に腰掛けていた。
返り血一つ浴びていない。まるでザッファーラがやってくる前に、誰かが既に殺戮をしていたかのように静かな顔をしていた、
「苦しい、苦しい」
「痛い、辛い」
「喉が渇く、慈悲を与えてくれ」
まるで道に迷った亡者のような、低く尾を引くような声をあげた。
「罪のない娘を生贄にしておきながら、身勝手だぞ」
正義の怒りに燃えるアンリが答えた。
「ソフィアが用意した、仮の地獄というわけか」
ザッファーラの隣に縫いつけられた、目玉をくりぬかれた男が薄い笑いを浮かべた、彼だけはこの苦痛こそが被等の天国に導く儀式のように感じているようだ。
ザッファーラ少し幅のある針のような短剣を頭蓋の隙間に突き刺した。
「ギエー」
苦痛に悲鳴を上げるが、すぐにどこか愉悦へと変化させているようだ。
「お前の名は」
ザッファーラが口にした。
「ロルカ」
正直に答えた、短剣は脳昧噌まで達し、男の脳回路の正常な繋がり奪っていた。
男はここで全身から脂汗を流し始めた、このまま質問されていけば、神への背信行為を続けることになる、短剣はロルカと名乗る男の正常な判断力まで奪わなかった。
屋上にいる全員がザッファーラを見た、殺さずにこんな事ができるのか。
「ロルカよ、お前達は何者だ」
ダンが聞いた。
「お前達のいう所の暗黒魔導師だ」
神への裏切り行為に涙を流して答えた。それは彼等の言う地獄への儀式のようだった。
「目的は」
「我らは晴黒神フェンリルの復活。
だが、今所属する暗黒魔導師連合は反帝国で結び付いているのみ、目的などはない」
「コバロス達は?」
「異世界から肉を召喚したのだ、疫病の対策をキチンとれば5年で百万にはなるだろう、その際に我らに絶対的な忠誠心を持つように薬を混ぜていた」
「貴様らの活動拠点はどこだ」
「帝国内部に至る所にあるわ、もちろんアルカディアにも、教会が力を増している現実に絶望している人間も多い。彼等のタブーが学問の純粋なる探求を妨げている」
フッとデューが笑った。
「その名は」
騎士アンリが叫んだ。
「グワー」
ダンが心臓に刺さっている剣を抜いた。噴水のように血が噴出す。
「なぜだ」
アンリが叫んだ。
「これ以上は帝国内部に不信と不和の種をばらまくだけだ」
「裏切り者がいるのだぞ」
「旗色が悪くなれば、何食わぬ顔でこちらに寝返る。
追い詰め過ぎれば、変な玉を担ぎ出す。
慎重にならねばならない。
犠牲者は少なく押さえるのが最善と信じた」
ダンの発言はどこか間違っている、それでもあがらいがたい迫力を感じアンリが追及をやめた時だった。
「違うなダンお前は別の目的で抜いた」
デューが口にした。
他の剣士のすべてが気圧されるなかデューだけ薄い笑みを浮かベた。
「ザッファーラのために抜いた」
ダンはデューを見た、その視線だけで他の兵達は一歩さがった。
「相手の大きさがはっきりしない。
大物だったときは、かえってこちらのほうを攻撃してくる、『陥れるつもりだ』と叫び出し、しかもザッファーラの能力は証明できない。
現在の魔法技術で神話を説明しろというに等しい。
裁判の証言として有効ではない。
それならば、ザッファーラを政治の世界から守るために」
デューだけはダンを恐れていなかった、デューはダンをかなり理性的な人間で、暴発することはないと結論していた。
「考え過ぎだ」
一言だけ口にした。
「我々は古代の人間ではない、彼等に慈悲は」
アンリを中心とする罪深き騎士団オーダー・オブ・シンが集まってきた。
「シネー、コラー」
「娘達の復讐だ」
「楽には死なせんぞ」
罵声を浴びせながら、ザックザックと切り刻んでいた。
「ダン、私は」
ザッファーラは無表情だった、自分は無表情と口にするだろう。
でも、自信を完全に失っていた、ダンには気落ちしているのが分った。
「ザッファーラ、今はお前の時代だ、好きに生きろ」
ダンは肩に腕を回してザッファーラを抱いて降りた。
彼女は無表情だった、瞳は多くの物を語った。不思議そうにダンを見上げていた。
「今を生きている事に、罪悪感を抱かなくてもいい」
ザッファーラは黙って目をつぶった、彼女は感動しても涙など流さない。
一歩先に行くデューが口にした。
「思っていたより、人間的なんてすね」
ダンがザッファーラの耳の則で話していた会話も上級魔導師には筒ぬけだった。
「想像力の貧困な男だ、芸術活動かボランティアを勧めるが。
古代には神々の力があったのかもしれないが、人の営みは今と変わらない」
ダンが口にした
「私は帰ろうと思います。
誰かが娘達を送り届けねばならないでしょう。
金で買われた奴隷もいるかもしれないが、当面は保護すべきでしょう。
それに今回の働きが速やかに上層部に伝わるかどうかは、明日からの作戦行動を決める上で重要な事項でしょう」
デューが提案してくる。
「それは有り難い。でも皇女の方はいいのか」
「あなたとザッファーラがいれば大丈夫ですよ。
一応、さっきの件は報告をさせていただきます、皇太子がどういうアクションをとるか、私は分かりません、時に苛烈な判断をなさる方ですから」
申し訳なさそうにデューが口にした。
「それは構わない、あなたはあなたの義務を成すべきでしょう。
もし何かあるとすれば、それは私と皇太子の問題だ」
デューはこの時だけは、眩しそうにダンを見た。
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