そろそろ宣戦布告
「ミレイア、アンドール王国の第一王女から手紙だって?」
「ワーグナー様、どこからその情報を手に入れましたの?」
ワーグナー様にお茶会という事で呼び出されまして、お部屋についた途端に言われた言葉に、わたくしは思わず首を傾げました。
「ミレイアのことは何でも知っておきたいんだ♡」
「そうですか」
思わずため息を吐き出したくなったのは、仕方がないことだと思いますわ。
「それで、どんな内容だったの?」
「友人同士の手紙の内容を知りたいなんて、随分悪趣味だと思いますわよ?」
「えー、このタイミングでの手紙なんて、不穏以外の何ものでもないでしょ。魔道具を使って検問無視しての直接の手紙のやり取りだし、あの国は男女に関係なく長子が継承権を持ってるでしょ? いずれ、国を背負う者同士で交流があったじゃないか」
「それは、どこ情報ですか」
「ジュピタル公爵だよ」
「そうですの……。ええ、ポリアンヌ様とは、国を越えての個人的なお付き合いをしておりますわ。今回の手紙の内容は、まあ、彼の国に戦争仕掛けるけど、助けておいた方がいい貴族はいるかというような、そう言う内容でございました」
「へえ、アンドール王国が仕掛けるんだ」
ワーグナー様は面白そうに笑います。
こちらの皇国も、宣戦布告のようなものを受けておりますので、戦争を仕掛ける準備をしておりますものね。
「他にも、カッチェル公国、ヴェダリア王国が戦争を仕掛けるようです」
「っていうことは、四方から戦争を仕掛けられるっていう事か。彼の国が落ちた時の報償は山分けってところかな?」
「そうですわね。他の国の方とも手紙でやり取りをしておりますが、その方面で話が進んでおりますわ」
「え、僕聞いてないよ?」
「皇帝陛下には話しております」
「えー、僕をのけ者にするとか、つれないなー。でも、未来の奥さんがこんなに頼もしくて、僕は嬉しいな♡」
「前向きな意見、素晴らしいと思いますわ」
わたくしはワーグナー様の隣に座りますと、当たり前のようにメイドが入れてくれたお茶を飲みます。
「それにしても、彼の国は王都にだけうっすい物理防御結界を張って、それで満足して、何がしたいんだろうね」
「彼の国の国王は、ご自分だけが安全であればよろしいような方ですもの。ティーム兄様も北の塔に王妃様共々幽閉されていると言いますし、マロン様が勝手に(・・・)王太子や聖女宣言をしたことで、マロン様を担ぎ上げる貴族も増えたようですわよ」
「みたいだねぇ。あの国で助けが必要な貴族は、王都から出ているようだね」
ちゃっかりご自分でも情報収集なさっているではありませんか。
ワーグナー様は侍従に指示をして、数枚の書類をわたくしに見せていらっしゃいます。
「これは…………、なるほど、確かにわたくしが保護をした方がいいと思われる貴族は各領地に戻っているようですわね」
「そうそう、王都には、国王をよいしょする馬鹿や、使えない貴族ばっかりってわけ」
「となりますと、北の塔だけを無事に残していただければ、わたくしとしては問題がないということになりますわね」
「ミレイアはティーム殿が気に入ってるね」
「まともな王族でいらっしゃいますので。ティーム兄様がいらっしゃらなかったら、お母様を『贄』にされた時点で国を出ておりましたわ」
皇国でなくとも、我がジュピタル公爵家に所属している者でしたら、どこにいっても自分の腕でどうにでも生計を立てられますもの。
まあ、領民の事が気がかりでしたので、皇国にまるっと受け入れていただけて良かったですけれども。
「宣戦布告のタイミングは合わせた方がいいかな?」
「そうですわね。彼の国の国王は、結界があるから大丈夫だと思っていそうですが」
「あんなうっすい物理防御結界だけじゃ、なにもならないよ。各国の魔導士の攻撃であっけなく陥落するじゃないか」
「そうですわねえ」
わたくしは直接その結界を見たわけではありませんが、我が家に所属している魔導士が確認したところ、本当に叩けば壊れるようなものだそうです。
マリナ様の魔力と技術で、王都を覆う結界を張れば、そのぐらいになりますわよね。
魔道具の補佐も無いと聞きますし、彼の国の国王は、本当にご自分だけがよければいいのですね。
国に残っている下級魔導士も、その魔力を結界の維持に使われているようですし、他の効果を追加するにも、根本的な魔法を作り直さないと張り直せませんし、ご自分は謁見の間に居れば安全だとでも思っているのでしょうか?
確かに、直接転移は出来ませんが、逆を言ってしまえば、謁見の間以外には直接転移が出来ますのにね。
自分勝手に『渡り』をおこなうぐらいですし、やはりその程度ということなのでしょう。
お爺様は優秀でいらっしゃったのに、あんなことになって……。
よくもまあ、うまい事抜け道を使いましたわよね。
自分がしたことをされないように、『誓い』の内容も変えましたし、本当に保身に走るのがお好きなようです。
「各国のお友達にお手紙を書きますわ」
「父上に任せないのかい?」
「皇帝陛下には、わたくしに任せるとおっしゃっていただいておりますの」
「流石はミレイアだね♡」
「まあ、わたくしは外交の関係上、今回彼の国に攻め入る国に個人的なツテがありますもの」
「それはそれですごいよね。あの没外交の国で」
「お母様が、いずれ必要になるかもしれないので、彼の国の国王が外交を疎かにしても、ジュピタル公爵家は外交を疎かにしてはいけないと言っておりましたもの」
「まあ、ジュピタル公爵家の魔導士は、他の国のダンジョン攻略や瘴気の浄化や魔物討伐に活躍するもんね」
「ええ、わたくしも王妃教育の合間を縫ってお邪魔しておりました」
今思えば、お母様や王妃様がその時間を捻出してくれていたのでしょうね。
本当に、一部の方はまともですのに、国王が残念ですと国が滅びますわ。
北の塔にいるティーム兄様と王妃様に、なんとか連絡をつけられればいいのですが、流石に塔をぶち壊す以外に方法が思いつきませんわ。
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