10-2

「お前も俺と同じだと思った。だから、心地がよかった。なのにお前は結局、中学で三田に突っかかっていっただろ。他人に干渉しない、関わらない、問題があっても知らん顔で通してきたお前が、正義感に突き動かされて女生徒を救っただろ」

「そんなこともあったな」


 なぜあんなことをしたのか自分のことなのに理解できない。気がついたら三田の前にいて女生徒をかばってたんだから。


「他人と関わって、その人のことが大事になって、また失うのが嫌だからのらりくらりと生きてきたはずだ。なのにお前は「大事な物を失う悲しさ」よりも「大事な物を作る喜び」を選んだんだ。その人が大事な人になるかもしれない可能性、他人と作る思い出を選んだんだ。また失って悲しい思いをするかもしれないのに、お前は前に進んだんだ」


 いつの間にか、リュウは涙を流していた。


「そんなヤツに、いつしか憧れたんだよ。お前といたらいつかお前みたいになれるんじゃないかって、勝手に思っちまったんじゃねーかよ」


 三田から女生徒と助けた一件以来、リュウが俺と積極的につるむようになったのはそれが原因だったのか。


「それが本音か」


 きっと周りに流される俺を見て楽しんでいたのも本当のこと。自分の本心が俺にバレていないことに優越感を覚えていたのも本当。でもきっと、これが一番の理由なんだ。


「そうだよ、悪かったな」

「でもお前は俺にはなれない。一生、絶対に」

「んなこと、俺が一番よくわかってる。お前と俺は違うからな。だから余計に辛くなるんじゃねーか。カッコよく他人を助けることもできない。誰かのためになんて行動できない。じゃあ俺はなんでお前と一緒にいるんだよ。一緒にいる意味なんて、どこにもないじゃねーか……」


 いつも楽観的なヤツだと思ってた。友人が多いヤツだと思ってた。いつも笑って楽しそうに生きてるなって思ってた。でも、それだけじゃないってずっと前から気付いてた。


「俺みたいになる必要なんてどこにもないだろ」

「お前に俺のなにがわかるってんだよ」

「そうだよ、俺にお前の考えなんてわからない。わかりっこない。でも一つだけ言えるんだ」


 大きく息を吸い込み吐き出す。そして一直線にリュウを見た。


「お前は俺の友達でいてくれただろ。だから俺は、友達としてお前と一緒にいたいよ。だって、俺はお前の明るさとか、誰とでもすぐに打ち解けられるところとか、そういうところに憧れてたんだから。俺はお前になりたいよ。でもそれはできないから、せめて一緒にいてくれよ」

「なんなんだよ。なんでそんなこと言うんだよ。そんなこと言われたら、どうしたらいいかわからねーだろうがよ……」

「いいんじゃないか? このままでもさ。誰かが誰かに憧れるのは、自分がそれを持ってないってわかってるからなんだと思うよ。もしかしたら一生手に入らないかもしれない。だから憧れるんだ」

「すぐになんて受け入れられないだろ、そんなの」

「だったら諦められるまでねじ伏せるしかないだろ。どうだ、お前は一生俺にはなれないんだぞって」

「なんだよそれ、イジワルかよ」

「それくらいしたっていいだろ。今までケンカなんてしたことなかったし」

「ケンカ、したかったのか?」

「したくなかった。関係が壊れるのは嫌だったから。でも悪くないなって思うよ。ケンカしても、また一からやり直せばいいかなって」

「ホント、お前ってムカつくわ」


 そう言いながらリュウが歯を見せて笑った。そうだよ、そうでなくちゃ困るんだ。俺の唯一の友人として、俺が持ってないものを見せつけてくれなきゃ。


 それから久しぶりに二人で帰ることにした。背後に女生徒二人がついてきている気がしたが、彼女たちのことは考えないようにした。


 カラオケにも行ったしゲーセンにも行った。久しくそういう場所には行ってなかったせいか楽しくて仕方がなかった。


 きっと俺とリュウはこれからも何度もぶつかり合うはずだ。ケンカして、口を利かない日が何日ができるかもしれない。それでも友達でいるんだって信じてる。関係が壊れるくらいダメになるかもしれない。そしたらもう一度やり直すんだ。許されるまで、何度でも。

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