27.パレードをしよう
目を覚ますと、隣にはロデーヌが全裸で寝ていた。全裸のまま治療をして、そのままオレも寝てしまった。傍らにはユイサも横になっており、みんなでそのまま眠ってしまったのだ。
実は、この治療法を提案してきたのは、本物のシンラ王子だ。ギヨンドワーナ国へと向かう船旅の最終日、目覚めたオレに手紙がのこっていた。
全文は割愛するけれど、ロデーヌとともに旅をしていることを知り、ロデーヌを救う方法として、こうした魔法を提案してきたのだ。ただ、それは非常に難しいものであり、また彼女の女性性を強くひきださないといけない……とも書いてあった。
オレも最初、その意味が分からなかったけれど、彼女の病気を聞いて、また向こうの世界の常識と照らして、彼女が脳腫瘍だと気づく。そこで粒子ビーム治療を思い出して、合点がいった。彼女に魔法をすすめたのも、二本の魔法杖を駆使するため。しかもそのうち一本は、彼女が一度でも魔力を通したものが適している、とのこと。魔力の親和性が高くなるそうだ。
シンラ王子の魔法は詠唱という形をとるため、オレも苦労してそれを憶え、そして用いた。透視のような魔法は闇属性にあたり、中々難しかったけれど、それをこなせば、後は神経をつかうビームの制御と、位置の調整だけ。そこはオレの集中力の問題なので、後はオレの努力次第……ということであった。
ロデーヌも目を覚ます。昨晩の治療のことを伝える。まだ完治はしておらず、これからも続けること。そして当分、彼女は体調が悪くなること……。
それは脳内から異物を取り除くといっても、そこにあったものが縮んでいくのだから、健康な部位にも少なからぬ影響を与えるはずだった。
「分かりました。覚悟していたことですから……」気丈にそういうけれど、それからしばらく寝込むことになる。
オレはその間、結婚に向けた根回しをすすめる。王族の結婚は、本人たちが同意していようと、それでできるわけではない。
アダルナとともに行政府へ向かい、摂政であるエグニス、内政符の長官である第二王子のウェリオと会うことになった。
「本来、父君であるオルラ王の許可が必要ですが、今のところ王は息子たちの婚姻には口出ししない方針です。なので、この行政府がみとめれば、許可をだすことはできます。ただ……」
エグニスは難しい顔をする。
「王族同士の結婚は、古式にのっとり、儀式をすすめるなど、貴族との婚姻では行われない、色々な制約もあります」
「それは分かっています。一応、儀式については調べましたが、国の方からも支援は受けられるのでしょう?」
会話は基本、アダルナがする。シンラ王子の母は、第四姫が貴族へと嫁ぐ際、一緒に城を離れており、後見人はアダルナだからだ。
「基本、支出は国が行いますが、難しいのはパレードです」
「パレード……?」
「国民にお披露目のために、都市ごとにパレードをするのですよ。でも、今はウリムラが政情不安で……」
前王、ヴァルガが悪政を布いたこともあり、国内は一見平穏にみえるけれど、かなり荒れている都市もあった。それは国体を傾けさせるほどではなくとも、反乱に近い状態でもあった。
「そこを抜いて……とはできませんか?」
「王族同士で婚姻するとき、一部でも都市を回避すれば、そこは王政に従っていないと、こちらから独立をみとめるようなものです」
ただでなくとも小国であるオノガルは、それほど都市の数も多くない。逆にいえば一部でも独立し、その支配に従わないときのダメージは大きく、国が崩壊しかねないほどのリスクとなる。
そのとき、ウェリオが口をはさんできた。
「まさかオマエが王族同士で結婚するとはな……」
その攻撃的な口調に、自然とオレの言葉づかいも荒くなる。
「どういうことだい?」
「その手をつかうのは、ユウエンだと思っていたからだよ。だから同じ年ごろの姫の結婚を急がせた……。国の治安が乱れていて、それを治める上で、貴族の協力を得るため……との口実もあったからな」
エグニスが横で仏頂面を浮かべ、ウェリオを睨むのも、そうした戦略を喋ることへの不満だろう。行政官として、エグニスとウェリオはそうした裏工作も進めやすかったはずだ。
「なるほど、ロデーヌは同母であり、その対象から外されていた。そこにオレが乗った……と、オマエたちは考えたわけだ」
「そうじゃないのか?」
「所詮、第五王子のオレが王族同士で結婚をしたところで、四人の兄を飛び越して、王位につけるはずないじゃないか。そう思っていたから、オレとロデーヌの視察旅行も許可したんだろ?」
「相変わらず、口の減らない奴だ……」
「それで世渡りしているもので。でも、ウェリオ兄さんだって、そうすれば王位継承レースを優位に戦えただろうに……」
「ふ……。それで、望みもしない相手と結婚する、だと?」
ユウエンは王位を継ぐためなら「何でもする」と言っていた。ウェリオが「ユウエンなら……」というのも、頷ける気がした。
「オレも同じさ。別に、打算で結婚するわけじゃない。偶々、結婚したいと思った相手が妹だった、ということだよ」
「ま、いいだろう。でも、儀式は行ってもらう。もしそれをしないなら、結婚はみとめない。それが我々の総意だ」
行政府にみとめられなければ、国の協力も得られず、結果的に駆け落ちみたいな状態になる。その最後通牒は、かなり重い課題となるのが確実だった。
アダルナと二人、行政府からでてくると、アダルナは大きくため息をつく。
「パレード……大変なの?」
「王族のお披露目ですから、ほぼ護衛はつけられません。二人が民衆から見える高さの馬車に乗って、町中を練り歩くのです。攻撃しようとする相手には、よい的……暗殺してください、と言っているようなものです。
うっかりしていました……。ウリムラは今、小競り合いがつづく、内戦状態です。あそこでパレードなんてしたら……」
最悪は殺される……。どう転んでも、無事に済むわけがなかった。
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