聖女のお披露目(他者視点)

「え、パレード?」

「うむ。そなたもこの世界に慣れてきた頃だし、なによりも、この王都に結界を張っている功労者。民衆に改めてそなたという存在を広めようと思ってな」


 王様の言葉に、あたしは飛び上がりそうなほどに嬉しくなった。

 これってあれよね、聖女様のお披露目みたいな感じでしょ?

 やっぱり、あたしってばヒロインなんだわ!


「喜んでお受けします!」

「そうか。ではそのように心得ておくように」

「あ、あの!」

「なんだ?」

「パレードをするってことは、マロン様との婚約も、認めてくれるって事ですよね?」

「そうか、それもあったか……。そうだな、よかろう」

「嬉しい! ありがとうございます!」


 やっぱり異世界召喚って言ったら、王道の王子様よね。

 くふふ、あのうっざいミレイアは、悪役令嬢がお似合いなのよ。


「あたし、マロン様に知らせてきます!」


 王様にそう言って、あたしは足早に謁見室を出ると、マロン様の部屋に走った。

 後ろからメイドの声が聞こえたけど、知ったことじゃないわ。

 今はマロン様に会うのが一番大事なんだから!

 スキップしそうなほどの勢いで進んでいくと、マロン様達が住んでるエリアに到着する。

 迷いなくマロン様の部屋の前に行くと、息を整えてから扉を開ける。


「マロン様! 王様が、あたしとマロン様の婚約を認めてくれるって言ってくれました!」

「何!? 本当かマリナ!!」

「はい!」

「嬉しいよ、マリナ!」


 マロン様はそう言ってあたしを抱きしめてくれる。

 はぁ、イケメンはやっぱりいいわぁ。

 イケメンで権力もお金もあるとか、最高じゃない。

 異世界最高!

 いきなり呼び出された時はびっくりしたけど、美少女のあたしの運命なのよね。

 本当は、第一王子様も確保しておきたいけど、なんかあたしのことを毛嫌いしてるっていうか、避けてるみたいなのよね。

 美少女のあたしに靡かないとか、同性愛者なんじゃないの?

 マロン様ってば、「王太子は俺だ」って言ってたけど、他の人は第二王子って言ってるし、まだ確定じゃないっぽいのよね。

 でも、聖女のあたしと結婚すれば、絶対に王太子になるし、そうすればあたしは王妃になれるって事でしょ!

 異世界に召喚されて、聖女になって、王妃! 王道! まさに王道!


「そういえば、王様があたしの為にパレードをしてくれるんですって! もちろん、マロン様も一緒にいてくれますよね! 皆に、あたしとマロン様が婚約者だって認識してもらわなくっちゃ!」

「そうだな。一緒にパレードに出るよ。そうして、国民や貴族に、ちゃんと婚約者だって宣言する」

「嬉しい!」


 あたしはそう言ってマロン様にキスをする。

 マロン様もキスを返してくれて、あたし達はそのまま寝室に向かったわ。

 もちろん、いつもみたいに仲良くするためよ。


 そうしてパレードの日、あたしの注文通り、いかにも聖女! って感じの真っ白なドレスを着て参加したわ。

 隣には王様にお願いして、王子様の正装をしたマロン様がいる。

 こうして並ぶと、本当に美男美女のカップルって感じよね。

 機嫌よくパレード用の屋根のない馬車から手を振るけど、なんか皆の反応が思ってるよりも悪いっていうか、興味なさそうな感じ?

 せっかくあたしがパレードしてあげてるのに、なんなのよその反応!

 信じられない!

 パレード後の演説も、なんか嫌々参加してますって感じで、全く盛り上がってないし、意味わかんない。

 でも、あたしは聖女なんだし、ちゃんとやらないとね。


「この世界に召喚されたのは、巨大な悪から皆様を守るためだと確信しました。悪のジュピタル公爵家はいなくなりました。彼らはこの国の悪だったのです。だから皆様、今後は聖女であるあたしが守ります。安心してください」


 長ったらしい演説の最後をそう締めくくると、最初は拍手も起きなかったけど、そのうちにパチパチと適当な拍手がされた。

 なによ! これ! 予定と違い過ぎるじゃない!

 思わずジト目で平民を睨みつけるけど、あたしの視線に気づかないのか、すぐに拍手をやめて帰りたそうにしてる。

 この後、マロン様から大事な話があるのよ!


「皆の者聞いてくれ! この度、俺は父上に正式にマリナとの婚約を認めてもらった。今後は聖女マリナと共に、王太子として、この国をより良い方向に導いていく! 皆、安心して俺についてきて欲しい!」


 この堂々とした言葉。流石は王太子様ね!

 これなら、と思って平民を見るけど、さっきよりも白けた空気。

 なんなの!

 マロン様の演説が終わって、王宮の中に戻ったけど、あたし達を見てくる貴族の人の目もなんだか冷たい。

 王様の前に行くと、王様は苦々しい顔であたし達を睨んでくる。


「やってくれたな」

「え、何がですか?」

「勝手に聖女と名乗り、王太子と名乗ったではないか」


 なによ、何も間違ってないじゃない!


「私は、マロンとティームのどちらを後継者にするか、正式に決めていない」

「そんな! 聖女であるあたしと結ばれるんですよ! マロン様が王太子に決まってます! それに、ティーム様なんて、部屋に引きこもってばっかりで、たまに出て来たかと思ったら、あたしを睨みつける最低な人じゃないですか! マロン様とは大違いです!」

「僕は部屋で仕事をしているだけだが? 自分の公務もろくにしない、愚弟のマロンと一緒にしないで欲しいものだな」

「なっ! いつも王妃の陰に隠れているばかりの兄上に言われる筋合いはない」

「何も知らぬ愚か者が。……だが、まあいいだろう。父上、今この場を持って、僕は王位継承権の放棄及び、王籍を抜けることを宣言します!」

「なんだと!?」

「このような国に未来はありません」

「貴様! 王妃に何を吹き込まれた!」


 王様が顔を真っ赤にしてティーム様を怒鳴りつけてる。

 もっと言ってやってよ!


「ああ、そうですね。病弱(・・)な母上も、一緒に王籍を抜けさせていただいても構いませんよね。病弱(・・)を理由に表舞台から遠ざけられていますし」

「そんなこと許されると思っているのか! お前も王妃も、王族の『誓い』があるのだぞ!」

「そうですね。その『誓い』のせいで叔母上は不慮の事故(・・・・・)にあいましたね」


 え、誓いってなに?


「この機会です、僕と母上の『誓い』を無効にしていただきたい」

「そんなこと出来るわけがないだろう!」


 王様の怒声に、あたしはわけがわからないとマロン様を見るけど、マロン様も首を傾げているし、なんなの?

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