第4話 クラスター
ダンの軍団を待つ、1つの軍団があった、
団旗を見れば、クラスターの朗党だと気付いた。
ニコニコしながら一人の男が近付いてくる。
第5次十字軍でしんがりを引き受けた本当の人物。
ダンはこの男に巻き込まれたのである。
卒業証書とも書える、大変名誉ある短剣を頂いたその日、帝国から第5回十字軍の援軍を率いて王太子に渡してほしいと頼まれた。
断っても良かった。
ダンは本当の意味は援軍の団長ではなく補佐する役。
身分だけの貴族と違い、ダンは家に帰れば率いる兵がいる。
帝国がダンに学ばせようとしていたのは確かだ、だから依頼がきたのだ。多くの物事を経験させようとした。父観が優秀で健在だ、急いで帰る必要もなかった。
物見遊山と言うわけではないが、レアを見に行くことに決めた。
三十人以上いる卒業生の中で、自分を選んでもらえたのは名誉なことだと思い。
「分かりました。引き受けます」
直接の上司でもある、『軍人貴族』と呼ばれるマルーク・リャンシーの指揮も参考にしたいと考えていた。彼の下で働けるのは名誉な事だ。
ダンは名誉を重視する男だ。
リャンシー家、ポツリヌス家、ユーノス家、アレクシオ家、ダイミコー家、ガーディアン家が帝国議会を支配する六大貴族であり、富裕階級の一般議員と違い強力な拒否権を持っている。多くの荘園を所有し、帝国ほどではないにしても、その気になれば5干から一万の私兵をかき集める事ができる。
両翼包囲綱の戦術を作ったビビア・ユーノスの流れを汲むユーノス家と違い、戦闘色が弱い家柄で最大荘園を有する、帝国建国から存在する、由緒あるリャンシー家に生まれたのだから、好んで軍人にならなくても、生活に不白由しない議員には成れるだろうに、己を律し将軍職を夢見ている。
少年の日の憧れをそのまま引きずっている。
ダン個人はこういう人間は好きだ、素直に好感が持てる。
途中の宿泊地で上司であるマルークが腹痛をおこした。
これから風に削られた岩がフォークのように立っている、熱砂ではない内陸独特の水の少ない砂漠地帯、強風を誇る寒い北の砂漠を渡らねばならない。
連れては行けないと判断した。また援軍を欲しがる味方を考えれば新しい指揮官を待つ訳にもいかないし、道程の半分以上は来ていた。任地に遅れるわけには行かないから、ダン一人で代行して進むことになった。
向こうに行けば皇太子もいるし、経験を積んだ将軍もいる。
怖いのは援軍を察知した敵の部隊が各個撃破にでてくるぐらいか?
斥候をだしながら用心して進むと、味方が総崩れをして逃げ落ちる現場に遭遇した。
雇っていた騎馬民族ミリディアの裏切りにあい、東方のビビア・ユーノスと恐れられるコウ・シシンが吸血民族最強の将バロスの援軍に駆け付け、帝国の誇る鎮東探題マリウス卿が討ち死にした。
その結果、辺境伯シャンリー三世も皇太子も敗走を余儀なくされた。
後に聞けば、この遠征自体、帝国の巨大化を恐れる、宗教国家ソフィアーネのグレゴリウス教皇と、経済大国でもあり島国バレンシアの謀略であり、鎮東探題マリウス卿の個入的な名誉欲だったと王太子ボヘミアは総括していた。
マリウス卿は公正に欠き、味方のミリディアをかつての歴史を持ら出して「敵だ」とさけんで、辺境伯の意見には逆らい。
「では、マリウス卿は何をしたいのだね?」
皇太子が口にすると、吸血民族打倒の演説が始まる。
「軍隊は何をすればいいのだね」
と聞き返すと黙り込む。
奇妙な状態が織き、敵を包囲しているようで、猛将吸血鬼バロスは自分の得意とする時間帯に兵を率いて、何度となく迎撃に出て、好き勝手に暴れたあげく太陽が出るまでに城に帰り、人間の指揮官に城塞都市の防衛を任せた。
お陰で帝国軍の睡眠時間は昼になる始末。
シャンリーとボヘミアの間では、あの都市ぐらい攻略しないと格好がつかないぞと帰り支度の相談も行われていた。
その矢先に全てが行われた。
東といえば騎馬民族ミリディアの最前線であり、彼等が鐙を開発したとき、帝国は腰動部に力の入った人馬一体の一撃に対抗することができず、首都までも蹂躙された歴史はあった、それでも忘れて協力を求める政治力は欲しかった。
東方の客将コウは逃亡する帝国の追撃までは参加する気もなく、ミリディアも鎮東深題マリウスの首さえ取れれば吸血鬼にくみする理由はなかった。
