一歩前へと進むために

12月21日(火)


 とある沖縄県の離島。そこにあるリゾートホテル。

それは昨年と同じところで沖縄の霊場パワースポットにほど近いところにある。


 日本は「多神教」文化の国であるがゆえに霊場は多い。霊力を集め、「転生の女神」のもとまで赴き俺の要求リクエストをつきつけるというものだ。


 参加者は俺の親友であるジュニア(ケント・バーナードJr.)。亜美と俺。由香さんとマシュー、そして熊野さん。さらにジュニアの彼女ガールフレンドのステイシー・マークス。現地集合ということだったが俺と熊野さんがホテルにチェックインしているとすでに昨日から滞在しているというジュニアがステイシーとともに迎えにきた。


 ラフな格好ですでにくつろいでいる様子。俺はステイシーと会うのは初めて。


彼女は清楚な感じのフランス系イギリス人の美人さん。フランス人系の血で柔らかい感じに見える。現在はイギリスの大学に通いながら演技の勉強をしているそうだ。


 小学生時代をジュニアと東京の同じインターナショナルスクールで過ごしたいわゆる「幼馴染」というか「同級生」か。ただ6年間日本にいたのに日本語はまったくできないそう。彼女とは去年のウインブルドン(全英オープン)で数年ぶりに再会したそうだ。


 俺が野球選手なことは知っているが、野球そのものにあまり関心がない国の人なのでそこは「ふーん」って感じだ。うーん野球って……マイナースポーツ。とはいえアメリカでもっとも人気のスポーツは野球よりもさらにマイナースポーツな「アメフト」なので。


 夕方には新婚旅行中の由香さんとマシュー、そして亜美が合流。初日の晩さんは大いに盛り上がる。

「すごいね。20歳の若者の泊まるホテルとは思えないね。」

マシューが感心したとも呆れたとも言いたげ。

「でも親のお金じゃないのよ。自分の稼ぎで来てるんだから、そこは褒めてあげてね。」

由香さんが旦那さんにくぎをさすのを忘れない。


 泊まる部屋は亜美と同室の「スイートルーム」である。子どものころ「sweet(甘い) room(部屋)」だと思っていたんだよね。実際はちゃんとベッドルームが2つあります。さほど甘くないのですよ。「suite(一揃えの)room」なんです。


 なのでキッチンもリビングもついている部屋ってわけです。

「あ、そういえばあたしも新婚さんが泊まる部屋だと思ってた!」

亜美もそう思っていたらしい。とりあえず今回の旅行、そして明日の予定を説明。


「じゃ、おやすみー。」

そそくさと別々の部屋で寝ましたとさ、というお話。うむ、ビターである。


12月22日(水)


 早朝から「霊場」へ。もちろん、地元の住民が大切にしている伝統的な場所ではなく、実際に「霊的な力」が集まる場所へ向かう。熊野さんの案内で俺と亜美はそこで一日過ごす。


 残りのカップルはスキューバダイビングだそうだ。


一日過ごしてホテルに引き揚げる途中熊野さんに感想を

「いやー『霊力』たまったわー、って実感あるわけないじゃないですか。」

亜美が笑って否定する。ま、そうだよね。


 その晩、別々のベッドルームで眠りについたはずの俺と亜美は「白い部屋」にいた。

「ここはどこ?夢?」

そういえば「亜美」がここに来たのは初めてだったか。


「まあ夢と言っても差し支えはなかろうさ。なにせ本来は生者が来るところではないからな。」

女神は「愉快」さと「迷惑」さをないまぜにした表情を浮かべてくる。

「勇者よ。確かにそなたはかつて勇者団の『末席』であったゆえ十分な能力を与えなかったことは確かだ。それゆえ様々な苦渋や労苦を負わせたことも事実だからな。そなたの些末さまつな願いを聞いたり助言を与えることにはやぶさかではないぞ。」


 俺のリクエストは魔法の遠隔施術。亜美の身体強化のための「自動回復」をかけるためには「魔石」に付与魔法エンチャントとしてかけるしかないからだ。同じ日本に住んでいればいいけど遠く離れて暮らす今、これは問題。


 あとは「鑑定魔法」の強化と、魔法術式の編集権限の強化。俺は「心技体」を鍛え上げるために必要なものだ。……ちょっと欲張りすぎたかな。


「良いぞ。許可しよう。」

女神の裁可はあっけなかった。

「まず、そなたが望むものはそなたが暮らす世界の秩序の根本を揺るがすものではない。それにそなたの持つ魔力量はそれなりではあるが、どれだけ変化を与えようとも些末なものだ。」


 「ありがとうございます。」

頭を下げたものの内心イラっとする。女神の言はお前の能力なんて大したものじゃない、という意味だからだ。


 確かに「大量破壊魔法」とかだったら大問題だもんな。


「あと、遠隔施術についてだがそなたの魔法の特性上、無理だ。わらわが許可するしない以前に届かない。だが、やり方がないわけでもない。というかそなたが勇者として戦っていた時代、その問題は自ら解決していたであろう。」


「は?」

「忘れたか?亜美の特殊能力は大容量の収納魔法だったろう。そしてそなたも合鍵アクセシビリティをもっていたではないか。その扉を使えばどれだけ遠くに離れていようとつながることは可能だったではないか?」


 確かに。亜美が魔王軍に拉致されたときに使ったわな。

「では?私に合鍵を渡してくださると。」

俺が尋ねると女神はにやりと笑った。

「わらわが渡すわけなかろう。その権限を持っているのはわらわではない。そこな亜美ではないか。」

「え?わたし。それはかまいませんけど。」


「え……と、その受け渡し方法は。」

俺はそこまで言って思い出す。


「そう、そなたらが『ちぎりを交わす』ことさ。」







 







 

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