第9話
午後五時半。煌々とした夕陽が、今にも沈もうとするその時。
天防学院出雲校高等部の学生寮のフロントにて、三人の少女が頭を悩ませていた。
「拙いわね」
栗色の髪を肩の下辺りまで伸ばした少女が呟く。
「
「……三十分」
紫の長髪を揺らしながら、別の少女が答える。
「も、もうそんなに時間、経っちゃったんですか……」
残り時間を聞いて、金髪碧眼の少女が落ち込んだ声音で呟いた。
「あーもう! 何で四人一組の班じゃないと駄目なのよ! 三人一組でもいいじゃない!」
「……不覚、もっと早めに行動しておくべきだった」
自衛科に所属する三人の少女は、班のメンバーに悩んでいた。
少女たちは進学組だ。そのため学院に知り合いは大勢いる。しかし、三人はいつも三人だけで行動しており、他の面子との交流が極端に少なかった。そのせいで進学組としてのアドバンテージをまるで活かせておらず、こうして時間ギリギリになるまで班を結成できずにいる。
「ま、まだ班に入っていない生徒は、どのくらいいるんですか?」
「えーっと、私たちを除いたら……五人ね。足手纏いとは組みたくないけど、この際、そんなことも言ってられないか……」
少女が万能端末を操作して、余っている生徒を調べる。
「残る五人の内、女子は一人だけね」
「あ、あの、でしたら、その……」
「……分かってるわよ。ここまで来たら、どうせ誰でも同じでしょうし。ならせめて、こっちにとって都合が良い相手を選びましょう」
栗色の髪の少女が告げると、金髪の少女は安堵に胸を撫で下ろした。
「それじゃあ、誘うわよ?」
反対意見がないことを確認し、少女は端末を操作する。
画面中央に招待中と記されたアイコンが浮かぶ。
「ふぅ。……取り敢えず申請はしたわ。あとは受諾してくれたらいいけれど」
「あ、ありがとうございます。その、配慮していただいて……」
「いいってことよ、このくらい」
ペコペコと頭を下げる金髪の少女に、栗色の髪の少女は優しく微笑んだ。
「そう言えば、聞いた? 今年は期待のルーキーが二人いるって」
「え、えっと確か、金轟さんと銀閃さんが、それぞれ推薦した生徒ですよね」
「そう。でも妙なことにね、どうもその金轟の弟である篠塚達揮って男は、姉ではなく銀閃の方から推薦を貰ったみたいなのよ。……普通、逆じゃない?」
「きょ、姉弟で、仲が悪いのでしょうか……」
「かもしれないわね。金轟って、家族とか関係なしに厳しそうだし」
金轟こと篠塚凛には、どこか形容し難い凄味がある。あの英雄らしい立ち居振る舞いは、家族に対しても牙を剥くのかもしれない。
「……篠塚達揮より、もう一人の方が気になる。今のところ、情報が一切なし」
「そうね。噂も特に聞こえないし……得体の知れなさは感じるわね」
紫髪の少女の発言に、栗色の髪の少女は同意した。
その時――手元に広げていた画面が、ピコンと通知を示す。
「受理された!」
「……早速、申請」
三人だけだった班に、新たな人物が加わる。少女たちはガッツポーズを取るよりも早く、すぐに担任教諭に班の申請を出した。
「で、でも、いいんでしょうか。顔合わせもせずに……」
「……グズグズしてた私たちが悪い」
その正論に反論できる者はいなかった。
金髪の少女が空気を変えるために、おどおどとした様子で端末の画面を見る。
「こ、この方……綺麗な名前ですね」
「……同意」
不本意な形とは言え、三人だけだった閉鎖的なコミュニティに新たな人間が加わるというのは、不安とは別に仄かな期待も感じるものだった。
新しいメンバーとはできるだけ仲良くしておきたい。少女たちはそう考える。
「寮の部屋鍵も手に入ったから、早速行きましょう」
「お、おもてなしの準備も、しないといけませんね!」
受付から荷物を受け取り、三人は宛てがわれた部屋へ向かった。
「美空、
端末の画面に記されたその名を、少女は読み上げた。
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