41.報告

「まさか、あんな形でみとめさせてしまうなんて、さすがシンラ王子ですね」

 ロデーヌもそう関心する。計画は五人に打ち明けており、ミケアが地下牢に訪ねてきたのも、進捗を確認するためだった。暗号、符牒で準備がととのっていることは事前に知っていたので、オレも安心していられた。

 ちなみに、ロデーヌは最後までユウエンの説得にあたってくれたのだ。

「これで国民の支持の下、オレが父王に会うことが承諾された形だよね?」

 エグニスは憮然として、先に立って歩く。その隣にいるウェリオ第二王子も、同様だ。行政府を率いる二人は、オルラ王とも会っているはずで、彼らの案内で会うことになっていた。

「地下……?」

 深く潜っていった先、そこに父王はいた。まさに『いた」というだけの存在として、そこにあった。

「い・え・い?」

 ロデーヌも唖然としている。まだ若い姿で肖像画が描かれており、初めてみる父の姿であったけれど、実感が湧きにくい。それに、もう死んでいた……?

「いつ亡くなったの?」

「もう二十年以上になる」ウェリオがそう答えた。

「え? じゃあ、ボクたちの父親は……オルラ王じゃない?」

「私だよ」

 そこに現れたのは、勇壮な体躯をもった、高齢の人物だった。ロデーヌがハッと気づく。

「ヴァルガ……おじい様?」

「そう。だが、おじい様ではない。オマエたちの親でもある」


 かいつまんで説明すると、悪政を指摘されたヴァルガ王は、このままでは国が分裂するとして、院政を布くことになった。でも、そのままでは通用しない。そこで〝千夜の獄〟と呼ばれる王が突然、行方不明になる自作自演をとった。そしてオルラが王位を継承、エグニスが摂政と二人の息子がそれぞれ立場を別け、父であるヴァルガを支えようとした。

 しかし……「オルラがすぐ亡くなったのだよ」

 エグニスはすでに臣籍降下しており、王位に復位する手もあったが、そうした強引な手法をとると、その後も国が混乱する可能性があった。また行政府の手綱がなくなることが心配された。それでオルラの死を隠ぺいすることとし、王としての子づくりをヴァルガが果たすことになったのだ。

「じゃあ、ヴァルガ王の孫だと思っていたけれど、実は全員、子……。エグニスも兄さん?」

 衝撃だったけれど、オルラが表にでず、子づくりだけに専念していた理由がこれで分かった。しかも、ヴァルガ前王の意向をうけて行政をエグニスと、ウェリオが動かしているのだから、何の問題もなかったのだ。

「オルラと関係する……と思って結婚した女性たちには悪いことをしたが、みな私との関係を了承し、他言無用との契約にも合意してもらった」

 女性たちからすれば、若い王ではなかったけれど、体格のいいヴァルガなら、王族との子づくりでも問題はなかった。だから正妻が多く、愛妾が少なかった。何しろ、そんな契約を結ばないといけないのだから、口が堅い、身元が確実な者しか、そうなれなかったのだ。

 でも、自ら撒いた種とはいえ……子種もよくばら撒いたものだ。この年齢になるまで五男、七姫をもうけたのだから……。


「エグニス伯父さん……否、兄さんはそれでよかったの? 今からでも王位継承権を主張することができたのに……」

「オルラ兄さんに王位を譲った時点で、私は摂政としてこの国を取り仕切ろう、と自分の立ち位置を決めた。それ以上でも、以下でもない」

 なるほど、秩序の破壊者として、オレを即排除しようとしたのも、こうした頑固な一面がそうさせた、と思えた。

「ウェリオ兄さんも知っていたんだね……」

「エグニスがここまで来られないとき、私が対応していたからね。ブルーガ兄さんは知らないよ。あの人は、口が軽いところもあるからね。特に、奥さんには……」

 ブルーガがハーミナの尻に敷かれている、という噂は本当のことらしい。本人が武人として筋骨隆々、上意下達で軍をまとめ上げていることを考えると、外弁慶という印象すら抱いてしまう。

「でも、どうしてオレが面会することを認めてくれたの?」

 それにはヴァルガが応じた。

「オマエの行状を見聞きする限り、もっとも私の血を濃く継いでいる……。そう思えたからだよ」

「それは無茶をする、ということ?」

「ふ……、周りにはそう見えても、意外と本人はできる、と思っている。オマエだってそうだろう? 自分を罪に問わせておいて、それをひっくり返す策を考えているなど、周りは必ず反対する。でも、自分ではできる、と考える。自信もある。私たちの共通点は、そういうことだ」


 なるほど、親近感をうけたのかもしれない。容姿が似ている、とは思いたくないけれど、性格は似ている、と感じた。でもそれは、あくまでオレ……のはずだ。中身は自分の息子ではない。それを知ったら、どう思うかはナゾだった。

「でも、どうして〝千夜の獄〟なんか……?」

「言っただろ? 私はできる、と思った。大陸進出だよ。今や、このオノガル国は小さな島、そこを領地とするだけとなった。だからもう一度、大陸に進出しようと考えた。そのために税を増やし、兵役も強化した。これで大陸の領土をとれれば、国民も納得する、と考えて……。でも、上手くいかなかった……。その結果、国民には怨嗟だけが残った。私が王位をつづけることすら困難なほど、国が荒れてしまったのだ。これが冒険のツケ、だよ」

 オレとて、上手くいかなかったら処刑されていたかもしれないのだ。さすがに、首に縄をかけられたときは、正直ドキッとした。オレは一般人であり、市場に携わることで、多少の度胸はついているつもりだけれど、命を懸けるとなったら、話は別、となる。

「オマエの方こそ、どうして私と会おうとした? 命をかけてまで」

 オレはロデーヌと顔を見合わす。

「だって、伝えるのが自然だろ」オレはそういって、ロデーヌの肩を抱いた。

「オレたち、結婚しました」

 歪な形であるけれど、親に結婚報告をする。それを成し遂げることができて、オレたちも晴れて夫婦となれたような気がしていた。



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