ゆく年くる年
12月31日(金)
まさか年内いっぱい仕事が入るとは思わなんだ。というかそんなギリギリでもいいものなのか。
東京のジムは年末でほぼ貸し切り状態。さすがに大晦日までトレーニングという方は少ないらしい。
そして俺は熊野さんと専属トレーナー契約を改めて結ぶこととなった。
ようはマシューの正式な後釜ということになる。というよりマシューと比べても「上位互換」でしかないよね。ちなみに「年俸」は俺よりも高かったりする。ただし
またセントピートで新しい家を探さなければならないがそれも彼に任せることにした。球団も
午後からは東京のJHKホールでの仕事。いわゆる「紅白歌合戦」。俺の楽屋にはひっきりなしに挨拶がくる。日本での野球人気はまだ終わってはいないんだな、と自覚する。
特にジョニーズのタレントさんたちは野球が好きな人が多く、出演者がほぼ全員があいさつに来てくださり、妹の欲望を十二分に満たしてくれてありがたかった。妹よ、偉大な兄を大いにほめたたえてもいいのだぞ。
「お兄も年一くらいしか役に立たないんだからこれくらいしっかり働いてよね。」
……口の減らん妹め。
ちなみに今年は「白組」が優勝。視聴者投票を加えるとどうしても「組織票」というものが生じるらしい。俺は「紅組」に入れたんだけどね。
1月1日(祝)
平成も23年と改まる。俺宛ての年賀状がすごいことになってる。事務所宛ても含めると数がやばいことになりそうなので、こちらの対応は事務所にお任せすることに。
仕事とはいえ、帰ってきたら年が明けていたので午前中は寝ていました。
そこから先は普通の日本人の家庭の正月風景。少し違うのは実家近くにある企業チームのラグビー場をお借りして走り込みだけはやったけど。
あれから亜美とは「直接」会っていない。もちろん魔法による「通話」で毎晩会えるし、今は彼女の持つ「収納魔法」の扉を双方から開けば手ぐらいはつなげる。今はお互い実家に帰省中なので明日から一緒に走り込みの予定だ。
今は恋愛に溺れる前にお互いにやることは多い。特に亜美にとってはここからわずか1年と数か月の過ごし方が彼女のその後の人生を大きく左右することになるはずだ。
それは俺にとっても同じこと。いずれ規定回数を投げ、規定打席数に立つ。それを「より高い」レベルの成績でこなすためには成長期の残された限られた期間を十分に活かすことが必要なのだ。……これが「魔法」をこの世界に持ち込んだ俺にできるせめてもの誠意だ。
1月2日(日)
実家に親戚が集まってきた。どうせ朝から「駅伝」を見ながら酒を飲むという変な習慣には付き合いたくもないのでラグビー場へ。俺が借りてるんだが、勝手に入り込んで凧揚げをしている親子が数組。田舎あるあるなんだけどトレーニングの邪魔さえしてこなければいいや。
亜美も到着。寒いので入念にストレッチをしてからランニング。いわゆるダッシュとランニングをはさんだいわゆるインターバル。ボールは使わないトレーニングなので野球選手とは思われなかったかも。
1月3日(火)
今日も午前中は亜美とトレーニング。普通に走っているだけだからデートに見えるかどうか別として俺たちは楽しかった。
午後から両親は年始のあいさつ回りに。なぜか俺のところにあいさつのアポをとりたがる方が多かったそうだが「政治家」はお断りしている。特に今年は統一地方選挙があるらしく俺との2ショットが欲しいオジサマが多いのだ。
年内の話にはなるが地元商工会の「壮行会」の開催の申し込みもあったそうだ。経済的に厳しい時代だからこそあの手この手で町おこしをしたいんだろうな。
「健はいつアメリカに戻るの?」
クールダウンのストレッチしながら亜美が聞いてくる。
「金曜日かな。亜美は大学にはいつ戻るの?」
俺が聞くと
「成人式が終わったらだよ。」
さも当然のごとくに言う。せ、成人式?そういえばそんなイベントもあったわな。日程があわなかったのでゲスト出演は断り、メッセージだけ撮ったの思いだしたわ。そして自分自身が新成人であることをすっかり忘れていた。
「おじいちゃんおばあちゃんたちはがっかりしてなかった?」
さすがに振袖を着る女孫より期待値は下だと思うがな。
「それで
二人とも野球つながりじゃん。新成人代表はスポーツ関連になるのは仕方ないことではある。さすがに身長175cmを想定した振袖はなかなかないだろうな。結局、所属事務所の社長さんのつてで反物から仕立ててもらうことになったという。
「まあモデル料をひいてくれたからまあまあ安くしてもらえたけどね。美人は得ってことだよね。」
「はいはい。」
「なに、そのリアクション。」
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