第26話
翔子がラーラの変化に頭を悩ませている頃。
大和静音は、浮遊島の地下深くに繋がる長いエレベータに乗っていた。
「美空翔子か……」
自分以外には誰もいないエレベータで、静音は少し前に話した少年のことを思い出す。
「やはり
思考は言語化することでより具体性を持つ。
傍から見ればブツブツと呟き続ける変人だが、静音にとって周りの目など、自身の思考と比べれば取るに足らないものだった。
「ふふっ、面白い。この島にとって、有益なのは篠塚達揮だが……行く末に興味があるのは美空翔子だな」
エレベータが目的の階に到着し、静音は巨大な地下施設へ入った。
大きな扉を抜けた先では、白衣を纏った研究員たちがバタバタと忙しなく動いている。
「あ、理事長!」
研究員の一人である女性が静音の存在に気づき、頭を下げる。
「もう卒業した身だろう。理事長と呼ぶのはやめたまえ」
「う……すみません。主任」
謝罪する女性に、静音は保健室で取ってきた薬の入った瓶を差し出した。
「在庫が少ない薬品があると言っていただろう。これで足りるか?」
「た、助かります! これで足りる筈です!」
研究員はペコペコと頭を下げて感謝を示した。
「しかし、いつ見てもアレは不気味だな」
施設の中央にある物体を見ながら、静音は言う。
「そこは同感ですけど、浮遊島を浮かせているのはアレの力ですからね。一部の研究員は毎朝アレに拝んでいますよ。神様みたいに」
「我々はその神様をモルモット扱いしているわけだが、そこは問題ないのか」
静音は笑って言う。
その視線の先には――巨大な臓物が宙に浮いていた。
「……『
その巨大な臓物は、間違っても人間のものではない。
では、一体誰のものなのか――。
「少なくとも……生徒たちが知る必要はないことだな」
静音は呟く。
その事実を知るのは、ほんの一部の人物のみ。エーテル粒子を研究する独立行政法人の機関か、或いは特務自衛隊の研究職に就き、そこで更に実績を積み上げた者だけがこの臓物の正体を知ることができる。
人類とEMITSが戦争をしていることは、全ての人間が知っている。
だが、その発端を知る者は――――殆どいない。
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