原石の回収をしましょう

 学園へ特別講師として赴くと言うのは、いわば磨かれていない原石を発見するためのものでございます。

 表向きは、皇太子妃としてではなく、ジュピタル公爵家の息女、すなわち上級魔導士として教鞭をとるという事になるのですが、若い方々は家からも言い含められているのでしょう、少しでもわたくしにすり寄ろうとしている方が多くいらっしゃいます。

 そのことに多少うんざりしながらも、全ての生徒を拝見いたしまして、幾人かの原石を発見することが出来ました。

 どなたも優れた才能をお持ちでありながらも、少々淀んだ空気を纏っておりますので、早々にご実家から引き離したほうがいいと判断いたしました。

 早速、目を付けた方々を、学園の応接室に呼び出します。

 皆様はどうしてここに集められたかと、不安げな顔をなさっておいでですね。


「そんなに緊張なさらずに、まずはお座りになってお茶とお菓子でもお召し上がりになって?」


 わたくしはそう言いますと、持っていた扇子を翻して、人数分のお茶とお菓子を出現させます。

 その仕草に目を見開いて驚いたようですが、最初の緊張が残っているのか、ぎこちない様子のまま、それぞれソファーに居心地が悪そうに座りました。


「皆様に集まっていただいたのは他でもありませんの。わたくし、皆様の才能を評価しておりますのよ」


 にっこりそう言いますと、戸惑いの色がさらに濃くなります。

 それはそうでしょう、ここに集まっている方々は、学園の成績が取り立てていいと言うわけではないのですから。

 けれども、それは学び方が悪いからです。

 教育方法は一つではありません。

 魔導士として、剣士としての才能を開花させる方法など、いくらでもございますし、他の分野でも、その才能を開花させる方法なんてごまんとございます。


「あの、お言葉ですが、俺達は……」

「家では冷遇、もしくはそれに近い扱い、虐待とまではいかずとも、いわれのない厳しい環境で育ってきている。かしら?」

「な……」

「ちょっと探りを入れればすぐにわかりますのよ。それでも、めげることなく魂の高潔さを失わない貴方達は、とても稀有な存在なのです」


 わたくしの言葉に、それぞれ視線を交わし、僅かに身をよじらせます。


「急な事で判断しろというのは難しいかもしれませんが、わたくしの所にいらっしゃれば、今までの生活とは全く違ったものをお約束します。ただし、魔道の道はきびしいものでございますし、剣士の道もまたしかりです。貴方達なら挫折することなくついてきてくださるとは思いますが、もし挫折してしまっても、その後の生活保障はさせていただきますわ」


 よどみなく言うわたくしの言葉に、幾人かは目を輝かせ、幾人かはそれでも疑いの目を向けていらっしゃいます。

 まあ、当たり前ですよね。

 わたくしだって、いきなりこんなことを言われたら、喜びよりも不信感の方が強くなりますもの。

 希望を持った目で見てきた方々は、家で不当な扱いを受けている方々ですわね。


「ところで、ヴェロッタ様」

「……はい」

「そのお体につけている魔道具ですが、どなたに頂いた物でしょう?」

「これは、お父様に肌身離さずつけているようにと……」

「それが、貴女の魔力を吸い取り、双子の妹へ譲渡される媒体だというのは、ご存じでして?」

「え……」

「双子の妹さんは、この学園でも屈指の魔力を誇っていると聞いていますが、そのコントロール技術は今一つ。当然ですわよね、いくら双子の物とは言え、他人の魔力を制御するなんて、簡単にできるものではありませんもの」

「そ、んな……。私には魔力が少ないから、少しでも増幅できるようにと、お父様が、これを……」

「双子の姉を放置して、妹を溺愛するような父親が、そのような気遣いをすると、本当に思っていらっしゃいますの?」

「そ、れは……」


 傷ついたようなお顔をなさるヴェロッタ様に、わたくしは優しく微笑みます。


「その魔道具、一度付けたら通常の方法では一生取ることが出来ず、取り付けた側の魔力が枯渇するまで搾取し続けると言うものなのです」

「うそです!」

「では、取って試してみましょうか?」

「え?」

「貴女だって不思議に思っていらっしゃるのではありません? 外そうと思っても外れない、その魔道具を」

「……」


 図星なのか、ヴェロッタ様は俯いて魔道具の嵌った右腕をしきりにこすり始めます。


「お父様が、唯一、私にくれたもの、なんです……」

「双子の妹の魔力不足を補うための物ですわね」


 容赦なく切り捨てますと、ヴェロッタ様は顔色を白くさせまして、静かに涙を流し始めました。

 これはご本人も薄々気が付いていましたね。

 それはそうでしょう、腕輪をつけるまでは当たり前のように使えていた魔力が、急に使えなくなったのですもの。


「今、この場でその魔道具を壊してもよろしいのですよ?」

「え」

「ただし、その場合ヴェロッタ様はすぐさま我がジュピタル公爵家に保護させていただきます。理由はわかりますか?」

「いえ……」

「魔力の逆流に器が耐えきれるかわからないからですわ」

「逆流、ですか?」

「不当に搾取されていた魔力は、その全てが搾取先に還元されるわけではありませんの。そのようなお粗末な魔道具では、魔道具の中に搾取されなかった魔力がたまり、壊した途端に元であるヴェロッタ様に逆流してしまいます」

「そ、んな……」

「ですので、我がジュピタル公爵家の魔導士の傍に置くことで、それを防ぎます。わたくしがしてもいいのですが、流石に安定するまで二十四時間ずっと傍に居ることが出来ませんので、交代で魔導士をつけさせることになります」

「わ、わた、私は……」

「心に迷いがあるのでしたら、やめることをお勧めしますが?」

「か、考える時間をください」

「よろしいですわよ」


 にっこりわたくしがそう言いますと、他の方々も、考える時間が欲しいとおっしゃい始めました。

 まあ、想定内ですわね。

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