39.国家反逆罪
これまで、父王とは一度も会っていない。城の奥深くで、今でもせっせと子づくりしている、と聞いている。
政治は摂政である弟のエグニスに任せ、公にでてくることもない。
子供たちにも会わないので、どれだけ引きこもりか? という疑念もある。いくら何でも、王が誰とも会わず国がまわっていくことは不自然に過ぎるからだ。
「父王と会えるのかな?」
「私も会ったことありません。母に聞いたこともありますが、教えてもらえませんでした」
ロデーヌもそういって、首をかしげる。妻や愛妾でさえ表にでてくることは滅多にないので、それも不思議だ。
「会ったことある人、いるのかな?」
「身のお世話も専用の兵が行っていますし……。エグニス伯父様なら、最近でも会っているのではないかしら?」
息子のヤルハンが殺されてから、あまり表に出て来なくなった、ともされるエグニスだけれど、やはり会う必要があるのかもしれない。それはシンラ王子の今後にとっても、重要となるはずだった。
「王族の方から『会いたい』といわれれば、会うしかありません。行政府はあくまで王と、王族の方の意志を、政治として反映させる立場なのですから」
エグニスはそういった。兄であるオルラに男子が生まれた時点で、彼は王族を下ろされている。王族であっても貴族という扱いなのだ。オレが面会を申し出ると、存外あっさりと承諾された。
「父王に会いたいのですが……」
「ムリです」
存外あっさりと拒否された。
「何か理由があるのですか?」
「王が会いたがらないからです」
「自分の息子にも?」
「娘であろうと、王は人に会いません」
「女性とは子づくりするのに?」
殺されかねないほどの厳しい瞳で睨まれた。これが王族でなかったら、実際に不敬罪とやらに問われたのかもしれない。
「それとこれとは別……です」
「むしろ、オレはある疑念をもっているんですよ。父王は……生きているの?」
オレは地下牢にいた。不敬罪どころか、国家反逆罪にすら問われかねないことを口走ったから……だそうだ。
でも、父の生死を確認することが、国家反逆罪か? ここまで徹底されていると、逆に疑いも深まる。ただ、それを確認することはできなさそうだ。何しろ、オレは明日には処刑されるらしい。
何より、議会も抵抗することがない。渡りに船……どころか、飛んで火に入る……となったのだ。用奴を愛妾としたことで、オレを追放しようとしていた議会にとっては、まさに面倒な立法手続きをせずに、排除できるのだから……。
オレは魔法がつかえることが知られており、杖を取り上げられ、牢獄にいる。かつてミケアを連れ出すために、忍びこんだあの場所だ。
「……で、私を呼んだの?」
呼びだしに応じて面会にきたのは、そのミケアである。
「ここでの過ごし方を聞いておこうと思ってね」
「明日には処刑されるんでしょ? 時間なんて、あっという間よ」
「もう少し満喫したいところだけれど……。みんなはどう?」
「アダルナは、次の就職先を探し始めたわ。ロデーヌは、あなたが処刑される前に離婚しようと、今は根回しに走り回っています。ユイサは自分のせいだと、泣き濡れています」
「それは悪いことをしたね。彼女に『よろしく』と伝えてくれ」
ミケアはそれを聞くと、静かに地下牢を後にしていた。
オレは目を覚ますと、自分の部屋にいた。自分の……とは、元の世界の部屋ということだ。
そこに、一枚の手紙があった。オレが向こうの世界で、ふつうに話ができるように、シンラ王子もこちらの言葉をつかう。というより、体を入れ替えているので、言語が相手の世界のそれに馴染んでおり、そのままつかえる、ということのようだ。
『そちらの状況が悪くなっているようだね。でも、ボクは君を責めるつもりはない。むしろ良い方向にしてくれた、と思っている。だけど、君の世界の事情はそうもいかなくなった。
キミが守った命が燃え尽きそうだ。間に合わなくなるかもしれない。キミが異世界でやったこと、考えてみて』
そんなことが書かれていた。三日月が……。彼女は大切な後輩であり、彼女に付きまとっていたストーカーから彼女を守ろうとしたのだけれど、彼女も襲われて、意識不明の重体に陥っていた。
愈々、峠か……。それはまるで、異世界でのシンラ王子の状況に似る。絶体絶命、そんな事態だからだ。
でも、シンラ王子はそれを責めない、という。自分の体が処刑されようとしているというのに、それが『良い方向』だって? それとも知らないのか? そんなはずはあるまい。彼がコントロールし、異世界と行き来できる以上、状況についても知っているはずだ。自殺願望でもあるのか? それとも……。
ふと目を覚ます。今回は、短期のもどりだったようで、一晩も経っていない。やはりこの交換生活は管理されている……そう感じた。
異世界での苦境に一言いいたくなった……のかもしれない。
しかし三日月を救うための、気づき……? 訳が分からないけれど、今は処刑の日の朝を迎えるのだ。
「出ろ」
衛兵も、王族への処刑ということで、緊張してそう声をかけてきた。
あまり余計なことをしないうちに、すぐ処分してしまおう、という動きがこんな速い処分になっている。
処刑は見世物、興行でもある。特にそれが王族で、かつ数日前には婚姻パレードをした、まだ年若い王子というのだから、世間の耳目を集める。
といっても動きが早くて、この城まで見物にくる他の町の住民もいないだろう。城に仕える職員と、城の近くの港町ミノスの住民が見物者の中心だ。
王族の処刑は、まず首に縄をかけた状態でその罪状を読み上げ、民衆が死刑を宣告すれば、そのまま台がパタンと開いて、ぶら下がる。否とすれば、さらに別の罪状を読み上げて……という形で、死刑をエンタメにした民衆参加型ですすむのが、これまでの慣例だ。
貴族であるジャモニックも、慣例破りまではできなかったようで、オレの処刑方法もそういう形となった。
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