続編なのかしら?(他者視点)

 なんなの! どうしてあたしの思い通りにならないの!

 王国に戻る馬車の中で、眠りこけるマロン様の顔を見ながら、ぎりぎりと奥歯をかみしめる。

 異世界に召喚されて、乙女ゲームのヒロインみたいにちやほやされて、うまい事悪役令嬢にあの女を仕立てて、国から追い出したのに、皇太子妃とか、ふざけないでよ。

 これじゃ、ヒロインがざまぁされる悪役令嬢の逆転小説みたいじゃない。

 えっと、もしこのまま悪役令嬢の逆転小説だったら、最悪あたしは処刑!?

 冗談じゃないわ! あたしは豪遊とかしてないし、ちゃんと国にだって貢献してるもの。

 大丈夫よ、この物語はあたしがヒロインで、あたしを中心にしてる物語なの。

 確かに、ゲームみたいに神様の啓示を受けて聖女に! とかじゃないけど、あたしはあたしに出来る全力をしてるし、ヒロインなんだから、少しぐらいはしゃいでもいいのよ。

 そうよ、もしこの世界が乙女ゲームじゃなくても、小説の世界でも、あたしはヒロイン。

 王道を進んで、王子様の婚約者になって、王妃になって、国を繁栄させるのよ。

 そうして、末永く幸せに暮らしましたって、そうなるはずなの。

 大丈夫、大丈夫よ。

 マロン様はあたしと婚約して、王太子になったんだし、邪魔なマロン様のお兄さんはなんか、幽閉? とかされてるみたいだし。

 あたしを邪魔する物なんてないわ。

 今まで通り、ヒロインとして動いていれば大丈夫よ。

 だって、あたしはそのために召喚されたんだから。

 邪魔者はいなくなったのよ。

 そう、大丈夫。

 そう考えてると、馬車の揺れで起きたのか、マロン様がぼんやりとした視線を向けてきた。

 やっぱり、あの皇太子様の方がかっこいいわよね。

 マロン様も悪くないけど、なんていうの? こう、覇気っていうのかしら、格が違う感じよね。

 生まれながらのオーラっていうのかしら?

 王国と皇国の差なのかしら?

 両方の王様をあたしのものにしたら、あたしは両方の女王様よね。

 でも、逆ハーは身を滅ぼすっていろんなラノベにもあるし、どっちかにした方がいいのかしら。

 この世界ってどんな世界?

 途中までは、王道の学園物だったけど、今の状態って、救国のヒロインもの?

 国を選ぶ聖女物かしら。

 そうなると、学園に他の国の王子様が留学してくるパターン?

 それとも、戦争とかが起きちゃって、あたしの能力が評価されて、奪い合いになるパターン?

 どう立ち回るのがいいのかしら。

 王都は、あたしの張った結界のおかげで問題はないけど、戦争になったら、聖女としてあたしも引っ張り出されるかも。

 いやよ、もし怪我でもしたらどうしてくれるのよ。

 そうなると、戦争は回避したいわよね。


「マリナ、少し休んだ方がいい。王都まではまだかかるんだ」

「うん、でも色々考えちゃって」

「色々って?」

「皇国の人たち、ミレイア様に騙されてるじゃない? このままミレイア様に操られて、戦争とか、してきたら、怖いなって」

「戦争か、そんな心配しなくても大丈夫だよ。うちの国には守護結界があるんだ。あの結界がある限り、他の国はうちの国に手出しできないんだよ」

「そうなの?」

「ジュピタル公爵家が居なくなって、一時的に結界は消えたけど、マリナが張り直しただろう? だから心配することはないんだ」

「そっか」

「そんな心配をしていたなんて、マリナは可愛いな」


 マロン様の言葉に、あたしはちょっと気分がよくなる。

 そうよね、聖女であるあたしが結界を張ったんだし、大丈夫よね。

 ふふ、ちょっとラノベの読み過ぎで心配性になっちゃってるのかも。

 それにしても、あの皇太子様、やっぱりかっこよかったなぁ。

 戦争は嫌だけど、あの皇太子様をあたしのものに出来ないかな。

 あの悪役令嬢なんかよりも、あたしの方が絶対にあの人の隣に相応しいはずだもん。

 都合よくあの人が留学とかしてこないかな。

 あーでも、学園の時間は終わっちゃったから、王道の留学生は無理か。

 でも、皇太子様なら、見聞を広めるためとかいって、他国を回るのも王道よね?


「ミレイア様、なんで皇太子妃なんていわれてるのかな? あたしに酷いことしてきたのに」

「ジュピタル公爵家の権威というのは、それだけ重要なんだろう。まあ、守護結界を張らないあたり、皇国もあの能力を持て余しているんだろうし、うちの国に出戻るかもしれないさ」

「え、戻って、きちゃうの?」

「大丈夫だよ。マリナに手出しなんかさせない。俺が守ってやる。ジュピタル公爵家の人間は、牢屋にでも入れて、永遠に魔力提出でもさせておけばいいんだ」

「そうか、そうよね。流石はマロン様だわ」


 よくわかんないけど、魔導士の人たちがあたしの張った結界に魔力をそそげば、それだけ維持できるみたいだし、マロン様の言う通り、悪役令嬢は搾取され続ければいいのよね。

 悪役令嬢を追放しない家も同罪よ。


「しかし、皇国に行くために『誓い』を書き換えたとはいえ、魔力をごっそりと持っていかれるのは問題だ。王都に戻ったら、また『誓い』を戻すそうだし、魔力の回復が追いつかない」

「そうね。でも、王族を守るためのものなんでしょう? あたしもマロン様のお嫁さんになったらその『誓い』っていうのをするのよね」

「ああ、王妃でも側妃でも、王家に嫁いだ人間は必ず『誓い』をするんだ。母上もしているけど、生活に不便はないと言っているから問題はないよ」

「そうなの? マロン様のお兄さんが破棄とか言ってたから、心配しちゃった」

「兄上は王族としての自覚が足りないんだよ。王妃殿に変な教育を受けたんだろう」

「王妃様かぁ、ちゃんと話したことはないけど、どんな人なの?」

「さあ? 俺も公式の場所でしか会ったことはないけど、すました顔をしてる面白みに欠ける人だよ」

「ふーん、まあ、お貴族様ってそんなものよね。学園に居た女の子達も、気取っててあたしのことを無視とか悪口とか言って、感じが悪かったし」

「マリナは純粋で素直だよな。俺はそんなマリナを愛してるんだ」

「マロン様、嬉しい」


 うーん、乙女ゲームだったら、ヒロインは幸せに暮らしました。で終わるけど、中には続編物とかあるし、気は抜けないわね。

 あたしはヒロインなんだし、幸せになるのが決まってるはずだもの。

 もうひと頑張りしなくちゃね。

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