初めてのポストシーズン!
優勝報告とほったらかしの彼女。
10月4日(月)
朝早くカンザスシティを立ち、セントピートに到着したのは昼すぎ。
亜美とは飛行機の中での通話。最近、レギュラーシーズンの最終盤でたてこみすぎてあまり会話ができていなかった。
「優勝と打点王おめでとね。いきなりタイトルってすごくない?TVのスポーツニュースとか大騒ぎだよ。」
「ありがとう。まあ、なんとかポストシーズン進出ですよ。昨年は行けなかったからね。ところで大学の秋季リーグっていつから?」
「もうとっくに始まってますよ。あとは1カード残すだけ。」
え?そうなの?自分のことで手いっぱいで頭がまわっていなかった。
「ごめん。全然聞いてなかった。」
「いいよ。あたしも試合でついていくだけで必死だったし。」
女子W杯から戻るとすぐにリーグ戦の直前合宿。金属バットの「クセ」が抜けるのに少々苦労したようだ。
2番指名打者でほぼレギュラー定着。全11試合に先発出場し44打数15安打、本塁打3打点7とかなりの数字を残したようだ。なにが「ついていくのが」だよ。無茶苦茶上位じゃんか。
ただリーグ優勝は難しいらしい。いつもの「盟主」東海総大のぶっちぎりだそう。
「とにかくごめんな。埋め合わせは日本に帰ってからするから。」
「うん。期待してるわ。」
球場では監督たちが優勝会見をやっていて俺ら選手も個別にインタビューされた。まあ地元マスコミ向けアピール。あとは日本向けの囲み取材。
10月5日(火)
朝から球場集合。トレーニング、全体練習。スカウティングレポートに基づく作戦のおさらいなど普通に明日からの準備。ブルペンでの投球練習や打撃練習とまるでスプリングトレーニングのよう。
明日はデーゲームのためレイナーズは前乗りでセントピートに来ている。球団のクラブハウスで両軍の監督が共同会見。選手代表でカールとフィールズも会見に臨んでいた。
10月6日(水)
ついに決戦の日。この試合はALDS、つまり「ア・リーグ地区シリーズ」と銘打たれている。3勝を先取したチームがア・リーグ制覇を賭けた次のシリーズに駒を進めることができるのだ。
タンパベイ・レイザース(東地区・1位)レギュラーシーズンは96勝66敗。
テキサス・レイナーズ(西地区・1位)レギュラーシーズンは90勝72敗。
グラウンド練習には多くの報道陣も来ており、日本からも例外ではない。ビジターチームの練習時間、俺はジョシュに挨拶に行く。3割5分9厘という高打率でレギュラーシーズンの首位打者のタイトルを獲得したのだ。
「健も打点王のタイトル獲ったんだろ、規定打席に行ってないのにすごいだろ。」
「まー、それが問題なんだよねぇ。先発ローテをこなしながらだとなかなか体力が持たないんだよねぇ。」
「お前身体細いからな。シーズン中の食事量とかトレーナーと相談した方がいいぞ。あ、そうそう。おーいネッフィ!こっち来いよ!」
ジョシュに呼ばれてきたのは背の高い(俺よりはちょっと低い)選手。
互いに自己紹介して握手。
「思ったより大きいな。」
彼がスペイン語でつぶやくので笑いそうになる。多分通じてないと思っているのだろう。
「日本人だってたまに大きいやつもいるさ。」
俺がスペイン語で返すとぱっと顔が明るくなる。
彼はネフタリ・ペレス。年齢は俺より2つほど上。今季40セーブポイントをあげ俺とともに「新人王」候補の最右翼の一人だ。もちろん、これは報道陣へのサービスで「新人王候補の激突」という場面を演出したかったのだろう。
問題は日本からの報道陣でいい加減スペイン語が絡むと俺に全部日本語での説明させるのやめてほしい。特にスペイン語を話すときの俺は必要以上に「陽キャ」になっているのでこっぱずかしいことが多いのだ。
こちらの先発はブライス。あちらもエース、クリス・リード(左腕)。俺は7番指名打者。
ちなみに始球式はフロリダ州知事。レギュラーシーズン中は一度も観に来なかったくせに。3万5000人とほぼ満員の観客を前に試合が始まる。
2回に2本の単打と1本の二塁打で2点を先取したテキサスに対し、俺は最初の打席を迎える。さすがに俺を意識しているのだろう。クリス・リードの厳しい攻めだ。しかし、ひざ元へのえぐるような2シームをセンターオーバーのソロ本塁打に。レギュラーシーズンとは別カウントなので1号だ。一方、会心の一投を打たれたリードは納得いかないように首をかしげていた。うん、俺もさすがに入ると思わなかったよ。
しかし、残念なことに、これが今日のレイザースの唯一の得点となってしまい、緒戦を1対5で落としてしまう。さすがに試合後にミーティング。短期決戦は「勢い」は大事だからなぁ。気を取り直して第2戦だ。
【沢村健のポストシーズン成績】
打者
(右)打席4打数4 安打2(長打2)打率.500 二塁打1 本塁打1 打点1
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