7-3

 お昼に起きてお粥を食べ、薬を飲み、もう一度寝直した。そこまではよかった。


 問題はそのあとだ。次に起きたとき、なぜか部屋に一色と朱音ちゃんがいた。


「え? なんで? 夢? どういう組み合わせ?」


 薬が効いているのか、朝より、昼よりもずっと体調はよかった。頭痛はまだあったがそこまででもない。それでも思考能力が落ちているせいなのか、この状況をまったく理解できなかった。


「お見舞いよ」


 スッと紙袋が差し出された。


「あ、ありがとう」


 中には近くにあるパン屋の手作りプリンが入っていた。一個三百円くらいするのに四つも入ってる。


「これ高かっただろ」

「いいのよ。気にしないで。私が体調を崩したときは倍にして返してくれればいいから」

「お前が言うと冗談に聞こえないから」

「冗談じゃないわよ?」


 首を傾げているところを見ると本気なのかもしれない。


「冗談よ」

「だからわかんねーんだって……」


 とりあえずプリンを三つ出して一色と朱音ちゃんに渡した。


「私にもくれるの?」

「朱音ちゃんもお見舞い来てくれたんでしょ?」

「まあ、そうなんだけど。そうだこれ、私も持ってきたの」


 差し出された紙袋を受け取る。ちょっと嫌な予感がする。


 紙袋の中には同じプリンが四つ入っていた。


「そういう顔しないでよ。そういうこともあるってば」

「美味しく頂かせてもらいます」

「うんうん、それでいい」

 朱音ちゃんが満足そうなのでこの件に関してはこれで終わりにしよう。

「千歳さんから聞いたけど熱が三十九度くらいあったんだって?」

「今は三十七度とかだと思う。だいぶ楽になった」

「そっか、それならよかった。じゃ、じゃあ私はこれで帰るね! またね!」


 朱音ちゃんはプリンだけ持ってそそくさと部屋を出ていってしまった。非常に朱音ちゃんらしいが、朱音ちゃんが一色を見る目がいつもの朱音ちゃんとちょっと違って見えたのが気になるところだ。


 一色と目が合った。コイツには回りくどいことを言っても仕方がない。俺が疑問に思っていることを率直にぶつけてみることにした。


「朱音ちゃんはわかるんだけど、なんで一色まで来たんだ?」

「私が来たら悪い?」

「そういうことじゃないんだけど。なんていうか、一色ってお見舞いとかしなさそうだなって」

「お見舞いをするような友人なんていなかったから」

「そういうことじゃないんだけど。っていうか今お見舞いに来てるってことは俺のことを友人として意識してるってことでいいのか?」

「そんなつもりはなかったんだけど、もしかして勘違いさせてしまったかしら。ごめんなさい」

 座ったままお辞儀をした一色。髪の毛がサラリと解け、垂れ下がった。

「俺がフラれたみたいになってるのやめてくれ。でもじゃあどうしてお見舞いに来てくれたんだ? なんか理由があるんだろ?」

「昨日、誉といるところを見たわ」


 一色といい天羽といい、なんでコイツらはお互いのことを監視しあってるんだ。相互ストーカーなんて聞いたことないぞ。


「昨日は俺より先に帰っただろ」

「先生に呼ばれてすぐに帰れなかったのよ。用事が終わって帰ろうとしたら外村くんと誉が仲良さそうに昇降口を出ていくところが見えたから」

「ついてったの?」

「そういうことね」


 二人はお互いの行動を知らないからこんな顔をしていられるが、毎度毎度俺の行動も監視されていることになるのだ。あまり気持ちがいいものではない。


 一色はわからないが、たぶん天羽は仲直りしたがっている。しかし天羽は一色が自分から非を認めることを望んでいる。天羽は一色の「去る者は拒まず」というスタンスをなんとかして崩したいのだ。

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