「契り」
「
亜美が疑問符を頭に載せたような表情をする。お前それでも国立大学生かよ。あ、スポーツ推薦でしたね。女神も「『かまとと』か?」と言いたげな表情を浮かべたが言葉にはしなかった。
「ということだ。こう見えてわらわも暇ではない。用向きが済んだのであれば早々にお引き取り願おうか。」
12月23日(木)
俺たちはそれぞれのベッドルームで目を覚ました。
本日は祝日。天皇誕生日である。平成になってから日本人にとってクリスマスがなんとなくありがたい行事に感じられるのは天皇誕生日と接しているからだろう。
朝食に集まったカップルたちがうざい。朝からベッタベタである。見ていて暑苦しい。
「ベッドルームで2つあると楽でいいわね。」
ステイシーの独り言に由香さんがうなづいた。な、なにが楽なんですかね?(すっとぼけ)
「健、今日はわたしたちもダイビング行きたい。」
亜美が言い出す。由香さんが納豆を混ぜながら言った。
「とてもキレイな海だったわよ。私たちは今日はビーチでのんびりするから、行ってらっしゃい。」
ラブラブカップルの起こす熱に焼きだされる形で俺たちはダイビングへ。ちなみにライセンスは昨年取っている。
ひとしきり美しい海を堪能したあと亜美が
「ねえ健。昨日の『夢』、どう思う?」
一応夢については説明したのだが。本人も自分で検索して「契り」の意味は理解したようだ。スマホは便利だね。
「俺は亜美の意志を尊重するよ。亜美に告白したずっと前から俺の心は変わってないし、これからも変わることがないから。」
あくまでも「鍵」を渡すのは亜美なんだよね。まあ異世界の時は「
「でも私の夢をかなえるためには健の力が必要だし、かといってあんたの力を利用したいからあんたと『そーゆー』関係になるのは違うというか。」
亜美は「混乱」している。俺は「状態異常解除」をかけた。
「亜美って、自分の初恋の相手って覚えてる?」
俺の唐突な質問に亜美は少し声を荒げる。
「はあ!?……そりゃ覚えているわよ。」
「俺も覚えているよ。小学校に上ってリトルに入った時だ。その子はキャッチボールの相手を探していたんだ。そして、俺を見たとき、俺の相手が空くまでずっと待っていたんだ。あまりにも期待に満ちた強い視線を送ってくるもんだから、俺は早々に切り上げてその子に言ったんだ。」
俺の言葉を亜美が遮る
「亜美、俺とキャッチ……するか?ってね。私だって忘れたことはないわよ。ママたちがずっと言ってた『王子様』が私に話かけてくれたんだから。しかも私の名前まで知っててくれて、キャッチに誘ってくれて『お前、キャッチ上手いな』って褒めてくれて。それからずっと野球とあんたが大好きだって。私はどうやったらあんたの隣にいられるか、それしか考えてこなかったんだからね。」
すまん、そこまで言わせる気はまったくなかった。彼女には彼女の葛藤がったのだ。ただ「世界一の女子選手」になってもまだ自信がないというのも困りものではある。
「だからあんたの隣にいても誰にも文句を言われないためならあたしはなんだってするよ。」
いや、今でも十分なにも言われないとは思うのだが。
その晩、俺は亜美に「合鍵」を渡された(比喩表現)。確かに、ベッドルームが2つあると楽だわ。
12月26日(月)
短い「バカンス」が終わる。沖縄本島へと戻った俺たちはそれぞれの行先へ。
俺も実家に戻ったら一騒動だった。
「22日の発表は見ましたか?」
「いや、『出張先』だったもんで……。」
ことの
ただしここから妹のPRがはじまる。今年はジョニーズの大運動会(野球大会)がなかったので代わりに紅白に連れて行って欲しいというのだ。あのなぁ、そんな理屈が通用するほど世の中は甘くはないぞ。と思ったが、俺が出演の際には楽屋までついてきてよいとJHK側と勝手に交渉が成立していたのだ。
結局俺は兄としてリトルリーグ時代に妹に我慢を強いた過去に耐え切れず出演を許諾してしまったのである。そこを責められると兄ちゃん弱いんだわ。ほんと妹ってくっそ可愛くともなんともねー。前世の妹にはもっとなにもしてやっていない、そんな無駄な人生経験の積み重ねがいらぬ罪悪感を醸成するのだ。
あんたがプロ野球選手になるまで協力してやったんだから、なれたお前は私の希望をかなえるために協力すべきだ。妹の理屈はほぼ屁理屈だが説得力は否めない。
ただ俺は平成以降の日本の音楽界についてはほとんど無知だぞ。
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