16.深層

 ヤルハン殺害現場で、矢で襲われたその日、オレはミケアをベッドに押し倒した。

「ちょっと……」

「いい加減、オレを殺そうとした黒幕について、話す気になったか?」

「え? あ、ちょっと……」

 彼女の服にもぐりこんで、その胸を口に咥える。

「ん~……、あ♥」

 嫌がっていても、始めてしまえばミケアも乗り気だ。

「ほら、オレを殺そうと命じたのは誰だ?」

「知らない……、教えない」

 昼間、殺されそうになったことと、ミケアがオレを暗殺する目的で近づいたこととが、ごちゃごちゃになっている。

 しかし構わず、オレは両手を彼女のスカートの中につっこむ。下着の中に指をつっこんで、そのまま愛撫する。

「んんん……。んんん……」

 両手でいじることはあまりないし、何よりもう見なくとも、彼女の感じやすいところが分かる。

 服を脱がすのももどかしく、オレはミケアに挿入した。自分でも、殺されそうになったことで、変に興奮していることが、頭の中で分かっている。命の危機を感じ、子孫をのこそうという意識が、妙に強まっているだけだと……。


 そしてそれは、お風呂場に行って、さらに強まる。いつもミケアとエッチをするときは、ユイサも一緒なのだけれど、そこにいなかったのは、昼間に出かけたためにふだんの彼女の仕事ができなかったからだ。今、彼女はお風呂掃除をしていた。用奴として、家事全般を彼女が担当している。

 向こうを向いて木製の風呂釜を洗っている彼女の、その背中からユイサを抱きしめた。いきなりのことで、驚いたようだけれど、彼女は声がだせない。でも、もし仮に声がだせても、悲鳴は上げなかっただろう。後ろから彼女の顔を覗きこむと、赤い顔で俯いている。

「さっきは助けてくれてありがとう。本当は、ちゃんとお礼をしたいけれど、今は立場があるから……」

 彼女をこちらに向かせると、その唇を、唇でふさぐ。これまで、用奴の身分である彼女との粘膜接触は禁止されていたけれど、今はそんなこと、関係ない。彼女の功に報いたかった。

 彼女も目を閉じて、それを受け入れている。これまでだって、彼女の体を実験台にして、エッチの練習などをしてきた。彼女は、用奴はそうしたことを受け入れるものだと、抵抗することなく応じていたけれど、本当は嫌なはずだ。でも、ミケアとするときでも、一緒に彼女のことを弄ってあげれば、それなりに喜んでもくれた。そうしたことも含め、これが恩返しだと思ったのだ。

 ユイサの目から、すーっと涙がこぼれる。

「嫌だった?」

 慌てて唇を放し、そう尋ねると、ユイサは首を大きく横にふった。

 オレの手をとって、手の平に文字を書く。それはオレが彼女に言葉を教え、簡単なものなら筆談できるようになり、コミュニケーションの方法として教えたものだ。

〝うれしい〟

 彼女はそう伝えてきた。オレは、涙でさらに潤んだその唇を、もう一度ゆっくりとふさいだ。


 しかし、矢で射かけられたことで、さらに謎が深まった。弓矢は兵士ももつ武器だけれど、特定の部隊が得意とする。簡単にいえば、水兵が得意とするのだ。船での戦闘において、大砲はないので相手の船との距離を、弓矢か、魔法で遠距離攻撃を仕掛けることになる。魔法をつかえない一般の兵士であれば、尚のこと弓を鍛えるのが一般的だ。

 そしてもう一つ、野獣の狩りをする者が弓を得意とする。つまり平民も、弓をもつケースがあった。

 オレは街にでる。一人では危険な気もしたけれど、ミケアもユイサも、一緒に連れていけば危険が伴う。前回は、物見遊山気分もあったので連れていったけれど、二人を危険にさらすわけにはいかない。

 道具屋にいくと、店主であるシカイテがいた。

「おや? 今日も買い物かい?」

 彼女はオレが王子であることは知らないし、城勤めの魔法使い、アダルナと親しい子、という認識だ。

「ちょっとお聞きしたいことがあって……。ここでは剣や弓も売っていますか?」

「何だい。お城は色々と大変だから、自分の身は自分で守ろうって? 売っているよ。でも、野放図に売ることはない。身分保証のある相手じゃないと、売ってはいけないんだ」

 武器にもなり得るので、当然だろう。

「でも、売るってことは、仕入れ先もあるんでしょ?」

「大体、兵士も世襲が多いけれど、男の子が生まれなくて廃業したり、兵士を継がせなかったり、そういう人が持ちこむね。後、わずかな数だけれど海外からも入ってくるよ。大陸製の武器は、こちらでも人気があるからね」

 武器屋がないのは、冒険者がいないのと、新規で兵士になろう、という者も少ないからだ。だからこの道具屋で、武器も一括で扱っている。

「そうなると、中古の武器しかないの?」

「大陸では、新しい武器をつくるけれど、ここでは鉱物資源がないからね」

「じゃあ、誰が武器をもっているか? 分かるんだね?」

「密輸でもすれば分からないが、それがない前提なら、ほぼ分かると思うよ」


 シカイテの言葉に、オレも引っかかるものを感じた。

 オレが狙われたことは、誰にも話していない。それはこの緊張状態で、ほいほいと事件現場に行った……などと知られたら大変だからだ。

 ただ、オレが狙われたことで、一つの疑問も湧く。犯人がずっと事件現場にとどまっていた? それは不自然だ。

 あの場所に何かあるのか……?

 オレは宿屋にきた。久しぶりに会ったルルファは、すぐにとびかかってきて、唇を求めてくる。彼女はエッチに興味があり、オレともそういう関係を望む、同い年の少女だ。

「もう……最近、会いに来てくれないんだから」甘えたように、そう言うセリフをいうけれど、愛人気質……というか、町娘としてはそういう関係でも構わない、と覚悟しているのかもしれない。

「お城は今、ソドムの森で殺された、ヤルハン行政官の件でごたごたしていて……」

「あぁ、大変ね。彼もタイミングが悪かったから……」

「タイミング?」

「ソドムの森って、その奥が崖で、先は海でしょ?」

 宿屋に勤めるルルファだから、そうした情報に詳しいのか? ミノスの町では暗黙の了解なのか? いずれにしろ、その話は驚愕だった。



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