ダンは昧方の敗北は知っていたが、兵を託すにたる将と会っていなかった。
彼も初めての経験であり、将軍職を目指しているマルーク卿の戦績に泥を塗るわけにはいかないという責任感が心を占め、いつもの知恵を鈍らせた。
指揮系統の混乱から、シャンリーや皇太子に出会えずウロウロしていたら、年寄りを引き連れて、丘の上で逆落としをかける段取りをしていたクラスターに出会った。
彼は味方を逃がすため、この戦いで死ぬ気でいた。
「お前、何やっているんだ」
クラスターがダンに怒鳴った。
「援軍を連れて来たのですが」
クラスターはダンを知っていたが、ダンは彼を知らなかった。
ダンが幸運だったのは昼間だからバロスが直接指揮してないことだった。
坂の下で帝国軍人が吸血民族レアの誇る、人間部隊によって殺されていた。
しかし皮肉な話だ、助けたい人達から侵略者として殺されていくなんて。
追撃しているほうも五人ぐらいの集団がまばらになって、一人の人間を捕殺していた。
「どうだ、今、オレが連れて来た媛軍で一当たりすれば、この辺の人間を救えるぞ」
ダンがニヤリと笑った。
「自分はソレを判断する任にない」
クラスターが口にした。
生きて帰れば出世は出来るだろうが、無理だろう。
ダンの軍隊があれば敵の追撃を防ぎきり、なおかつ生きて帰れるかもしれない。
その誘惑がありダンに対して「軍を率いて、すぐに戦線離脱せよ」と言えなかった。
クラスターも後半とはいえ三十代の男、若さとズル賢さがでた。
「抜刀」
ダンの叫びと共に帝国兵が剣を抜いた。
坂の下で展開される殺戮現場に切り込みをかけた。
降りてくるとは思っていなかったらしく、紺織的抵抗も無くあっさり逃げだした。
「追撃は許さない、動けるものには救助を、動けないものには慈悲を」
ダンは叫び、敵の逃亡を黙って許した。
ダンとクラスターが敵の追撃なしを確認して、帝国に帰還しようと坂を下りたとき、坂の上で馬のいななきが聞こえた。
ダンだけではない帝国兵のほとんどが坂の上を確認した。
自分達が陣取っていた、あの上から逆落としをかけるつもりだった。
「一番隊、二番隊は長槍を装備して四重列を作り敵の突撃に備えよ、残りは負傷兵と共に必ず帝国へ帰還せよ」
ダンが口にした。
「ダン、坂で受けられるのか、後少しで平地だ。それから隊列を組むわけには行かないのか、馬の重量は5百(キロ)はある、坂の勢いを合せれば、それ以上だ。
せめて、駆け足で平地まで下りてから……」
「クラスターさん」
ダンは相手の身分が分からないから、年上の男にそう呼び掛けた。
「敵の後輩を突く、それがあいつの狙いでしょう」
騎馬武者の集団で一際大きな肩装飾のある男を睨み付けながら口にした。
それが帝国軍を苦しめた敵将ペリクリウスだと知ったのは首を取ってからである。
ダンのような士官は帝国の士官学校を出るが、帝国兵は教練所で訓練を行う、徴兵されて武器を渡された民兵と訳が違う。
後で帝国の追跡調査が行われたとき、兵達はダンの判断は正しいと口にした。
帝国も色々な調査や研究を重ねたが、局地戦に置いて指揮官のカリスマ性と突撃をかけるタイミングが勝敗を決していると判断している。
やはり、戦争は将軍の持つ軍才に負う所が多いと判断していた。
「オレも残るぞ」
槍をもってクラスターが答えた、
「勝手にしろ」
ダンが笑った。
同時刻敵将ペリクリウスは魔法使いの進言を受けていた。
「帝国ご自慢の魔法の盾を持っているものが、一人もおりません。
ここは飛び道具で敵を消耗させましょう。
あるいは私が火球の魔法を使い、敵を混乱させましょう」
「追撃の目的は敵の背中を切ることだ。敵のしんがりによって妨害された、
私は坂の上に陣取った彼等を撃つのにためらいがあった、被害が増えるのではないか。
そして、少しだけ時を待った、だが彼等は十分に時を稼いだ。
帝国の置き土産であるしんがりは、せめて皆殺しにしないとな。
魔法で敵を攻撃しても、あの若者に逃げられる気がしてな」
ペリクリウスはダンを指差した、
「あなたの判断に従います」
魔法使いはそう答えた。
「突撃」
ペリクリウスが叫び、騎馬武者5百が地響きを立てる。
「構え、帝国軍人として誇りを示せ」
ダンが叫んだ。
