6.一夜の宿

 目を覚ますと、そこは宿屋のベッドの上だった。魔法を使おうとして倒れたため、運びこんだらしい。

 傍らにはアダルナがおらず、年齢的には自分と近iいぐらいの少女が一人、ベッドの横にすわっていた。

「お客さんは、お城の人なの?」

 アダルナは城勤めが知られているので、オレも「そうだ」と応じる。

「私もお城にお勤めしたいの。ツテはあるのかな?」

「お城で働きたいの? またどうして……?」

「だって、あなたみたいな男の子がいっぱいいるんでしょ?」

 民間では男性が少なく、王侯貴族には男の子が多い。恐らくそんな話を彼女は誇大にとらえているのだ。

「そんなに多くないよ」

「なら、あなたでもいいわ。私、してみたいの」

 そういうと、彼女はベッドの上に乗り上がってきた。艶めかしい瞳でオレのことを見ているけれど、相手もまだ十歳前後……。

 この世界では男性が少ないため、こうした出会いを大切にしたいのだろう。その気持ちは分かるけれど、オレも戸惑う。それ以上のことをユイサとは……とは思うが、それとこれとはわけがちがう。

「き、君は……?」

「私はルルファ・モントーラ。この伯父さんが営む宿で働いているの。だってここにいたら、男の人と出会えるかなって思って……」

 そのときには、オレはルルファによって唇をふさがれていた。


 放浪する動物の生殖活動としては、偶に出会った異性とすぐ……というのは、よくあることだ。

 よくないのは、偶々立ち寄った宿屋で、王子がそこで働く娘と……という点。この体の持ち主にも悪い気がする。でもかわした唇が、チューが、すでにオレから躊躇という言葉を消し去っていた。

 ユイサとの間でもさわったり、弄ったりはできても、キスや挿入することは赦されていない。そのお預け、中途半端な状態により、溜まったものが一気に崩壊して流れだすようだ。

 激しく唇を吸われ、吸い返す。オレの手は自然と彼女の服の下へと滑りこませ、まだユイサよりも小さく、膨らんでもいない胸を、彼女との練習でそうしたようにゆっくりと揉みほぐす。

 彼女は恐らくこういう日を夢見て、日ごろから練習していたのだ。彼女は自分の股を、膝を立てていたオレの足にこすりつけてくる。すると、徐々に彼女を覆っている服がずれて、肌……はっきりいうと陰部が露出していた。

 彼女はオレのパンツへと手を入れてきて、そこを握ってくる。それを引きだして、自分のに導くつもりだ。

 さようなら、オレの童貞……。


「こらッ!」

 そのとき、ルルファの首根っこをつかんで、オレから引き離したのはアダルナだった。いつの間にか、部屋の中に入っていたのだ。

「ちょっと目を離した隙に……」

「えぇ~、盛り上がっていたのにぃ~」

「いけません。さ、出て行って下さい」

 アダルナにそう促され、ルルファも服の乱れを直してから、部屋を出ていく。ただそのときも、オレに向かって手を振ってから去っていった。

「まったく……。シンラ王子も、気を付けて下さい」

「ごめんなさい。キスされたら、もう気が動転して……」

 動転というか、童貞喪失を夢見たのだけれど、最後の最後で止められて、そちらの方が動転している。

「子づくりは推奨しますが、王子としてまずは身分ある相手が優先です。その後で、愛妾を何人囲おうと自由ですが……」

 どうやら、宿屋の娘とこんなところでエッチした、なんて噂が広がったら、色々と問題があるらしい。愛妾をつくるにしても、城の中ですることであって、正妻をもつまでは、そういう点では注意が必要なのだそうだ。

「こちらを受けとってきました」

 アダルナがそういって差し出したのは、見覚えのある木箱だった。

「これって、さっきの?」

「はい。交渉して、手に入れてきました。魔法使いが少なくなり、宝の持ち腐れになりそうだったので、それほど高くない値段で購入できました。まだ使いこなすには難しいかもしれませんが、魔力をとられる……ということは、適性がある、ということです。修練すれば、いずれ使えるようになるでしょう」

 アダルナから受けとったけれど、ふたたびそれを手にとる気には、今はなれない。でも、適性があるといわれたのは嬉しいことだった。


 結局、その日はミウスの町宿に泊まることになった。この異世界では、夜は基本的に出歩かないのだそうだ。

 それは街灯もなく、月と呼ばれるものも、星より大きくて明るい、というぐらいの強さしか光を発していないのだから、ぼんやりとしか周りが見えず、当然のことかもしれない。

 それにもう一つ、アダルナがオレを怖がらせようと語る、寝物語があった。

「かつて、究極まで力を極めた魔法使いがおり、ついに自らの死をも克服してしまいました。でも、そうなって初めて魔法使いは気づいたのです。自分が目標を見失ったことに……。

 生きて、この世界で何を為せばよいのか? 人々の上に君臨し、支配する? そんなことをして何が楽しいのか? 力を極めてしまっただけに、それが虚しいことに感じられました。

 そして魔法使いは、一つの楽しみを見出したのです。どうやって人が死ぬか? それを観察することを。だからその魔法使いは夜な夜な、生きた人間をさがして、世界中をうろついている。だから、夜は外にでてはいけませんよ」

 よくある訓話。夜は闇が深く、子供が外にでるのを禁じるために、そんな話をでっち上げた……と思われた。何より矛盾が多く、ツッコミどころも満載で辻褄も合っていない。でも、魔法使いが悪魔のような扱いであり、それを魔法使いであるアダルナが語るのが少し意外だった。

「さ、寝てください」

 宿は一部屋だけ借りたので、ベッドも一つ。もっとも、オレのことは自分の子供と宿には説明してあり、王子という身分を隠すためにそうしたのだろうけれど、そのためアダルナと同じベッドに入る。

 オレも夕方、ルルファとのこともあって、興奮が鎮まっていない。ふと向き合ったアダルナの、その胸に手をふれてしまう。寝るときには下着になっているので、その上から触るのだけれど、やはり大人の女性。柔らかさと大きさに、オレの手は自然と揉むように動いてしまう。

 アダルナはその手をふり払わず「早く寝て下さい。明日は朝のうちにお城にもどりますよ」と優しく言ってくれる。

 ただ、オレはその手を放す、ナゼなら、その胸に顔をうずめたからで、オレはその柔らかさと温かさを感じながら、眠ってしまった。




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