第5話 コバロス
しかし、戦術・両翼包囲が成.り立つのか。
宿営所を設営が済むとシャンリー三世から偵察行動が言い渡される、
馬を持つ人間が主流だ、最近情報があてにならない。
そのため、確認作業二百人ほど借り出された。
ある意味では軍と憎報局の確執がある、
その中にダンも混ざっていた、
雲のように大地を覆う黒の集団。
天と地を切り裂く境界線がいつもより太い。
「包囲なんかできるのかよ、人数の桁が違うぞ」
ダンが嘆いた。
「何が「最右翼をまかせる」だ、帝国が5万を動かしたところで話になるか」
「あんまり正直に話すな」
クラスターが嫌な顔をしながら口にした
「帰るぞー」
ダンが口にした。
「お前、簡単に言うなよ」
クラスターは一応コバロスの集団を眺めた。
「もう、見るものはないだろう」
「魔法使いの数とか、調べなくていいのか」
一応、偵察任務をしようとクラスターは口にした。
「いるかよ、相手はコバロスだぞ。
アカデミーが闇との戦いを口にするが、オレは信じてない。
あいつらは金のある奴しか助けない」
「お前なー、少しは真面目にやれよ」
死線を共にしたこともあれば、友情も感じていた。シャンリー三世もコンビで動かしていたが、クラスターはダンの性格を今一つつかみ兼ねていた。
「近付けばばれるぞ。あいつら嘆覚だけは人間の一万倍だろう。
魔法使いが姿を消して近付かないのに。
オレ達が馬でホロホロと出ていって何ができるんだ」
「お前の言っていることは正しいけど、もう少し考えるふりをしろよ。
本当にガキじゃねえんだからよー」
「帰るぞ」
ダンが馬を切り返した。
「本当に人の話を聞かないな」
クラスターが同じく馬を切り返した。
両翼包囲とは右翼と左翼に機動力のある部隊を配置して、相手後方まて突出させて包囲する戦術で、包囲された側は中央の兵力が働かなくなるし、またある程度長い武器は使用しにくくなり、帝国は『アレクの剣』と呼ばれる短剣を正武採用していた。
帝国軍の右翼を受け持つシャンリー軍の中で、最右翼はシャンリー子飼いの騎士団『返り血部隊』が引き受けた、騎士のグラーフは家名を持たない男だが、シャンリー三世が第5次十字軍に帯同させた程の信頼を示している。
今はシャンリーの城の中で雇われているが、字の読み書きもできるらしく、兵土達の噂では『城持ち』にしてやるとシャンリーに言われている。騎馬を率いた用兵は右に出るものはなし、最もシャンリーの軍ではの話。
馬を扱わせればミリディアが最高なのだろうが。
シャンリー軍の左翼を率いるのはダン率いるストレンツオ軍。
各所に陣を張る帝国軍に皇太子からの手紙がきた。
「とても多くて、壮大な包囲網は完成しないだろう。
各人。已が受け持った戦場で分断しながら、包囲せん滅をかけよ」
妥当な判断だろう。
ダンはシャンリー三世軍の左翼を受け持ち敵の中央との分断を計り、2万から3万のコバロスをシャンリー軍全体で包囲しせん滅する、余力があれば更に同じ行為をする、ルーキーとは言わないが一番重要な役目ではないか。
『逃げのダン』という双名を持つほど首脳人の中でダンの評価は高い。
カストーナとの戦いにおいて逃げ回りながら戦線を維持した過去がある。
ダンはカストーナ軍2千人に対して3百人ほどかき集めた
もっともこの様なゲリラ戦はダンの地元マージア州に侵攻してきたカストーナに対して行われた、周囲の人間は地方のドンというか、マフィアに近い存在ではあるが、征服者違よりは相互扶助の概念があり、ダンの軍の補給や情報戦略を手伝った。
「『逃げ』の揮名は、退却戦を引き受けたからではないのか」
敵の大将が叫び出すほど見事な逃げっぷり、足止めが目的と判断して、裏をかこうと強引に行軍し砦の一つでも包囲しようかと思った。
ダンは義理堅い男で通っている。
