挑戦者たち。

1月7日(金)


 ついに日本を立つ。LA経由でマイアミへと向かう。週明けから本格的に自主トレが始まるのだ。行先はアメリカでの母校。マイアミ近郊にあるBSA(バーナード・スポーツ・アカデミー)。日本の母校とは同じ系列だ。


 今年のオフはシーズンの疲れを抜きながらもしっかりと鍛えてきた。最近少しづつ目に見えて筋肉がついてきたことを実感できるようになった。


1月8日(土)


 BSAに到着。入口ロビーには俺の写真とバット、ユニフォームが展示されているので俺がここのOBであることはここに在籍する生徒たちには知られている。


 生徒たちが歓迎パーティをやってくれた。なんと料理は日本の「カレーライス」。ただこれは「偶然」ではない。俺のスポンサー企業の提供によるもの。俺も出るTVCMの「フロリダロケ」は翌日行われる予定でエキストラもこの学園から選ばれているのだ。


1月9日(日)


 そしてその「カレー」のCMロケ。何テイクも撮っていた。エプロンを着けた俺が子どもたちにカレーをふるまい、子供たちと俺が美味そうにそれを食うというやつ。


 背景となる風景は最高だからな、エキストラもいかにも日本人ウケしそうな子たちばかり選ばれていて笑う。


 この日合流した後輩メンバーは「カレーが美味い」と無邪気に喜んでいた。


1月10日(月)


 「そういや日本じゃ『成人の日』ですけど健さんは出なくて良かったんですか?」

後輩の小囃子美弦ミッツが俺に聞く。

「ああ。一応メッセージは送っているから問題はないと思うぞ。……それに成人式アレは振袖を着たい女子と暴れたいDQNのため行事だ。一般人の俺には縁がないと思うわ。」

「亜美さんの振袖姿の写メはないんですか?見せてくださいよ。」

俺の「一般人」アピールをスルーして安武景虎トラが要求する。

「ほらよ。」

 亜美と両親の3ショットの写真。亜美の振袖は大柄の亜美が着ると映える柄の大きなものでベースとなっている濃いグリーンもメイクでは隠せない程度には焼けた彼女の肌色に合っている。鍛えすぎて肩が「なで肩」ではないのが和装にはちょっとした違和感かもしれん。

「顔ちっちゃ!」

女子みたいな反応やな。


 この日、先輩たちも合流。本格的に「合同自主トレ」が始まっていく。俺とスポンサー企業との協力で食堂カフェテリアのメニューに「カレーライス」が正式に導入され、先輩たちも早速それを食べていた。時差ボケした身体には「慣れ親しんだ」味は効くよね。


 1月28日(金)


 約3週間にわたる「合同自主トレ」。2月1日からNPBがキャンプインするためここで「お開き」に。まだ卒業して数年も経っていないのでノリは学生時代のまま。

最後に皆の抱負を聞く。


 やはり一律に所属チームのシーズンの優勝だった。そして翌年行われる予定のWBCへの代表入り。今年はどんな1年になるのだろうか。


 みなはマイアミの空港からキャンプ地の沖縄、宮崎へと旅立っていく。

俺は新人王の表彰式があるNYへ。全米野球記者協会主催の晩さん会があるホテルへ。ブラックタイ(正装)のドレスコードがあるのだ。ようは「タキシード」で来いということ。さすがにタキシードはもっていないので借りなければならないのだ。


 1月29日(土)


 俺に合うタキシードがあるのがやはりマッチョの国アメリカというところか。

広々とした会場には報道関係の人がやはり多い。もちろん、日本のマスコミの記者さんたちもいて俺の新人王受賞を祝ってくれた。


「健ちゃんそれで成人式に出たの?」

「いやいやこれはこっちで借りたやつです。」

「いつもユニフォーム姿しか見たことないから新鮮だねぇ。」

俺が談笑していると


「よう、新人王、『馬子にも衣装Clothes make the boy』じゃねーか。」

ア・リーグMVP、首位打者のジョシュが俺の肩をたたいた。

「boyはやめてよ。一応タイトルも獲ったんだしもう『大人(man)』で良いでしょうよ。」

いつまでも子ども扱いである。


 「健ちゃんミルトン選手と2ショットいい?」

「いやさすがにトロフィーもらってからの方が良いと思いますけど。」


立食パーティーなので料理をもらって会場の脇の方でひたすら食う。

「これからスピーチあるのに余裕ね。」

由香さんも「協会員」なので出席してた。

「腹がへっては戦はできぬなんとやらですよ。」


新人王のスピーチはトップだからな。

 

 ナ・リーグ新人王のSFグロリアスの捕手、パスター・ボージーの後、壇上に呼ばれてトロフィーを受け取った。そして壇上のマイクの前に立った。


 




 

 



 






 

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