最前列は片膝をつき、地面に柄を突き刺して、槍の先は降りてくる馬の首を狙った。
二番目は中腰になり、地面に柄を突き差して後ろ足で踏んで構えた、櫨の先で馬の眉間を狙った。
参列目は片足を出して、柄を後ろ足の踵に固定して棄馬している人間を狙った。槍の穂先にはフックが付いていて引っ掛けて落とせるようにもなっている。
最終列は一番長い槍を持ち、敵の頭の上に叩き下ろす。
「貴様、名を、名を名乗れ」
ペリクリウスは槍を構える千人の男達に叫んだ。
槍の壁に突撃するのだ、自分達も無傷ではすまない、
お互いの文明下において発達した回復魔法がこのような戦術を可能にした。
死なない事、局地戦に勝つこと。
この条件において、人は自分の怪我に対して乱暴な判断を行う。
「ダン・ジョウ・ストレンツオ」
槍を横に構えて列の前で、一人立っているダンが槍を構えながら叫んだ。
「貴様を殺す者の名だ」
このセリフは脚色されたものだと本人が言っているが、短い時間でここまでの会話はできないが。当時はかなり有名になった、格好良すぎるから敢えて入れさせてもらった。
だが、計算違いはペリクリウスにもあった。
ダンの槍の一撃が馬の胸部を、馬鎧ごと貫き後方上空へと押し上げたのだ。
吸血鬼の圧倒的な力を見憤れた彼等が心を奪われる光景だった。
しかも致命傷ではないが、馬を貫通した槍はペリクリウスの胴を傷つけている、
「うおおおおおおおおお」
ダンは剣を抜き落馬したペリクリウスめがけて襲いかかった。
ダンもここで勝つしか道はない、破綻した戦線、あるいは両翼で剣に持ち替えているが騎馬武者が降り下ろす剣に対抗できるはずもない。
ここでペリクリウスを討たねば味方は包囲されて終わる。
しんがりとしての役目は果たしたが、これで人生.を終われない、
生きられるものならば生きねばならない、それが自己の責任ではなく、病気や呪いや殺人によって命を奪われた者達への礼節だ。
将を守ろうとする剣が二本、ダンに向かって聾ってきた。
一本は正面から受けた、両手で握って降り下ろしため、鋭い剣檄によって自らの体が浮かび上がった。二本目は膝を曲げて空振りさせた。
敵の剣をはじき返したダンの剣は背中から敵の腹都を貫いた。
坂から降りた馬群は、将を守るために簡単には引き返せなかった。
「覚悟―」
ダンがペリクリウスの首をはねた時、敵の退却が始まった。
吸血鬼の奴隷戦土は個人で復讐戦をしかけるような忠誠心を見せない。
「上に政策あれば、下に対策あり」
と言われている国柄。
ダン個人の武勇によって総崩れになるが、追撃をかける馬のほうがダンの側になかった。
こうして戦場から無事に退却した。
「よお! 久し振りだな、親父は楽隠居か」
クラスターが陽気に声を掛けてきた。
マルークより人格的に劣っている、抜け目のない男をダンは結構気にいっていた、
大切な.戦友だと思っている、彼はダンの活躍を大袈裟に.宣伝していた。
「子作りらしい、若い頃は転戦ばかりしていたから」
クラスターは皇太子には嫌われていた。ダンをしんがりに巻き込んだからだ。
帝国は戦いの結果よりプロセスを大切にする。
結果はともかくクラスターの行為は背信行為ではと議論が巻き起こっている。
「男が4人もいるのにか」
クラスターはシャンリー三世に泣きついた。
シャンリーは仲裁に乗り出すが、クラスターには敵の領地を与えた。
クラスターは前向きに受けとり、ダンを頼った。
ダンは年の離れた戦友の頼みを聞き、商人のふりをして領地の拠点に百人ほどで潜入すると、そのまま乗っ取ってしまった。
要塞とは呼べない千人程度の都市だが、あまりの早業にクラスターが驚いたほどである、そこを軸に与えられた領地の支配権をジワジワ延ばしていた。
現在も彼の家族の身辺を警護させているのは、ダンから借りている百人であった。
「趣昧と実益を兼ねている、2番目は道楽者だ。あきらめている。
三番目のマリクは多少出来がいい、四番目は未知数だな」
ダンが少し考えながら答えた。
「俺も娘を処理せねばならない年になった」
「アンタの娘は五つだ、内の三男坊とお似合いだ」
「マリクの場合、母親が色々活動を始めている、血統をさらに高貴なものに変えていくみたいだぞ、おれの血では眼鏡に適わん」
クラスターが笑って口にした
