リアル野球BOARDは波乱含み

12月4日(土)


 大の字で眠る酔っぱらいはスタッフさんに担架に載せられ運び出される。会場は少しざわついたが多分そういうかただという印象があったのかすぐに静かになった。

まあ2時間も寝たらスッキリと目覚めるでしょう。


 新郎マシューの友人代表スピーチは俺。まあ考えてみたら彼には他に知り合いの日本人はいなかったわ。日本語が2割程度しか理解できないマシューは俺のスピーチをキョトンとした顔で聞いている。一応内容は英訳したものが彼の手元にある。


 マシューは隣の由香さんに「健って日本語が上手なんだねぇ。」とささやいたらしく、由香さんが笑いを必死にこらえていた。くっそ、俺より面白いこと言ってんじゃねぇ。


 ちなみに披露宴後、新郎新婦と記念写真を撮影した流れで俺と記念撮影という参列者の流れができる。なんじゃそりゃとも思ったが、これ目当ての参列者も多かったらしく二人のためになればそれもいいか。


 12月6日(月)


 今日と明日はTVの正月番組の収録のお仕事である。今日は打合せで出演者と顔合わせ。昨年は某美少年タレント事務所の野球大会のゲストの仕事もあったのだが今年は大会そのものがなかったようで、妹ががっかりしていた。


 なので今年は「リアル野球ボード」にスペシャルゲスト出演で呼ばれました。今回のメインゲストは日本シリーズを制した千葉マリナーズ。そこには母校の先輩である中里大智ダイチさんもいてご出演の予定。


 「よう健、久しぶりだな。」

控室に入るとさっそく声をかけられる。


「おはようございます。本日はよろしくお願いします。」

なんとなく学生時代のノリにすぐ戻る。


「おー、健ちゃん久しぶりやな。」

中里さんの同僚で北京五輪で同じチームだった捕手の里咲さんや内野手の西丘さんも一緒で少しほっとする。


「身体がでかくなった?」

「はい。オフは筋トレ三昧ですね。」

「メジャーってどんな感じ?」

西丘さん、メジャーに行きたいというのは噂だけではないようだ。


 その後は出演するタレントさんたちも含めての打合せ。驚いたのは亜美も呼ばれていたことだ。

「あれ?今年はよく会うね。」

まー。いけしゃあしゃあと。

「お互い『秘密兵器』ということでよろしく。」

まあお互いみんなの前ではしゃぐわけにもいかない。


 ただ問題もある。俺はTV出演自体は個人の差配なのだが当然レイザースのユニフォームは権利問題でNGである。よって高校時代のユニフォームということに。


 高校3年時の「幻のユニフォーム」を着ての出演と決まった。なぜ幻かというと6月のMLBのドラフトにかかってしまったためその夏の甲子園への出場が不可になったのだ。そのユニフォームが日の目を見ることに。ちなみに背番号ゼッケンは局の方が俺の代名詞でもある「∞」を作ってつけてくれるそうだ。


「でもお前らよくその番号つけられるよな。俺は恥ずかしくて無理だわ。」

中里さんがぼやく。

お前「ら」と言ったのは俺の1年後輩の安武トラたちが「∞」を背負ったところにある。今年のNPBの新人王はセリーグが安武トラ、パリーグは三原が獲り、俺を含めた3人の新人王が「∞」を背負っていたことで話題になっていたのだ。


 そこに「番組ホスト」で「とぅねるず」の「タカさん」が挨拶に来た。TVで観るのとはまるで違う腰の低さ。正確にはアスリートに対するあふれんばかりのリスペクトである。まあどっちの世界も「体育会系」なのだろう。


「あれ健ちゃんマジ来てくれたんだねえ。ありがとう。マジ嬉しい。俺も今回は背番号『∞』でいこうかなぁ。」

それはやめておきましょう。普通に俺がゲストってバレますって。


 12月7日(火)


 東京ドームを終日借り切っての収録本番。「リアル野球ボード」は某玩具メーカーが出している「野球盤」を律儀に「原寸大」にするという暴挙をやっているだけのゲームだ。ようはこれこそTVにしかできない「良い意味で」バカげた企画なのである。


 アマチュアがプロフェッショナルに挑む形をとっているため、アマ側が金属バット、プロ側が木製バットという制約があるがピッチングマシンを使った野球ゲームなのだ。落下地点によって結果が変わるためフェンスを越える打球以外は予想がつきづらい。


 俺と亜美は控室でモニター観戦。呼ばれるまで出番はない。5回制なので早いうちに呼ばれるだろう。


「これ難しくない?」

バッティングセンターはよく行ったものだが、亜美も「フリーバッティング」をしたものの納得がいかなかった様子。


 「そうだね。東京ドームを意識しちゃうと変に力が入るよね。俺は普通にバッティングセンターだと思って打ってるよ。」

俺もアドバイスというより感想しか言えない。


「そうかぁ、平常心か……。」

もちろん、スポーツにおいて「平常心」ほど難しいものはないのだが。


 俺が呼ばれたのは4回。意外に遅かった。千葉が2点ビハインドで一死二塁一塁のところで呼ばれたのだ。まあ「お遊び」なので勝ち負けはどうでもいいのだが「責任」は取りたくないところやな。後でイジられるのいやだもん。


 「日本一ったって所詮リーグ3位だもんな。」

と「煽られた」マリナーズ。3位から日本一までのし上がったのを「下克上」と言っているのだが。


「アメリカじゃレギュラーシーズンとポストシーズンが別物なんて常識やぞ。そんなこともあろうかと、今日は本場アメリカから助っ人を呼んでるんだぞ。助っ人カモーン!」


 中里さんに呼ばれると、そこで昨年の「天井弾」の映像をおさらいして俺登場。

「千葉のくせに埼玉県人を呼んでるんじゃねーぞ!」

タカさんチームから言ってはいけないツッコミが。実はこれを言った芸人のゴルゴ松木さんは俺と地元が被ってまして、埼玉県人独特の自虐ネタのつもりが中里さんにニュアンスがまったく伝わらなかったという悲劇。


「俺は東京生まれで東京育ちだ。田吾作風情が都会もんを気取るんじゃねー。」

中里さんがガチキレ。だから青春を送った地域が我々全員が近かったんですって!普通にうちの母校に寄付してくれてる良い人なんですって!


 まー、中里さんも典型的な江戸っ子気質なんだよな。

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