「なろう」っぽく身体をつくる

10月26日(火)


 とりあえずストレッチから始める。熊野さんは最近は「Ben-K」という怪しげなネームで活動している「スピリチュアル整体師」(これも怪しい)なのだ。


 もちろん、これは「魔法」など存在しないこの世界だからそう言えるのであって、少なくともかつて俺がいた「並行世界」では普通に治療師ヒーラーに分類されるごく真っ当な存在だ。もっとも基本は「結界魔法」なんだけどね。「結界魔法」と「ヒール」が万能なのは「なろう」的にはお約束なのでそれはいいのである。


 彼はケントや俺の「魔力」の流れが「視える」ようで、今はケントの秘書みたいなことをしながら「修行中」なのだそうだ。


「沢村君の『気』の流れはどうやら『回復』を促す気の流れのようですね。それも良いですが『成長』を促す流れの使い方をレクチャーするようにと師匠せんせいから承っている。」


 熊野さんの霊能力者としての原点は「修験道」と母方から伝わるネイティブアメリカンの秘術らしく、今日再会したばかりの俺にとっては「情報量が多すぎる」という状態だ。とにかく、今の俺にとって必要な存在、ということにしておく。


 ストレッチとともに「ヨガ」にも「太極拳」にも似た瞑想を伴う身体の動きを教わる。一応俺は「気の流れ」とやらは見えないんおだけど自分の身体の状態を「ステータス画面」で確認できるのでそれを確認しながら進めていく。



ランニング、ストレッチ、筋力トレーニング、ストレッチを繰り返しながら予定時間いっぱいトレーニング。


 このジム自体は自社の宣伝のために俺のトレーニング場所を提供したそうで、スタッフさんたちがそろった10時くらいに歓迎式典をやってくれた。これに付き合うのが「料金」なのでしかたがない。「10時」というのも「プロ野球選手は朝が弱い」という先入観によるもので(間違ってはいない)ご愛嬌である。


 そのあとは昼食をとってTV局へ。打合せ、撮影と続く。インタビュアーの女子アナさんはいずれもトップ(エース)の人たちばかりで俺のような「ぽっと出」のメジャーリーガーを歯牙にもかけないまともな女性ばかりだった。みんな実業家とか医者とか「地に足がついた(笑)」お金持ちと付き合っているらしい。チョロいのはなにも「野球選手」だけではないのだ。


 ただいちばん困ったのが日本シリーズはどちらが勝つ?という質問だった。今季の対戦は名古屋ドラグーンズと千葉マリナーズ。名古屋には母校の一年後輩である安武景虎トラがいて、千葉にはやはり母校の一年先輩の中里大智ダイチさんがエースを張っている。


 それを説明してから「4勝3敗で千葉というと一番角が立たないんで」と締めくくった。


 夜は夜で、インタビュー収録後はそのまま接待があるのだけど、その席にはスポーツ局の局長さんとか取締役とか下手すると社長さんとか出てきて俺にMLBの面白話をせがんでくる。さすがにお酒は乾杯時のビール以外は断るのだけど、もうすでにどちらが接待してるのかわからないレベル。彼ら的には「芸人」の類なのだろう。きっとここで俺の話を仕入れてキャバクラあたりで披露して女の子たちに感心されたいのだろう。(個人の感想だが)


 そして、ここに動員される女子アナさんたちがいわゆるケントの言う「警戒対象」だったりするのだ。


 たださすがに料理は美味しい。アメリカに滞在する以上「舌」はアメリカレベルにしておかないと生きるのがつらいからだ。


 日本の飲食店のレベルは、日本人調理師がアメリカにそっくりそのまま行くと、アメリカの調理師の上位10%にそっくりそのまま入るだろうというレベル。(個人の感想だが)


11月2日(火)


テキサスが現地時間11月1日(月)についにワールドシリーズ制覇。いつも通りにトレーニングをしていると報道陣がやってきてコメントを求められた。


「首位打者のジョシュは昨年マイナーリーグからメジャー昇格まで1年間ずっと一緒にやってきた仲なので本当に祝福の気持ちでいっぱいです。来年は同じ位置に立てるように精進したいと思います。」

ン?「精進」なんて言葉、俺のボキャブラリーにあったっけ?なんやかんや言って熊野ベンケーさんに毒されている。


 MLBの全日程が終わったところでTV局の最後のキー局であるJHKの取材が本格的に始まる。「公営放送」だけあって取材量が半端ないのだ。そして局員クルーの態度も横柄でいや。明らかに高卒の俺を見下している。日本語を間違えると丁寧に(慇懃いんぎんにといった方が良いか)訂正していただいてやり直し。いっそ台本くれよ。


 だいたいお前らが翻訳してる監督や記者の英語でのコメントの日本語テロップだってガバガバな翻訳じゃねーか。大人気おとなげないのでつっこまんだけやぞ。



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