エピローグ

「じゃあお前が助言したのか。くっそたちが悪い」


 四人でファミレスのテーブル囲い、俺は誉に対して悪態をついた。


 あれから俺、リュウ、周、誉の四人はこうして遊ぶことが多くなった。周はもちろんのこと、本人の希望もあって天羽のことも誉と呼ぶことになった。女子の名前を呼ぶのは少しだけ抵抗があったのだが、周の名前を呼んだ時点でなにかが吹っ切れた。


「いや、だってアマネが今のままの関係じゃヤダって言うから」

「ちょっと誉」


 周の肘鉄が誉の脇腹に決まった。苦い顔をしていたということはそれなりにいいダメージが入ったんだろう。


「でも驚きだな。まさかミハルとアマネちゃんがそういう関係になるなんて」

「そんなことはないでしょ。私はごく自然な成り行きだと思ってるけどね。ミハルが冴えないってところを除けば」

「それな」

「それなじゃない」


 今度は俺がリュウに肘鉄をかました。が、これは上手いこと防御されてしまった。リュウは「へへっ」と自慢げに笑っていた。


「じゃあこのまま俺とホマレちゃんも付き合っとく?」

「お断りだけど」

「そりゃそうか」


 なんて言いながらがっくりと肩を落とすリュウ。思った以上に本気だったのかもしれない。


「しかしだ、家にお呼ばれして断るなんて男の風上にもおけないヤツだ。私がミハルだったら確実にお邪魔してるところだ」

「うるさいぞ。俺には俺の付き合い方ってのがあんの」

「そうやってアマネに飽きられないようにね」

「私はそんなことで飽きたりしないわ。心外よ」


 そう言った周は頬を膨らませながらメロンソーダを飲んだ。


 最近はなんだか少しずつ子供っぽくなってきている気がするが、おそらくはこれが本当の周なんだろう。


「で、どこまでいったの?」

「手は繋いだわ」

「はー、ういういしい」


 嬉しそうに額をパシーンと叩く誉。こういうことに免疫がないことをわかった上で質問しているのが非常にいやらしい。


 でも、こんな日常が来るとは夢にも思っていなかった。友人がいて、恋人がいて、高校生らしい放課後を満喫している。


 なにかを得ることでまた新しい日常を始められると知った。いや、教えてもらったんだ。リュウに、青沙ちゃんに、誉に、そして周に。


 失うことから始めた僕は、得られることで「今の俺」を始めるのだ。たとえば傷をなめ合うような関係であったとしても、それが大事な関係ならばどうでもいい。


 周を見ると目と目が合った。


 彼女が優しく微笑む。だから俺も笑うんだ。この彼女と、一色周とならば新しい一歩をまた踏み出せるような気がしてるから。








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失うことから始めたボクら 絢野悠 @harukaayano

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