籠城の男を見殺しにすること無く援軍にくるだろう。
ダンが指揮していた兵の数が少ないからと油断していれば、湖の側をカストーナ軍が行軍中に霧に紛れて襲いかかってきた。
ダンの方が一枚上手だった。
しかも川を背後に背負わせての包囲網を成功させ、中央はパニックをおこした、
ダンもこの時には近くの砦を根城にしているクラスターや、NDG(罪に汚れた騎士)のゾットなどに声を掛けて千人近くをかき集めたあげく、周囲に延焼を起こす炎の魔法でさらに分断し、随所で包囲殲滅を行った。
敵にもアカデミー出身の魔法使いがいて秋の終りの寒い中、水中呼吸をかけて湖の中を脱出するか、追撃を逃げ延びた総数は合計5百人しかいなかった。
当時ではかなりの規模である2千人を連れたから、魔法などの回復手段を持ってしても4分の3を失ったのだ、カストーナ王国の将軍は敗北をすれば結果責任をとらされる。
「一将の落ちは、一将の興り」
カストーナ王の前でこれだけの言葉を残し、隠居生活を送った。
「待つべきは待ち、退却すべきは速やかに退く、寡を持ってよく衆に当たる、後は籠城戦をこなせるか、まあ心配はあるまい」
皇帝自身がダンをたたえていた。
この戦いを「帝国の浮沈をかけた一戦」と口にして、皇帝自ら出馬したのだが、北の寒さと寄る年波には勝てずに陣中で風郷をひいた。
「お気の毒に」
白い息を吐きながらローブの襟を立てた。
「どこでもスタイルを変えない人だからな」
冷たい北風が二人の皮膚を刺す。
ダンが皇太子から派遣された下級魔法使いから話を聞くと二人はそれぞれ思いを口にした。
やはり帝国内部では皇帝は圧倒的なカリスマを誇っていたのだ。
「コバロスも数が多すぎて部族間の連携が取れてない。食料だけでつながっている」
ダンの所に派遣された魔法使いが偉そうな口を聞いているので余り好きになれなかった。
ダンも一軍の指揮者だし、魔法使いを利用して戦争もした。
断る理由もなかった。
「敵の大将は誰なんだ、
食料はどこから供給されている、奴等はメシの段取りを全然してない」
「フェンリル」
コバロスの信仰の対象である『吹雪をもたらす白い狼』。
彼らの祖先とされている。
古代の伝説において雷の神テユール、火吹き山の巨人スルトと神々の王の息子アドリアミと死闘を繰り返した、最強の暗黒神。
ただ、女神ソフィアが降臨する前の遠い世界の話。
「嘘だろう? 神話の世の話だ」
「だがそうでないならば、あの協調性ない集団がここまでまとまるとは思えない。
コバロスは知恵が足りない所はあるが、死を恐れない勇敢な戦士だ。
もちろん本物が時代を超えてやってきたとは思わない、
魔法的な知識が我々より少ないコバロスを騙している集団がいる」
魔法使いが口にした。
「何のため?」
「これだけの食科を揃えられるのは経済大国パレンシアだけだろう。
理曲は分からないが、彼らは大陸の統一を嫌う傾向がある。
しかし憶測であり、証拠はない。
北の食糧事情を考えれば、コバロスの大量発生は不自然だ。誰かが常用的に部族に対して食糧を配っているとしか思えない。
タダの連絡要員である下級魔法使いが、鼻息を荒くさせて講釈をたれた。
世の中のすべてを知っているかのように、魔法使いを嫌いではない。
信義を思んじる男を知っているが、どうも火を言葉でおこせるだけで、知識の深淵に触れたとカン違いしている人間が時折いる。
そういう魔法使いは嫌いだった。
「それともう一つは魔法共和国カステラヤが所有する飛空船だ。
魔法では内地に二十万のコバロスに食穫を供給するのは無理だろ。
最近古代の技術を復活させた魔法共和国の飛空船としか考えられない」
『いい鉄は釘にはならない』と口にして兵隊を軽んじる魔法使いがいるのも事実だ。
