『誓い』と『呪い』(他者視点)

 『誓い』、それはこの王国にやってきた聖女が作ったもの。

 国王を害する王族がいないように、王位簒奪をもくろむものが出ないようにと願われて現れた聖女によって作られた『呪い』。

 それは、王族と、王家に嫁いできたものに課せられるものであり、破るのは不可能であった。

 至高の魔導士と言われた叔母上と、稀代の魔導士と言われているミレイアが、四肢を犠牲にして解呪を試みたにもかかわらず、それをなすことは出来なかったのだ。

 すぐさまジュピタル公爵によって二人とも治癒魔法をかけられたため、誰にも伝わることなく、領地視察をしていたという事で社交界に出る事も無かった。

 それでも、ミレイアは泣きながら僕と母上に謝罪をしてきたのだ。

 彼女達は何も悪くないと言うのに。

 それにしても、マロンは『誓い』のことをわかっていないようだった。

 王族教育をするにあたり、必ず教え込まれるものだと言うのに、なぜなのだろうか。

 マロンは側妃の子供で、王族教育が甘かったのかもしれないが、側妃にも間違いなく『誓い』は掛けられている。

 そしてマロンにも。

 『誓い』は、その時代の国王の命令への絶対的な服従、そして、王位を簒奪させない為に、それにまつわるありとあらゆる手法を禁ずるものだ。

 もちろん抜け道はある。

 父上のように、『誓い』に関係ない者を使って、毒を盛り国王を殺すと言うものだ。

 だが、それもかなりの賭けになる。

 失敗してしまえば、『誓い』の反動で死を呼び寄せるのだから。

 僕も母上も、王位になど興味はないが、それでも王族である限り『誓い』から逃れることは出来ない。

 『誓い』を破棄することが出来るのは、その時代の国王だけだ。

 だから、僕は王位継承権を放棄し、母上と共に『誓い』を無効にしてもらうように言ったのだが、結果としては、母上と共に北の塔に幽閉されてしまった。

 北の塔。それは罪人となった王族が暮らす場所だ。

 母上はこんなことになってしまい、自分のせいで僕を巻き込んでしまい申し訳ないと言っているが、これは僕が招いた結果だ。

 王都の外の世界を見てみたい。

 『誓い』がある限り、国王の許可なくしては、王都の外に出ることは出来ない。

 叔母上は婚儀をしたという事で、ジュピタル公爵家の領地と王都の往復を許されていたし、自分の夫や娘に『誓い』が及ばないように全力で抵抗していた。

 過去に、『誓い』を破棄された例は、他国に嫁入りもしくは婿入りする事。

 しかしながら、守護結界に守られたこの国において、外交はこの国にはない食料品などの輸出入だけであり、国土を広げるという事も、攻め込まれるという事も無いため、どこかの国に王族を出すという事は百年以上起きていない。

 ただ、この度マロンがナルティア皇国に赴くことになったらしい。

 父上の狙いは言うまでも無く、ジュピタル公爵家を取り戻すことだろう。

 無駄な事だと言うのに、一度甘い汁を吸ってしまうと、その味を忘れることが出来ないらしい。

 僕ではなくマロンをやると言うのは、僕の置かれている状況、そして、マロンがミレイアの婚約者であったという、一抹の望みをかけているのかもしれない。

 父上は、マロンがミレイアに婚約破棄を叩きつけたという事を忘れているのだろうか?

 マロンが行ったところで、ミレイアが首を縦に振るわけがないのだ。

 そもそも、マロンとミレイアの婚約だって、『誓い』を使って無理やり取り付けた物。

 ミレイアにはあの時から恋い慕う、ワーグナー殿が居たと言うのに、ただ、ジュピタル公爵家を自分の物にしようと言う、王家のわがままを通した結果だ。

 叔母上の犠牲だけでは足りないと言う傲慢が、今の結果を招いたと言うのに、その事を反省しない父上は、もう執政者として失格だろう。

 そもそもが、ダンジョンという特殊な場所を除いて、ありとあらゆる厄災から守っていたというのに、それで満足していればよかったのに、ジュピタル公爵家にそれ以上を望んではいけなかったというのに、欲深い者達のせいで、今の結果を産んでしまった。

 『渡り』の方法を知っている国は数多くあれども、実行した国は片手ほども無い。

 それを数度も行ったとなれば、そんな愚かな国はこの国しかない。

 何かあれば『渡り』をすればいい。

 そんな堕落した思考がこの国の王族には根付いてしまった。

 それでも、何度も繰り返された『渡り』により国が豊かになり、『渡り』はずっとなされなかった。

 それを、ただ、異世界の女を見てみたいなどという、下らない理由で今回の『渡り』は実行され、必要な贄として濃い青き血を持つ叔母上が贄に使われた。

 そもそも、父上は、何かにつけて自分よりも優れている叔母上が気に入らなかったのだ。

 その証拠に、成人してすぐにジュピタル公爵家に嫁入りするように祖父に言った。

 表面上は、優れた魔力を持った叔母上がジュピタル公爵家に嫁ぐ事で、王家との縁をより一層深め、さらに素晴らしい魔力を持った子を作るため。

だが、僕から見れば、ていのいい厄介払いでしかない。

 父上は権力に固執し、何事も自分が一番でなければ気が済まない。

 母上もまた、『誓い』によって王家に輿入れして来た人で、父上の危うさを知っているからか、僕の養育に関しては父上に任せず、自らが厳選した教師をあてがった。

 その結果、マロンとの間には溝のようなものが出来てしまったのは事実だが、マロンの母親は王族という権力にだけ興味があるような女性なので、どちらにせよ僕とマロンはそりが合わなかったかもしれない。

 命を絶ちたくても、『誓い』のせいで、自分で死ぬことも出来ない。

 皇国でも、どの国でもいい。

 早くこの国を滅ぼしてくれないだろうか。

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