「明日があるさ」

10月7日(木)


 ALDS第2戦。朝7時に球場につく。少し早めに着いたつもりがグラウンドで素振りやバッティングケージで特打ちをしてるやつもいた。聞けばすでに6時半くらいから練習を始めているらしい。やる気満々だな、というかそれくらいでないと困る。


 今日の先発はこちらがフィールズ、テキサスは今季15勝6敗の左腕CJ・ウィリス。

俺は6番指名打者。(打順が一つ上がった)


 試合は3回表、フィールズの三塁へのけん制悪送球でランナーのホームインを許すというこれまた最悪な失点の仕方。試合はこちらにとっていやな流れに。


 4回表には6番キンズリーにソロ本塁打を浴び0対2。その裏、俺に2巡目の打席。最初の打席はカーブと思ったらチェンジアップでタイミングを外してセンターフライだったので「落ち系」は手を出さないことに。あちらも俺をひっかけようと低めにカットボール、縦スラ、チェンジアップと変化球。ただ枠には入らず3B0S。


 そこに145km/hの真ん中やや内よりの絶好の4シーム。とりあえずカウントを整えるつもりだったがコースが甘くなってしまったのだろう。思いきり振りぬくと打球はセンターへ。今度は飛距離十分の2号2ラン本塁打。これで試合は2対2の振り出しに。


 と思いきや5回表に3ラン本塁打で2対5と再びテキサスがリード。7回の打席は歩かされ、二死満塁まで攻めるも得点ならず。結局このままの点差で推移。最後は例のネフタリ・ペレスも出てきてポストシーズン初セーブを挙げていた。レイザースは2対5で敗北。いきなり崖っぷちに立たされたのだ。


 こうなると3戦目の先発投手の俺の責任がいきなり重くのしかかる。晴れやかな笑顔で受け答えするテキサスナインとは対照的に冴えない表情の俺たち。


 10月8日(金)


 今日は移動日。午前中は球場で練習をしてから、午後にテキサスの本拠地へと乗り込んだ。


 ホテルで夕食を摂り、部屋に戻ってすぐ就寝することにする。デズやヘル吉に気分転換にホテルのプールに誘われたけど明日先発だしと断ってしまった。


 10月9日(土)


 ALDS第3戦。今日と明日はテキサスの本拠地で試合。もちろん、今日負ければそこでテキサスの勝ち抜けが決まる。明日を戦うためには今日勝たなければならない。


 午後4時に試合開始プレイボールという珍しい時間帯。10月の午後4時なのに気温が28℃だからナイターでちょうどいいレベルだ。もちろん、湿度は日本ほど高くはないので体調を崩すほどのものではない。


 ブルペンに日本からの報道陣が詰めかけている。今日は右投げ。テキサス打線は右の強打者が多い。それに本拠地のレイナーズスタジアム・イン・アーリントンは空気が乾燥していて球足が伸びやすい打高投低型の球場として有名だ。


 球場は5万人を超える大観衆が集まる。あちらの先発はルース(右・12勝13敗)。

試合は予想に反して投手戦の様相を呈している。


 俺は160km/hの4シームを高めのつり球に、外角低めギリギリいっぱいに決まる2シーム/スライダーと4隅を目いっぱい使った投球で凡打の山を築いていく。

高めの球はど真ん中に来る軌道に見えるのだが、回転がしっかりとかかっているためボールの下を振ることに。


 レイザースはここ2試合俺の本塁打以外で得点していなかったこともありルースが四球を出しても攻めきれず。ベンチには嫌な空気が。


 均衡が崩れたのは6回。先頭のドンゴを歩かせた時点でルースが降板。四球や単打が出るもまずい走塁と相手のうまい守備に阻まれ、BJの二塁打の一点どまり。とはいえ先制点は先制点だ。


 7回、テキサスのキングスリーにあわや本塁打という当たり。観客からため息がもれる。……俺もほっとため息ついたわ。


 8回にベーニャとショーンのタイムリーで2点追加。9回にもカールとベーニャのポストシーズン1号本塁打が出て6点。


 俺は8回無失点で9回はトリアーノにマウンドを譲る。トリアーノは5番クルーにソロ本塁打を許したものの1失点のみ。1対6で勝利。俺にポストシーズン初勝利がつく。


 チームも1勝2敗と踏みとどまり、明日につないだ。

「強打者ばかりだったのでコントロールと強い球を投げることに集中しましたね。とりあえず明日につなげられてよかったです。」


  まあ「明日があるさ」って昭和の名曲があるんだが、今日がダメでも明日がんばればいい、って曲だ。だが一発勝負のポストシーズンでは「明日がある」ためには今日勝たなければならないわけで。


 ちなみにもう一組のALDS、ミネソタ・トワイライツ(中地区1位)とNYヤーナーズ(ワイルドカード)はヤーナーズの3連勝であっさりと決着がついた。


 ヤーナーズとリーグ優勝をかけて戦うためにはまた明日、勝たなければならないのだ。


【沢村健のポストシーズン成績】


打者

(右)打席8打数7 安打4(長打3)打率.500 二塁打1 本塁打2 打点3 四球1


投手

(右)1試合 1勝 8回 失点0 被安打4 四球2 奪三振8 

 



 

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