自分は外交の決定には関わらないくせに、外交通であるかと宣伝する。
商業国家ヴァレンシアではこんな小話がある。
憎侶と魔法使いの弟子が3年の修業とその成果を報告する再会を約束して別れた。
「強カな魔法を手にいれてくる」
魔法使いを目指したものは口にした。
「多くの人を救う」
僧侶が口にした。
約束は果たされた。
二人は出会い、話をしながら歩き出した。
二人の行く手には川が流れていた。
修業の成果かあったらしく魔法使いが川の上を歩き出した。
僧侶は近くにいた船乗りを銀貨一枚で雇った。
極端な語だが、彼の三年間は銀貨一枚だった。
「するとヴァレンシアとカステラヤ手を結んだ」
二つの国は新大陸、西の多島漉、泡立つ海、内海の征海圏をめぐってライバルだった。
外交を一介の騎士が心配しても始まらん、ようするに目の前の敵を叩く。
この魔法使いと旧交を暖めたいと思わなかったため、事務的に応対した。
戦争序盤、敵が連携してない箇所を見つける。
地平線がコバロスで埋め尽くされているし、連携していない場所が豊富にあった。
ダンは馬に乗って陣頭に.立っているがため息をついた。
「多い」
隣にいるクラスターに見るのも嫌という顔を向けた。
「硬派のくせに、文句が多い奴だな」
シャンリー軍の最右翼の返り血都隊が動き出した,,
「確かにな、少し黙って事務的にやるか」
ダンは右手を小さく上かち下へ動かした、ゆっくりと確実にストレンツオ軍が前進する。
訓練された軍隊が特別な指令がなくとも弓矢による攻撃を始める。
敵が混乱を始めたとき、軍に突撃をさせる。
まさに包丁で料理するかのように縄麗に分断が成功する。
ダンの指揮下に入っていたクラスターに溜め息をついた。
親子三代かかっているとはいえ見事な用兵。
自分の子飼い達が十年で追いつけないだろう。
クラスターはダンにコバロスが合流しないように騎兵を用いて撹乱する任務を与えられた。
ダンは分断した相手の後背まで軍を進めて、返り血部隊と合流。
そのまま攻撃をする。
戦術的な訓練もなく、ただ人数だけ集められたコバロスは巨大な円になる。
しかも中央は戦いに参加できないだけでなく、後ろに下がろうとする円周上のコバロス達に押されて圧殺死。
はっきり言えば、はるか昔・名将ビビア・ユーノスによって確立した包囲せん滅作戦であり、現在の帝国の軍事レベルは高地や砦を奪取する、機動戦術、華やかなりし時代。
訓練された兵、教育された将によって、有利な地形の取り合いをしている人間と、勇敢ではあるけれど隊列も組めないコバロスとでは、戦術レベルでも差があるのに。
装備されている兵器は、鉄の高温溶鉱炉による鍛練技術だけでなく、魔法的に跳び道具を打ち消したり、魔法を防いだりする魔法の盾を十人に1人の割合で渡されている。
正直言ってここまでコバロスが無能だとは思わないが、青銅を精練する技術さえなく、いまだに黒曜石といって鋭利な破片で出来ている石器を使っている、他国の傭兵ならともかく装備さえキチンと支給する帝国の相手では役不足だった。
コバロス側はシャンリーとの戦いだけで2万の兵力を失った。
シャンリー三世が失ったのは12名のみ、
被害からそこでおこったことを類推するに、包囲によって死人が続出したためコバロスが一か八かの掛けに出て、突撃を始めて。
その時おこった災害でシャンリー側に被害者が出たとしか考えられない。
オルトフレイムとの戦いや、第5回十字軍の敗北があり、いささかイライラしていたが点呼を終えた後、5名ほど帰ってきたという報告を受け、被害が二桁いかなかったと知りシャンリーが大きな声で笑った。
ダンは包囲が完了すれば、三代仕える古参の部下に指揮を任せて、供回りのものを何人か連れて、包囲されてないコバロスに突撃を開始していた。
