23.暗殺者の正体
首都サン=リエニコの大門から出てきた。一般人は夕刻には追いだされるけれど、王族などのここで働く者は、その後だ。なので、出るときは、朝のようなラッシュアワーはない。
二人で歩いていると、ふたたび敵意……今度は殺気に近いものを感じた。今度はトラップ型で、オレたちが足を踏み入れると、炎の柱が何本も立ち上った。
ただ、今日は事前に準備していたし、何よりそこにすぐ、水により形づくられた龍が飛んで、炎を消し去ってしまう。
「ぎゃーッ!」
そのとき、建物の陰から転げでてきたのは……。
「レスティア・バーヌ……。やっぱり君だったんだね」
首都に到着したその日、話しかけてきた女性がびしょ濡れとなり、そこに倒れていた。
「読まれていた……?」
宿で後ろ手に縛られたレスティアは、そう嘆息する。
「オレたちが狙われる理由が不明……。でも、ロデーヌから手紙をうけとったアンタなら動機がある、と思っただけさ」
「それに、今回はトラップ型にする、とも予想していました。炎への対抗である風をつかえる以上、不意打ちを食らわすしかない。地面に魔力回路を描き、近くに潜んで魔力を流して到来を待つ。高位の魔法使いが使いそうな手……ですからね」
アダルナがそう補足する。トラップを仕掛けるなら、ここだろう……とめぼしをつけて、待機させていたのだ。
「でも調べたところ、アナタはギヨンドワーナでも魔法使いとして勤めるなど、名のある人だ。それが何で、こんなことを?」
レスティアはふっとボクの顔を見上げて「似てないわね。妹さんの方がまだ似てるのかも……」
「それは、ユウエン兄さんのこと? それはそうさ。オレと兄さんとは、母がちがうからね。ロデーヌは、ユウエン兄さんと母親が同じだけれど……」
「そう……。病弱で、薄幸の妹がいる、とは聞いていたけれど、なるほどね」
「そんなにユウエン兄さんと親しいのか? もしかして……?」
「ええ。元恋人よ」
他国に、王族が留学するというのは、色々と厄介な面がある。ユウエンは魔法を学ぶ、という理由をつけて、ここに来た。そして同じ魔法を学ぶ、レスティアと親しくなったのだろう。
「何でオレを殺そうと?」
「王位継承レースの、不測の事態を減らしたい……と」
「オレが不測の事態?」
「ふ……。昔の彼が忘れられない、未練がましい女の妄言よ。彼が王位を得たい、という願いを叶えてあげたい。ここで第五王子が狙われ、それに巻きこまれて妹が亡くなる……。同情が集まりやすい……でしょ?」
そうだろうか? 今回の件でも分かったように、やはり王位レースは長兄のブルーガと、次兄のウェリオが頭一つ抜けている。たかが……といったら申し訳ないが、もし血縁が亡くなって同情が集まるとしたら、息子のヤルハンが殺害された、摂政で父親のエグニスだって同じはずだ。
むしろ、人柄のよさをアピールするユウエン。際立った能力に乏しい彼にとって、最大の支援材料となるのは肩書、賛辞……。
「アナタは、ユウエン兄さんの手助けをしようと?」
「妻の座……をめざしてね」
今や、魔法使いだからといって、特別な地位が与えられるわけではない。彼女が一行政官であるように……。それが小国とはいえ、王妃になれる……という餌をチラつかされたら、心が動いてしまうだろう。
「ナゼ、素直に話す?」
「どうせ拷問され、私は恥辱の中で死んでいく……。だったら、あっちの世界で結ばれたい……」
ミケアがオレを暗殺しようとしたときも、地下洞窟に閉じこめられ、拷問されて死刑と言われていた。この世界では、王族への敵意に対して、過度に刑罰が厳しい印象もあった。
「恐らくアナタの証言だけで、ユウエン王子が罪に問われることはないでしょう。むしろ、アナタが証言したことを疎ましく思い、疎遠になると思いますよ」
アダルナは冷たく言い放つ。
「それでも……、彼の記憶にのこっていられるのなら……」
「記憶にのこるだけでいいのかな?」オレの言葉に、レスティアは不信感を蓄えた目を向けてくる。
「もう一度、逢いたいと思わないか? 愛しの彼に……」
「時おり、シンラ王子の頭の中をのぞきたくなります」
「だって、面白そうじゃん? 元カノとの再会……。オレの命を狙ったこともそうだけど、実はユウエン兄さんと一度、ゆっくり話をしてみたい、と思っていたんだ」
「……何を?」
「オレは王位継承レースの最下層。でも、ユウエン兄さんはちがう。今回の件で、ブルーガ兄さんとウェリオ兄さん、その二人を敵に回してしまった以上、オノガル国でオレが立場を保つために、誰と組んだらいいか……。オレを殺そうとした件もふくめて、話してみたいんだよ」
「ホント……、シンラ王子の考えにはついていけません……が、理解はしました。でも、それは危険な行動です」
虎穴に入らずんば……といったところで分かってもらえないだろう。でも、こちらの世界で評価を上げるためには、このままではダメなことも分かっていた。
オレを殺そうとした相手――。それと手を組めるのか? でも、やるしかないと考えていた。
「お話、終わった?」
レスティアを拘束する部屋に入ってきたのは、ミケアとルルファだ。ちなみに、隣では二度も命を狙われ、恐怖でふるえるロデーヌに、ユイサが付き添っている。
「ほ、本当に始めるの?」
ミケアもそこにいるレスティアをちらちらと見つつ、警戒するけれど、ルルファはちがう。確認なんかせずに、オレにとびかかってくると激しく唇を求めてくる。
「え? アナタたち、ここで始めるの?」
レスティアも驚くけれど、彼女のことはアダルナに任せ、オレとルルファは口づけをかわしつつ、ベッドに向かう。躊躇っていたミケアも、服を脱いでからベッドに飛び乗ってきた。
「王族は、いついかなる時でも、子づくりをしておかないと……。特に、暗殺される恐れがあれば、尚更です」
アダルナも、止める様子はない。この世界に男性は少なく、レスティアも他人がしているのなんて、見る機会はなかったのだろう。真っ赤な顔で、オレたちのそれを見つめていた。
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