報告時のひと騒ぎ(他者視点)
「はあ!? 黒竜が現れた!? ミレイアが竜の巣に招待された!?」
「はい」
「そう言う事は先に報告せよ!」
「しかし、お嬢には討伐結果を報告しろと言われましたので、先にこの事を言ったら聞く耳を持たなくなると判断し、こちらに関しては後回しにしました」
皇帝陛下、お嬢がいない事を不審に思いつつも、さっきまでは威厳たっぷりで報告を聞いていたのに、この豹変ぶり、流石は皇太子様の父親ですね。
「ヒスイ、ミレイアは無事なのだな?」
「閣下、あのお嬢ですよ。心配するだけ馬鹿らしいです」
そもそも、お嬢がどうしようもない事態に陥ったら、それこそ国が危機に陥る。
「ふむ、屋敷からも何の報告も来ていないし、まあ、無事か」
「いやいや、なんでお前達はそんな冷静なんだ!? 竜だぞ! いくらこの皇国の象徴とはいえ、人が従えているわけではないのだぞ!」
「陛下、ミレイアの心身に何かあれば、我が家に居る不死鳥が黙っていません」
「は? 不死鳥?」
「ミレイアが十二歳の時に、拾ってきました」
「犬や猫じゃないのだぞ! そう簡単に幻獣を拾ってきてたまるか!」
そうですよね。それが普通の反応ですよね。
俺達はもう、お嬢に関するそういう感覚は麻痺していますけど。
でも、本当に「ちょっと出かけてきますわ」と転移魔法で出かけたお嬢が、「拾ってきました」と言って連れてきたんですよね、不死鳥。
普段は三十センチに満たない朱色の鳥の姿ですが、本来の姿は……うん、あれはやばいですね。
それをあっさり従えるお嬢は、やはり規格外すぎます。
「竜の巣など、どこにあるのかもわからないのに。どうしたら……」
「大丈夫ですよ皇帝陛下。ミレイアならそのうち帰ってきます」
「ジュピタル公爵、お前! 娘が心配じゃないのか!」
「ミレイアは私を越える魔導士です。その実力は確かですし、本当に、ミレイアの心身に何かあった場合、繋がっている不死鳥が黙っていないので」
「繋がっている?」
「なんでも、見つけた時に怪我をしていたので、魔力を盛大に注いで治療したら、そういう関係になっていたそうです」
「非常識すぎるだろう! どこの世界に幻獣とそんな関係になる人間がいる!」
「実際ミレイアがそうです」
閣下の言葉に、皇帝陛下の顔が盛大に引きつっていますね。
さて、お嬢に命令された報告も終わったし、家に帰って『バンッ』……帰りたかった。
「父上! ミレイアが帰っていないと言うのは本当ですか!?」
皇太子様、せめて扉を開ける前にノックを、いえ、静かに入って来て欲しいのですが。
「ヒスイだったな!」
「はい」
「ミレイアをどうして残した! 何かあったらどうするつもりだ!」
「いえ、お嬢が帰って報告しておけと命令しましたので」
「ああああっ! だから討伐なんて反対だったんだ!」
「皇太子様」
「今からでも僕が探しに行かなくちゃっ」
「皇太子様、お聞きください」
「すぐに捜索隊を結成して」
「……いいから聞け、クソガキ」
とりあえず、このままだとすぐに飛び出しそうだし、うるさいので、魔法で体を拘束して、黙らせる。
「お嬢の実力を信じられないんだったら、婚約者なんざやめちまえ」
「ヒスイ、あまり虐めてやるなよ?」
閣下の言葉に、視線だけで一応頷いておく。
「その気になれば、お嬢一人で国を滅ぼせるんだぞ? そんなお嬢が簡単にやられるわけないだろう」
俺の言葉に皇太子様は目を瞬かせる。
「俺達のお嬢はな、竜に負けやしない。危害を加えられるんだったら、ぶっ殺して逆に食って帰ってくるような人だ」
食って帰ってくるという言葉に、閣下は頷いたが、皇帝陛下は顔をひきつらせた。
「お嬢はちゃんと帰ってくる。皇太子様はお嬢が帰って来た時、いつも通りの態度で居ればいいんだよ」
そう言って魔法を解く。
「では、俺は家に帰ります。いいですよね、閣下」
「ご苦労だった」
退出の許可が得られたので、皇帝陛下の執務室を出る。
扉を閉める寸前に、「ミレイアァァァァァ」という皇太子様の叫び声が聞こえましたが、俺には関係ありませんね。
転移魔法で自宅に帰ると、装備を解除して一つ息を吐き出してから、窓からジュピタル公爵家の屋敷を見ます。
騒ぎが起きていないという事は、不死鳥はいつも通りという事で、それはすなわち、お嬢には何も起きていないという事です。
ジュピタル公爵家に所属している魔導士の中でも、俺は実力がある方で、何かにつけてお嬢のお供をする事が多い。
魔導士の世界は、子供が憧れているような輝かしいものでも、甘いものでもありません。
努力に努力を重ね、強さを身につけるほど、自分よりも一回り下のお嬢の実力の底が見えなくなってきます。
強いからこそわからないものが見えてくる。と言うのは閣下の言葉です。
魔導士の試験で、それまであった自尊心とか、なんか色々ばっきり折られて、叩き込まれたのは絶対的な実力主義でした。
黒薔薇様の容赦のなさを受け継いでいるお嬢は、そんな教育を受けた俺達にとっては、常に目指すべき目標です。
本当に、桁外れの化け物並みの絶対的強者を前にすると、嫉妬とかどうでもよくなります。
浮かんでくるのはその力への憧れ、尊敬、忠誠心。
「はあ、でも流石に竜は拾ってきませんよね?」
あのお嬢なので、絶対にないと言いきれないのが恐ろしいです。
さて、お嬢が帰ってくるまでに、逃げ出した兵士や騎士のリストを作っておきましょうか。
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