30.大暴れ

「我々は別に、反体制というわけではないのですよ。でも、今の国の税制には不満がある。だからカズロワ家と協力し、国にプレッシャーを与えているのです」

 高齢で、この中のまとめ役と思われる男がそう話す。

「それだけじゃなく、アンタたちがせっかく得た貧しい農民の土地を、私財として永年にわたって認めて欲しい、ということだろ?」

「シンラ王子は話が早くて助かります」

「それをオレが受け入れれば、パレードを認めよう、と?」

「邪魔はしません」

「でも、オレは第五王子だよ。そんな権利、もち得ていない」

「ブルーガ王子と、ウェリオ王子の諍いを止めた、アナタの調整力、政治力に期待しているのですよ。我々としても、将来性のあるアナタと、少しでも交流をもっておきたい、と……」

「商売人だね」

「損得勘定をしているだけですよ」

 ここでパレードができ、国内に対して王族同士の結婚を行き渡らせれば、オレの政治力が増すことは確実だ。拙い影響かもしれないけれど、そんなオレと手を組んでおく、というのが彼らの意志のようだった。

「でも、生憎とオレはアンタたちと組む気はない。なぜなら、それでもパレードを成功させられる、と思っているからだ」

 民連の会長は、驚いてオレの顔をみつめる。

「上に居座り、自分たちの権利を守り、権力にすり寄ってくる奴らなど、国にとって害悪でしかない。オレはそういう連中を嫌、というほど見てきた」

 勿論、元の世界の話である。お金を扱いだすと、そういう連中ばかりを相手にすることになる。

「オノガル国は土地の私有をみとめているが、農地については国により取引が制限されてきたはずだ。それは農民が土地を失い、流亡するのを防ぐため……。

 でも、何でこの町では簡単に土地取引ができたのかな? そんな連中と組んで、パレードを成功させたところで、獅子身中の虫を飼うようなもの。オレが権力を握ろうが、握るまいが、この国にとっていいことなど一つもない」


 口をあんぐりと開けているのは、隣のアダルナも同じだ。何しろ協力を得ないといけない相手に、ケンカを売っているのだ。

「この町から、無事に出られると思うなよ!」

 民連の会長は、目を険しくして脅しをかけてくる。広い会議室には、武装した兵たちが雪崩れこんできた。でも、それは魔法をつかえるオレには逆効果だ。

「この町を出る? まだ出るつもりはない。その前に、オマエたちこそ町でぬくぬくとしていられると思うなよ!」

 それからのことは、簡単に書くとオレが大暴れした、という一言に尽きる。民連会長の家や、大地主の家などを、オレが魔法で焼き払ったのだ。

 それを防ぐはずの町の傭兵団が機能しなかったのには、理由があった。

 南方の港町、ミノスの近くで農業を営んでいた人々に、オレは農業指導を行っている。そして、それが確実に収量を上げつつあり、その評判は農民の間で、この町にも知れていたのだ。土地を失い、地主に搾取される側だった彼らにとって、農業改革をすすめるオレが救世主にみえた。それで、上意下達の地主たちの命令を拒絶、オレについてくれた。

 それに協力してくれたのが、ミケアだった。

 彼女はこの町の出身で、オレを暗殺しようとしたのも民連に命じられたから。家族を人質にとられ、拒否することなどできるはずもない。だから彼女は身分を明かさなかったし、これまでも暗殺を目的としてきた。

 ただ、オレが愛妾としたことで彼女の立場が変わる。それは「すぐに殺せ」から、「いつでも殺せるから待て」に命令がきり替わったのだ。

 だから彼女は仕掛けて来なくなった。そして、オレに使い道がありそうだ……となり、彼らはミケアに橋渡しを依頼し、オレは民連の会長と会うことができた。それが一連の経緯である。


 ただ、ミケアは民連を裏切り、町の人々を説得してくれた。民連に恨みをもつ者も多く、案外すんなり受け入れてもらえる。

 そして傭兵がオレを制しなかったばかりでなく、アダルナも大暴れに付き合った。恐らく半分はヤケ。町にケンカを売ったからには、無事に脱出するには破壊するしかない。その結果、スムーズに豪邸を灰……否、炭にできた。

 領主のヨーミテも逃げだしてしまい、大地主たち、民連の幹部連中も去った。そこでオレはウリムラにとどまり、土地の再分割や農業指導を行うことにした。マルチという黒いビニールをかけ、地温を上げて植物を育ちやすくする、といった耕作方法を伝授する。その黒いビニールに相当するのが、豪邸を焼いてつくった、黒い炭なのである。

 そう、この町は塹壕を掘ったり、木を切って柵にしたり、という形でも土地を壊し続けたことも、収量を下げた原因なのだ。それを炭を被せた土地で、改善をはかろうというのである。

 そうこうするうち、行政府からの調査員と、ブルーガ親衛隊が到着した。この国で警察権は軍隊が握っており、親衛隊はウリムラでおきた大暴れ事件を調査にきたのである。


「まさか……。たった二人でこの町を壊滅させたのか?」

 部隊を率いてきたクォール・フェルマンはそういって、唖然とする。

「二人じゃない。三人だよ」

 オレが愛妾であるミケアもその一人だというと、ますます訝しそうな顔をする。

「どんな要塞でも、内側から壊すのは簡単」

 オレは竹中半兵衛が斎藤家に仕えていた際、稲葉山城をとった逸話、もしくはトロイの木馬を思い出していた。

「ブルーガ様からの命だ。すぐに城にもどってこい、と……」

「ヤレヤレ……。今回のこと、軍による手柄にでもするつもりかい?」

「ブルーガ様は、そんな狭量な方ではない。王族……つまり君が、貴族から訴えられた。すぐにもどって議会工作をしないと、大変なことになるぞ」

 貴族はこの国で、国の議会の議員をつとめる。貴族と敵対する、ということは議会とも敵対する、ということ。つまり貴族の一部、できれば多数を味方につけないと、訴訟でも負けるかもしれない、とそれは告げている。これから真の政治力を試されるのかもしれなかった。


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