「初耳だ。以外と人望があったのだな」
「昔から家に出入りしていた商人を使って、親戚と連絡を取り合っている。ノーマ帝国は閨閥(奥さんの家柄による派閥)が複雑でね。
オレ達には無い隠し球を持っている。義理とはいえお前の母親を悪く言うのは気が引けるのだが、腹を痛めたマリクヘの偏愛がひどい。
彼女個人の一度廃れた家を復活させた脅迫観念によるものだろうが」
ダンの姉アガサが当時猛威をふるった悪霊に取りつかれて死んだ。
実は毒殺ではないのかという噂が流れた、だからグラムは8歳のダンを戦場に連れまわしているのではないか。
「やめておけ、あの人も苦しんだ。姉が死ぬまで母に懐かなかったのも事実だ。
母も姉の死に涙を流した。母が姉の手を握ったのは死んでからだった。
姉は悪霊ラクススが世界にばらまいた、霊的胞子の被害者だ、それ以上でない」
「オレの娘なら8つに腰入れ、13になれば子供を作れ」
ダンが姉の死を悼むように静かに口にしていた、暗い話になってきたので努めて明るくクラスターが口にしてきた。
「オレには妻がいる、嫉妬深いからやめてくれ。
母上が親戚付き合いするのは悪い話ではない。だが悩みごとや、身の上を相談する精神的支柱が誰かが問題だ。母は私や父に心を開いてない。
思うが儘にならないのが世の中、複雑なのは隣人愛を蝕む、人の心の闇」
ダンの家庭はややこしい、深入りすれば思わぬ敵を作る。
「ザッファーラはお前さんが死ぬほど惚れているんだ。
悪い事は言わん。だが完全なる女ではない、男の役割として女をもて」
「何のことだ」
「悪い意味ではとらないでほしい、月のものがない」
ゆっくり目を向けた。
怒りではない、相手を計っている。ダンが時に見せる冷たい視線。
「なるほど、女の口に戸を建てるのは難しい」
「女ばかりではないだろう、父親も動きだしているぞ。
孫の顔が見たいらしい、長男が責任を果たそうとしない」
そういう年ではあるが、父親が本格的に動き出している。
「弟を養子にとるつもりだ、オレは血統が良くない。
帝国は嫌らしいところがある。弟は没落したとはいえ、帝国貴族の流れだ。
親父はオレが6歳の時まで傭兵隊長だった」
「スネる所は、まだガキだな」
「そう、思うならば結婚話だのやめておけ」
ダンの方が笑った。
「皮肉ばかり旨いな。帝国の士官学校でた中で全勝してるの同期ではお前ぐらいだろう」
「まだ1年しか経っていない。去年の北の戦で負けた人間だろう、あれは帝国皇室の作戦ミスだ。受け持った戦場ではみな勇戦したと聞いている。
不運だった。それに戦場に出てないのも半数いる」
「大臣のボンボンは近衛部隊とぬかしているが、一生戦場にはでない。
第5回十字軍のしんがりで激烈な一騎打ちまで演じたのはお前しかいない」
「運が良かった。オレも去年北の戦場にいれば敗残者だ」
「いい男だな、本当に。死んでいった者のために祈るのみか」
「生者の務めだ」
ダンがまた少し暗さを伴う、真剣な顔に戻った。
「話は変わるがクラスターさんは野生のコバロスと戦った事はあるんですか」
「あるよ、ダンはないのかい?」
「戦争はないな、士官学校で傭兵部隊と模擬戦闘をしたことがある。
遊びだよ」
「会ったことはあるんだろう」
「そりゃあ、家で宝物庫の番で何十人と雇っている」
「番犬で飼っているとは言わないんだな」
「言葉も話すし、索敵でも役に立つ。
人間と違って風下から近づいても鉄の臭いを嗅ぎつける」
「知恵が足りなくて、会話が噛み合わないぞ」
「それでも知的生命体だ、人格は尊重せねばならない」
「そういうもっとも弱きものへ手を伸ばすのが、お前のカリスマ性なんだな」
ダンは右手を上げて話を制した。
「それより、コバロスの戦闘お話を聞かせてくれ」
「う~ん。一番印象に残っているのは
「裏切る? 傭兵だろ」
「もともと狩猟採集民族で定住していなかった。強いとは言わないが集団になれば独特の個性があり、帝国は農業を教えて定住さえさせてみた」
「上手くいかなかったのか」
基本的に文化も違った。
コバロスは自力では破砕石器しかつれなかった。
巨人たちのように研磨石器まで作れなかった。
飛び道具も投げやりが限界で弓矢は作れるどころか使うこともできなかった。
そんな彼らが農機具を扱えるようには思えなかった。
