日本に帰国してみた。

「捲土重来」を期して。

10月13日(水)


 さすがに今日は寝ていてもいいよね。来季へのスタートは明日から。と思ったらケントからの「通話」のオファー。了承するとカチッとしたスーツを身にまとった代理人。


「レギュラーシーズン、ポストシーズンお疲れ様。シーズンオフが早く訪れたのでね。今後のスケジュールについてだ。」


 MLBすべてのシーズンが終わるのがワールドシリーズが4戦で終われば最短で10月31日、7戦までもつれれば11月5日。そこから本格的なシーズンオフがはじまる。


 そして各賞が発表されるアワード・ウイークになるのが11月17日から20日。表彰式は年明けになるので「新人王」の発表を米国ここで待つ必要はない。


 その後に代理人による契約更改。今年も来季の最低年俸かプラスアルファ程度。なので「付加条件争い」になるようだ。給料アップは年俸調停権が手に入る2-3年後でそれまでは「最低年俸」でのプレーを強いられる。


 「それで、健は早めに日本に帰ってきて野球以外で稼ぐ必要がある。これもビジネスだよ。」

代理人のケントとしても俺の収入が上がれば自分の収益も上がるわけで。(とはいえ、ケント自身は俺の稼ぎを当てにはしていない)

 

「OK。その代わりトレーニングの時間と施設は十分に確保してくれるんだよね。」

「もちろんだ。パーソナルトレーナーも用意するよ。それもキミの稼ぎからね。安心してくれ。キミのCM1本の出演料はキミの年俸より高い。」

 

 それはジョークなのだろうが少し答える。打っては50本の本塁打、投げては10勝挙げたよりも1本のCMの出演料の方が高いというのはそれはそれで来ますね。


 そして宿題も出た。「野球用品」、「食品(サプリメントやプロテインなど)」や「アパレル(ウエア関連)」の「アドバイザリー契約」のオファーがいくつか来ている。アドバイザリー契約とは「アドバイザー」として契約し、リクエストをだすとそれに沿った製品の無償提供を受けるとともに、その開発された商品を市場で売ることができるというもの。それに関するアンケート資料に目を通して返答することだ。


 日本に帰国すると試作品をもってきてくれるらしい。こちらが金をとって「アドバイス」する以上誠実にしなければならないのだ。


「なので犯罪行為とか非行とか絶対にダメだからね。」

はい、肝に銘じておきます。



10月15日(金)


 今日からリーグチャンピオンシップを争うNYヤーナーズとテキサス・レイナーズの戦いが始まる。あと少しであの場に立てたのだと思うとかなり悔しい。この思いを俺はトレーニングにぶつけるしかないのだ。


 どこまで行っても下克上すべき頂は高くそびえている。


10月16日(土)


 朝起きて亜美の所属するつくば大の試合結果を見る。亜美は今日も2番指名打者。マルチ安打を放ち、ついに首位打者に立った。首都大学リーグは日本の大学リーグでも五指に入るトップレベルのリーグだ。そこで暫定的とは言え首位打者とはすごい。チームも勝っていた。


10月18日(月)


 亜美の所属する大学リーグの秋季リーグの全日程が終了。亜美の大学は最後の対戦カードで勝ち点が取れず3位で確定。そして亜美の首位打者も確定。当然ながらリーグ史上、いや大学野球史上初の快挙。それこそ女子初のNPBドラフト指名となるか、どニュースでは大きく取り上げられられる。


 個人的には球場が広く本格派投手が多いパリーグは難しいが、球場が比較的狭く技巧派投手が多いセリーグなら通用するかもという評論家の意見に賛成。


 でもセリーグは指名打者制度がないからなぁ。しかも亜美の使いどころ(左翼手)だと助っ人外国人選手を入れたいポジションだし、なかなか難しいところだ。なんかもう一つアピールポイントがあればなぁ、というところだ。


 俺のメジャー挑戦よりも亜美のNPB挑戦のほうがはるかに高い「下克上」の頂だと言える。


 10月19日(火)


 終日トレーニング。家に帰ると帰国日程が決まっていた。テーブルの上に置かれた航空券チケット。セントピートからLA、LAから成田。マシューが俺に気が付いて言った。

「次の日曜日だって。それまでに部屋の荷物もまとめておいてね。まあ見られたくないものがなにもなければやっておくけど。」

「うん。」

 到着は火曜の夜くらいか。この日に帰る理由は単純で、NPBのクライマックスシリーズが日曜までに終了し、日本シリーズが始まる次の土曜日の間ということだ。


 その期日はNPB側にケントが配慮したのだろう。トレーニング施設は日本の母校。まあほぼ地元に帰る、というわけか。


10月22日(金)


 ア・リーグのリーグチャンピオンはレイナーズに決まった。4勝2敗だった。ジョシュから久々にメールが来た。動画とともに「うらやましいか?」と煽り文句が。

「せやな(Sorta)。」とだけ返信しておいた。





 

 




 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る