第20話

 EMITSを全て倒した凛は、すぐ傍にいた翔子の方を見た。


「久しぶりね」


「えっと……はい」


 凛の挨拶に、翔子はすぐに返す。

 足元では、演習場で待機している生徒たちが何やら盛り上がっていた。


「あの、俺を浮遊島に推薦してくれてありがとうございます」


 翔子はまず礼を述べ、


「でも、できれば自衛科ではなく普通科に行きたかったです」


「そうだと思った」


 本音を伝える翔子に、凛は何故か笑みを浮かべる。

 その笑みの意味は何なのか、翔子には理解できなかった。


「どう? この空は?」


「……おかげさまで、楽しんでいます」


「そう。よかった」


 凛は小さく頷いた。


「アーツ、もう使えるようになったのね」


「アーツ?」


「空を蹴るやつよ」


「ああ……この前、篠塚さんがやっていたのを見たので、真似しました」


 一度見たので真似をした――その程度の認識でアーツが使える人間なんて、滅多にいない。

 けれど凛は、そんな翔子の才能を指摘するような真似はしなかった。


「凛でいいわ」


「え?」


「私のこと、凛って呼んで。弟とかぶるでしょ?」


 正直その通りだったので、翔子は「じゃあ」と承諾する。


「この先、きっと貴方は色んなことに巻き込まれると思う」


 広々とした空を映す瞳で、凛は翔子を見つめて言う。


「でも、どんなことがあっても、この空だけは変わらない」


 実感を込めた声音で、凛は続けた。


「だから――裏切らないであげて」


 そう言って、凛は踵を返した。

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