練度の低いクラスター軍援護もあるが、ダンは魔法使いの言葉を確かめるため、コバロス軍の中に人間の指揮官を捜した。
証拠を示さなくては憶測の域を出ないが、周囲の状況から仮説を立てて証明する作業は帝国が大切にするプロセスの一つだ。
最近アカデミーは何も説明を行わずに、闇の恐怖だけを煽る。
それで帝国から高い予算を分捕っていく、仮説を立てたのならば証明する努力はするべきなのだ、カステラヤ共和国はともかくヴァレンシアとは良好な関係が続いている。
魔法使い達の方がはるかに年長者だから、皇帝陛下も気をつかっているが、影でアカデミーは他国からも援助を受けている。
ダンはドロドロした世界を一刀両断したいと考えていた。
だが口にしても始まらない、仮説を証明しようと今は努力した。
不幸なのはコバロスの方である。
ダンは敵の群れの中に馬を走らせた。通り道にいたコバロスが次々と殺されていく、もともと人間より身体能力が劣っている上にダンは人間社会において傑出した身体能力の持ち主。その上ダンは地理的に金がある貴族であり、鎧などは当時最高の魔法品を用意し、コバロスが装備している武器では貫通できる品ではなかった。
彼等も嘆覚や聴覚は人間を超えているし、敏捷度も移動速度も人間をはるかに凌駕している。上手に山岳地帯にでもおびきよせれば、人間以上の実力を発揮する。
戦略も戦術もなく大群を平地にかき集めただけで、彼等が身体的に劣っている部分で戦わなくてはならない。
警護のためについてきた部下達が、シャンリーに提出するために、ダンに戦闘不能にされたコパロスの首をはねていたが、腰のベルトにひっかけられなくなる程増えるとゴロゴロと小山のような首塚をあちこちに作り出した。山の数が最終的に20を超えた,
「コバ、コバ、」
それでも勇敢にもコバロス達は槍を構えて向かってくる、今回はホブコバロスという一際体格が大きく、力もある人間とのハーフが襲ってくるが、動物の皮をなめした皮鎧もなく、毛皮を体に巻いているだけ、ダンが馬上から槍で心臓を一突きしてホブコバロスは絶命した。ダンが求めていたのは人間の指導者だった。
「こいつではない…」
普通のコバロスより体重が2倍もあるホブコバロス串刺しにしたまま、片手で槍を掲げた。これには周囲にいたコバロスにも明らかに動揺が走った。
「お前達の指導者を出せ、食料を持ってきた人間の所まで案内しろ」
ダンが叫んだ。
魔法使い達が立てた仮説はともかく、狩猟を生業としているコバロスの一人当たりの生産力を考えれば、20万の軍隊を養えるはずがない。それだけは理解していた。
「コバコバ」
「コパコパー」
「コノ、コノ」
コバロス達は勇敢にも槍を構えて襲いかかってくる。ダンはホブコバロスのついた槍を振り回して、遠心力でどっかに飛ばすと近付いてくるコバロスを情け容赦なく切り殺していく、次第にダンの槍が届く範囲から遠巻きにした。
コバロスも狩猟を主流とするため
彼等も少ない主猟場を巡って争うことが多いのだ。
まして血縁集団による助け合いはともかく、福祉の概念はない。
彼等個人の勇猛さゆえに戦いもするが、一族に死者が多く出ているようならば、戦いの回避を始める。
身内の中に死者がでれば連れて帰ろうとするし、運搬が無理と判断すれば20センチほどの尻尾を切り取って、涙を流しながら戦線を離脱した。
コバロスにはコバロスの文化があり、愛があり、葬式があるのだろう。
比較的に余裕ができたダンは辺りを見渡した。
地平までコバロスで埋め尽くされていて、人間の姿は見えなかった。
ダンにも疲労が始まったと感じた。
敵の存在を確認できなかったが、体力がある内に陣まで戻る決断をした。
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