あっさりした戦争
「出せ! 私を誰だと思っている!」
「ラーゼフォン王国の国王ですわね」
「わかっているのなら、ここから出せ! この裏切り者め!」
宣戦布告から開戦、そして無血開城までは至極あっさりしたものでございまして、宣戦布告をした四ヶ国の精鋭部隊が王宮に転移、そこから一斉攻撃をしかけて、城を守っていた兵士は拘束、使用人たちも部屋に詰め込んでおります。
マロン様とマリナ様も確保し、こことは離れた牢屋に放り込まれております。
「ミレイア様、この愚か者にまずはさせなければいけないことがございますわよ」
「そうですわね、ポリアンヌ様。ジェスト国王、今すぐに、ティーム兄様と王妃にかけている『誓い』を破棄してくださいまし」
「そんなこと出来るわけがないだろう!」
「それをするだけで、命が長続きする時間が増えるんだけど? せっかくのミレイアの好意を無駄にする気?」
にっこりと、けれども目は笑っていないワーグナー様がおっしゃいますと、国王は何かを呟き始めます。
「っ! 破棄したぞ! これでいいだろう! 私をここから出せ!」
その言葉に、北の塔の護衛に回していた魔導士に確認の連絡を入れます。
しばらくして、正しく『誓い』が破棄されたことが確認できました。
「よろしいですわ。よかった、これでティーム兄様と王妃様は自由ですわね」
そう呟きますと、魔導士によってティーム兄様と王妃様が転移していらっしゃいました。
「お久しぶりです、ティーム兄様方。ご無事で何よりですわ」
「久しぶりだね、ミレイア。この度は我が国の事で多大なる迷惑をかけてしまってすまない」
深々と頭を下げるティーム兄様と王妃様に、わたくし達はどうという事はないと首を振ります。
この方々がどのような対応をなさっても、ラーゼフォン王国という国は今日をもって消えるのですもの。
「言う通りにしただろう! 私をここから出せ!」
「貴殿が選べる未来は二つ。名誉ある死か、民衆の前での処刑だ」
ワーグナー様の言葉に、国王が目を見開き、話が違う、と喚き始めます。
「ティーム達の『誓い』を破棄したら、命を見逃すと言っただろう!」
「命の時間が伸びると言っただけで、見逃すなんて申していませんよ」
ばっさりとポリアンヌ様が切り捨てます。
「わ、私はこの国の国王だぞ。こんなこと許されると思っているのか!」
「宣戦布告の意味をご存じで? 戦争をしているのに、許すも何もない」
「こんな横暴が許されると思っているのか!」
「父上、最期は王族としての矜持を――」
「うるさい! お前は私の息子だろう! そんなところでぼーっとしていないで、私を助けろ!」
国王はティーム兄様を睨みつけ、そう叫びますが、ティーム兄様はそんな国王を憐れむように見つめるだけです。
「ラーゼフォン王国の国王よ。この国は戦争により負け、今日をもって消え去る事となる。しかしながら、四ヶ国の取り決めにより、国民の生活は保障されている為、心配することはない」
「そんなものはどうでもいい!」
「国王がまず初めに心配する事柄では?」
「私の命は何よりも重い! 私がいる限り、そこが国だ!」
「へえ? 自分がいれば、そこが国、ね」
カッチェル公国のクレング様が、暗い声で笑います。
「とりあえず、この国は終わる。その事実は変わらない」
「黙れ! 今まで我が国に手も足も出せなかった弱小国どもが! 徒党を組まなければ何もできない愚か者どもが!」
「全てはジュピタル公爵家のおかげだったのに、そのジュピタル公爵家を手放すはめになったのは自分達のせいだろう」
ワーグナー様の言葉に、ぎろりと国王が睨みつけてきます。
せめて、マロン様との婚約が続いていれば、わたくしだけでも残っていたかもしれませんが、マリナ様にマロン様が惹かれているのはわかり切っておりましたので、時間の問題でしたわね。
わたくしも、それなりにマロン様を諫めたり、婚約がなくなれば、ラーゼフォン王国が危なくなるとも言っていたのですが、意味はありませんでしたね。
マリナ様にも、この国の常識は、元の世界の常識とは違う事が多々ある為、よく学んでほしいと言ったのですが、それを湾曲し、いじめだと言われてしまえば、それ以上直接言う事はできなくなり、家を通して忠告したのですが、こちらもあまり意味はありませんでした。
「それで、結局の所、どちらを選ぶのですか?」
「なぜ私が死ななければならない!」
「それが、敗戦国の最後の国王としての務めだからですね」
「ならば、今この時をもって、ティームを国王とする! それであれば、私は死ななくていいだろう!」
「あら、そのようなことを簡単に言ってよろしいの?」
「かまわん!」
「では、簡易的ではありますが、戴冠式をいたしましょう。よろしいですわね、ティーム兄様」
「ああ」
ティーム兄様が頷きましたので、わたくしはラーゼフォン王国の国王が引き継ぐ王冠と錫杖を持ってこさせました。
「では、戴冠の祝詞を」
「……我、ラーゼフォン王国の国王、ジェストは息子、ティームに王位を譲ることを、今ここに宣言する」
そう言った瞬間、ティーム兄様の周囲に魔法陣が現れ、体の中に吸い込まれて行きます。
それが終わったところで、ティーム兄様が王冠と錫杖を持って息を吐き出しました。
「ミレイア、拡声魔法は滞りない?」
「ええ、ティーム兄様」
「なら……。ラーゼフォン王国、第五十七代国王、ティームが国民に宣言する。この国は今この瞬間をもって、戦争に敗北し、全面的降伏宣言を申し渡す。今後のこの国の在り方については、四ヶ国に委ねることとし、ラーゼフォン王国の王族の命は、四ヶ国に委ねるものとする!」
「なっ! 何を言ってっ」
「父上、いや、前国王よ。これは、命令です」
そう言った瞬間、前国王はぐっと胸を押さえます。
恐らく『誓い』が発動したのでしょう。
前国王とマロン様には未だに『誓い』が刻まれておりますので、国王となったティーム兄様のご命令は絶対なものになっているのです。
なぜ、前国王は自分の『誓い』を破棄していなかったのでしょうか?
その点に関しては謎ですが、確かに自分にも『誓い』を刻んだままの方が効力は増しますので、それを狙っていたのかもしれません。
「ティーム、きさま……裏切ったな」
「この国の最後の国王としての役目を、はたしているだけです」
「この国の為に、私の為に、お前だけが死ねばいいものを!」
「……そうおっしゃるのなら」
ティーム兄様は、小さく息を吐き出すと、前国王に対して、名誉ある死を宣告なさいました。
これまでの出来事は、わたくしの拡声魔法により、王都全体に流れておりますので、逃げおおせることは出来ませんね。
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