「食料の援助などしていたみたいだけど、部族の間で不満が爆発した。
ダンジョンで発生した魔族が侵攻してきた時、彼らは魔族の側についた」
悲しい話だ。
自分達は良かれと思ってしたことなのに相手のプライドを傷つけていた。
「自由のために《フォー リバティ》」
ダンは少し考えた。
両方の言い分がわかる。
「親人間派の長老を殺して部族を牛耳ったのは、リアードと呼ばれるホブコバロスだった」
ホブコバロスは人間とコバロスとのハーフである。
もともとコバロスは結婚制度がない。
部族内の乱婚でフリーセックスが文化なのだ。
男はどの子に対しても父親として振る舞う、母系家族。
コバロスはリーダー的な人間に対しても性的に興奮するのである。
ペニスもキノコ型ではなくチンパンジーに近いペンシル型なのだ。
ホブコバロスは人間社会では受け入れられなかった。
体高は120センチで子供のように役立たずだったが、体高60センチのコバロス社会では優秀な戦士であり、労働力として歓迎された。
口蓋の関係で上手に人間の言葉を話せないコバロスと違い、ホブコバロスは人間とコバロス両方の言葉を流暢に話せたため通訳や貿易商人にもなれた。
「帝国サイドの軍師もろくでもない男で『見せしめに村を焼き払え』と命令してきた。
主力は魔族と戦わねばならないから、俺が別動隊を率いて火つけ盗賊。
そんなに数もいなかったし新参者でよかったみたい」
「こちらの動きを嗅ぎつけたリアードが部族の戦士を率いてたちはだかった。
俺たちの目の前で横一列になると、
『コバロスはいずれ人間に滅ぼされるかもしれない』
ホブコバロスが演説を始めた。
コイツがリアードだとすぐにわかった。
『だが、今ではない。
今日は戦いの日だ《トゥディズ ファイティングデイ》
戦いの日だ《ファイティングデイ》』
一枚だけ黒地に金糸で『L』と書かれたリバティ旗があがったよ。
そういうと一列の兵隊が槍を掲げてきた。
リアードが目の前を走り出して槍をはじき出した。
甲高い音がしたよ。
コバロス達が『リアード』『リアード』『リアード』といって絶叫したよ。
すごい勢いで俺は防御陣形を命令するのが精一杯だった。
魔法後進国だし、もともと火をつける気でいたから
燃えながら奴らは後退せずに前進してきた。
全員前のめりに倒れていった。
誰も尻もちをつく者はいなかった。
倒れる燃える旗を動けるものが何度も拾いながら『自由のために《フォー リバティ》』と叫びながら向かってくる。
生きた心地はしなかった」
「コバロスの軍隊がそんなに凄いとは思えなかった。定住への実験が一所懸命の精神を与えたのかもしれんな」
「話には続きがある。
誰も背中を向けた者はいなかった、全滅させて村に行ったんだが、年老いた一人のコバロスが現れて自分の首一つでかんべんしてくれと首に縄をつけて膝まずいた。
村人全員出てきた。
逃げないで自分たちの村を守るということに人間より純粋だった。
まあ、先の戦いで魔力も切れてたし、毒を抜かれていたから『殺す気はない』と宣言した。
すると『勇敢でしたか』と聞いてくる。
『とても』と返事をすると。
年老いたコバロスが立ち上がって『貴方の息子は勇敢でした。貴方の父は強かった。貴方の夫は立派だった』と叫ぶと村のコバロスが『ブレーブス』と叫んで喜びだした。
俺は『逃げろ』」としか言えなかった」
「純粋な種族に道徳を与えることは残酷なことかもしれないな」
「普通のコバロスは個体が生きるための何でもするがな。
話し合って彼らは狩猟採集民族に戻ると約束してくれた。
農耕をやめたら人口が維持できるかどうか、ソフィアの道徳を受け入れて一夫一妻制を受け入れたし、子供を奴隷として売る野蛮も改めさせていた。
もともと部族同士が出会うと若いメスの交換をしていたらしく、森に散らばる部族たちと分散、合流するといっていた。
とりあえず俺にも役目があるんで村には火をかけさせてもらった。
誰も殺しはしなかったし、当面の生活道具をまとめる時間も与えた。
当面は近くの洞窟に移動するらしい」
「そうなると昔の文化に戻れた方が幸せな気がする」
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