やはり宣戦布告ですか?

 ワーグナー様との結婚発言に関しては、完全にマリナ様の暴走のようで、流石のマロン様も驚いていらっしゃいます。


「ね、そうしましょう。私は聖女ですから、何人でも夫を持てるんですよ」


 そんなわけないでしょう。

 この皇国も、ラーゼフォン王国でも、国王(皇帝)もしくは王太子(皇太子)以外は一夫一妻制です。

 周辺国などでは、無駄な世継ぎ争いを回避するため、後継者が生まれたらスペアの方々は魔術で子供が出来なくさせられるのです。

 継承権に関しては、各国それほどまでに神経質になっておりますのに、どこの誰の子供かわからないような子供を産む女性を聖女だなんて、誰が認めると言うのでしょうか。


「これは奇々怪々。この度の訪問は外交に関することだと聞きましたが、どうやら聖女殿(・・・)は開戦の宣告をなさりに来たようだ」

「ワーグナー殿、これは、マリナは長旅で疲れてしまっていて、少々具合が悪く……」

「まあ、そうでしたの?」

「マロン様、あたし具合なんてわるくありません」

「マリナっ」

「ふっ、聖女殿(・・・)は本気で僕と結婚したいと?」

「そうですよ。逆ハーとかやっぱり王道ですし、ワーグナー様はきっと隠しキャラなんですね」


 意味の分からない単語が色々出てきましたが、もし本気で言っているのでしたら……。


「衛兵! いますぐラーゼフォン王国の者を拘束せよ!」


 そうなりますわよね。


「なっ、なんで! あたしはヒロインなのよ! こんなことしていいと思ってるんですか!」

「君の言っていることはほとんどわからないが、我が皇国に喧嘩を売っているという事はわかったよ。君達の処遇については書簡を出すからその返答次第だね」


 ワーグナー様の指示によって、ラーゼフォン王国の方々が会場から連れ出されて行きます。

 まったく変わりませんわね。

 ジュピタル公爵家が守護結界を張っていた時でしたら、どのような無茶を押し通そうとも、戦争に負けるという事はございませんでしたし、他国の物が手に入りにくくなるという程度で、自給自足出来ておりましたから、色々と困りませんでしたものね。

 今もそのつもりで各国との外交をしているのであれば、この皇国が手を出さずとも、近隣諸国があっという間に攻め込んでくれることでしょう。


「そういえば、マリナ様が付けていらっしゃった首飾りですが」

「ん?」

「魔力を吸い上げてどこかに、恐らくですが彼の国の王都の守護結界へ送るもののようですわね。彼女、普段は魔法を使用するという事がございませんので、魔力が吸い上げられていることに気がついて無いようですけれど」

「ふーん、そんな都合のいい魔法具があるんだ?」

「サエヤマ公爵家でしたら作成可能かと思いますわ。あの公爵家の祖先である『渡り人』は魔道具開発の天才でしたもの」

「ああ、魔力の少ない人や無い人でも扱えるようにする魔道具の開発をしたとかいう。でも、その技法は失われて久しいんじゃなかったっけ?」

「ええ、過去の栄誉に溺れ、技を継承し磨くという事をしておりませんので、今は始祖である『渡り人』が開発したもののメンテナンスを行うぐらいですわね。それも、この数代は碌な成果が出ておりませんけれど」


 わたくしの言葉に、ワーグナー様は「だから『渡り人』に頼るのはよくないんだよ」とため息を吐き出しました。

 まったくもってその通りだと思いますわ。

 なんでもかんでも『渡り人』に頼っては、自分の能力が伸びなくなってしまいますもの。

 その点、我がジュピタル公爵家は、色々な意味で容赦がありませんわよね。

 ちょっと魔力が強いぐらいでは叩きつぶされ、それなりに魔力が強い程度では叩きつぶされ、かなり魔力が強くても叩き潰され……。

 いえ、愛情はあるのですよ。

 実際にお父様とお母様は政略結婚とはいえ、ちゃんとその間に愛情がありましたもの。

 ただ、実力主義極まれりという感じに、強さにおごらないように、徹底的に物心つく前からそれはもう、厳しい訓練がなされるだけです。

 ええ、わたくし自身も今思い出しただけでも、もう二度と経験したくはないですわね。

 流石に、わたくしの魔力が高いからって、ナイフ一本だけ持たせて、五歳の子供を高レベルのダンジョンに一人放り込むとか、死んだらどうするつもりなのでしょうか?

 まあ、お母様曰く、死なない程度のレベルのダンジョンを選んでいるそうですが、それって、ぎりぎり生き残るレベルのダンジョンですわよね?

 今更ですが、我がジュピタル公爵家の教育方針ってどうなっているのでしょうか。

 とはいえ、わたくしも自分が産んだ子供には、同じような試練を課すと思いますけどもね。

 いえ、だって……初期教育って大切でしょう?


「さて、面白いことになったなぁ」

「ワーグナー様、まだ皇太子のお顔を維持なさっていてくださいませ」

「えー。だって、あんな正々堂々とした宣戦布告を受けて、ワクワクしない方がおかしくない?」

「宣戦布告をしたという自覚はなさそうですけれどもね」

「自覚があろうとなかろうと、あれは立派な宣戦布告だよ。彼の国がどういう反応を示すか、本当に楽しみだな」


 クスクスと悪い顔で笑うワーグナー様に軽くため息を吐きまして、わたくしはすっかり空気の悪くなってしまった会場の雰囲気を変えるため、楽団に指示を出し明るい音楽を流すと、ワーグナー様を促してダンスホールに躍り出ました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る