「王」の凱旋。
10月24日(日)
ついにアメリカを離れる。次に帰ってくるのは年明け。ちなみに自腹でビジネスクラスにしたものの、座席一列使い放題のチャーター便よりは窮屈。
朝7時の便に乗って5時間半ほどのってロスにつくとまだ朝の9時過ぎ。相変わらずこの時差だけは慣れない。
ロサンゼルス国際空港で日本行きの便で乗り換えだが午後一の便なので4時間待ち。
待ち時間の間、何人かにサインを求められる。おお、日本人以外にもちょっとは顔が売れてきたかな。
10月25日(月)日本時間。
今日から日本時間。午後2時初の飛行機に12時間近く乗ってついたら翌日の夕方5時ころ。まあ
ロビーを通過しようとすると規制線を張った向こうに大勢の皆さんが。焚かれるカメラのフラッシュ。さすがに商売道具の眼をやられるわけにはいかないのでサングラスをかける。
「健ちゃーん!」「お帰りなさーい!」「おめでとー!」
声が響く。最初は他人事だと思っていたがまさかの俺の大歓迎だったのだ。タクシー乗り場に向かう前にとりあえず簡単な「帰国記者会見」に。
今シーズンはどうでしたか?
「大きな
新人王は獲れそう?
「記者投票で決まる賞なのでそこはわかりません。セーブポイントの新人記録と僕の本塁打の新人記録のどちらかになるのではないか、というのがあちらの記者さんたちの大半の意見でした。」
来季の目標は?
「個人としてはとりあえず体力不足が課題ということが明らかになったのでシーズンオフというよりはトレーニングシーズンの開幕だと思ってトレーニングに専念したいですね。
チームとしてはまた来季もポストシーズン参戦を目指していきたいです。」
オフのご予定は?
「トレーニングあるのみですね。成長期というのはあと何年も残っていないので身体の疲労も抜きながらしっかりと鍛え上げたいですね。」
日本のファンに一言。
「暖かい応援ありがとうございました。来年もよろしくお願いします。」
タクシーで東京まで。というのも日本シリーズの始まる前までは東京で「仕事」があるそうだ。ホテルにチェックインしてケントに連絡を取る。
「お、帰国会見をTVニュースで見たよ。そつなさがよかったね。そうだ、せっかくだから晩御飯を食べながら今秋からの予定を話そうか。」
ケントも東京にいたようだ。というか、息子がアメリカの大学へ進学、そしてプロテニスプレーヤーに転向してからは東京に生活と活動の拠点を移している。
高級な「回らない」寿司屋だった。
「健、あまりキョロキョロしないでくれ。お上りさんみたいだぞ。」
はいはい、埼玉からフロリダへと辺境の生活が長いんですよ。まごうことなきお上りさんです。
かくいう仕事とはTVの民放在京キー局を回ってインタビューを受けるそうだ。いや、共同でやれば一括で済んでよくない?
「そうはいかないよ。キミのスポンサーになる企業もそれを望んでいる。知名度が上がった方が顧客への訴求性は上がるしね。」
野球選手であってもプロである以上はエンターテイナーである必要もあるのだ。
「それにね、各局も他とは違う切り口を見せたくて躍起になってるよ。」
「切り口って?」
「多分野球に関係ない話が増えるってことさ。まあどのTV局もキレイどころ(の女子アナ)をインタビュアーにして売り出したい、ってとこもあるぞ。もしかしたらキミの奥さんになりたい人もいるかもね。」
「いや、当方20歳になったばかりのガキですけど。」
「ガキだからさ。女慣れしてない野球選手なんてチョロいと思われてるからね。まあキミには亜美がいるから心配はしていないけど、あまりデレデレすると亜美に嫌われるぞ。」
そして東京滞在中のジムとそこでパーソナルトレーナーを紹介することも。
「もちろん、午前いっぱいはトレーニングに当てることができるよ。トレーニングは何時から始める?」
「6時からだよ。」
「え?」
「いや、ストレッチからはじめるから。」
10月26日(火)
幸い、ジムは24時間営業ということでさ
っそくタクシーで向う。普通は会員限定の営業時間らしい。東京にお勤めの方が出社まえに汗を流すんだろうか?ジムの入り口に俺と背丈が大して変わらない男性が待っていた。見知った人物。
「沢村君、久しぶりだね。」
「熊野さん?」
「覚えていてくれて嬉しいよ。」
熊野さんとはアメリカのパワースポット、セドナに一緒に行ったことがある。そしてなによりも先輩たちの甲子園5連覇を阻止した因縁の相手でもある。
「沢村くん、僕がキミのパーソナルトレーナーというわけだ。」
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