50号とポストシーズン出場決定。

9月28日(火)


 これまでのMLB新人本塁打記録は49本。現在タイ記録。前の記録は23年前、昭和62年の話だ。そのマーク・マックガイアはすでに引退しており、今年からセントルイスでコーチをしている。本人が言うには50号に到達しなかったのはわが子の出産に立ち会うために1週間チームを離れていたから、ということだそうだ。


 「今、同じことを言ったらボッコボコ(に叩かれる)でしょうねー。」

日本からの報道陣にこれに対するコメントを求められた。とはいえ、まだ打ってもいないやつが何を評論するのやら。


 今日の先発は20勝をかけたブライス。あちらは右腕のバーガー。俺は一番指名打者。


 試合は2,3,4回にレイザースが小刻みに1点づつ得点。5回裏の3巡目の打席。この回も先頭打者。そろそろ目が慣れてきた。5球目の外角へと逃げるスライダー。それは3球目と全く同じ軌道だった。迷わずたたいたらライトスタンドへの50号ソロ本塁打。


 ベンチに戻るとそこでお役御免。試合も5対0で勝利。ブライスも好投で8回無失点。試合時間も2時間5分。実は今日ボストンが負けると、レイザースのポストシーズン進出が決定するのだ。ただ試合の方は現在ボストンがリード中。


 カンファレンスルームには着々と「シャンパンファイト」の準備が進められている。その場つなぎというわけではないが、20勝のブライスとともにインタビューに臨む。


そして8回にボストンが追いつかれ、9回に5対4と逆転を許して試合終了。この瞬間に「ポストシーズン進出決定。」マディソン監督や主将のカールが会見に。みんなはカンファレンスルームに集まりシャンパンの瓶を渡され、入念に瓶を振る。


 そしてぽつんとロッカールームに戻る俺。日本の報道陣が慌てて追ってくる。

「健ちゃん、シャンパンファイトには参加しないの?」

「えーとですね。アメリカでの飲酒開始年齢は州によって異なりますが、たいていは満21歳からで、フロリダ州法も同様です。残念ながら。」

「そっかー、日本は二十歳からだから去年のWBCの時の『おひとり様』からーってのを期待してたのにそういうオチか。」

 ということでそこから地元TV局が中継するシャンパンファイトをモニター越しに眺める結果に。


9月29日(水) 


 本日、本拠地最終戦。

TV局の企画なのか、植原さんがブルペンを訪ねてきて俺に花束をくれた。

「健ちゃん、おめでとう。これ、俺からやないけど。そういえばシャンパンファイトにおらんかったやん。健ちゃんボッチってばれるで。」


「ありがとうございます。またそれですか?僕ボッチじゃないですから。」

とりあえず俺のリアクションを引き出してから聞く。

「なんか球団チームからご褒美でんの?」

「はい、明日は(先発投手の特権である)ベンチ入り免除ですかね。」

俺の答えがよほどおかしかったのかいったんのけぞってから

「ええっ!?ビミョー。」

そうですよね。


 昨日のポストシーズン進出の報をうけてお客さんが球場に大勢来てくれたのだ。3万7000人ほど。ちなみに昨日の倍以上だ。


 本拠地最終戦先発は俺。新型魔法の実戦導入は左投げでは初めて。グリップが良くなった分やっぱり回転数のアップが実感できる。だからブレーキも効くし、よく曲がる。


 だけどそれが裏目に出て7回表、まーた審判が怖い顔でこっちに向かってくる。相手ベンチが「不正投球」を疑って検査を要求してきたのだ。どんなに調べてもグラブにもキャップにもベルトにも「粘着物質」なんて付着しているわけがない。乱暴な検査の仕方にもイラっとくる。ただここは我慢のしどころ。こちらもは法的には潔白だが「魔法」を使っているのは事実なので。


 とはいえ、この感情的な検査にもアジア人や新人ルーキーを下に見る彼らの差別的な態度(非合法)が表にでているのでお相子である。


 ただ俺の「集中力」を切るには十分な措置だった。不用意な四球。そして不用意に打たれた打球は右翼を守るジョイナーの後ろにポトリと落ちる三塁打。なんとこの一点が決勝打に。俺の今季最終先発は黒星で終わった。


 9月30日(木)


 長かった、というか多かったシーズンもあと1対戦カード4戦を残すのみとなった。いまだ「地区優勝」の行方は決まっていないのだ。


 チームは朝早くに起きてカンザスシティへ。セントピートからは空路で2時間40分。アメリカ中西部の街だ。カンザスシティ・ロバスツはア・リーグ中地区5位。


 俺は「待望の」休みをもらい、練習後はやはり明日の先発予定のためベンチ入り免除のフィールズに食事に連れて行ってもらう。牧場の多い州らしく「ステーキ」がうまかった。味付けはいつものやつだけど。


 そしてレイザースは敗れ、9月の最終日にして首位陥落してしまったのだ。

そして同日のバチスカーフは53,54号本塁打。もう相手チームがわざと打たせてると疑うレベル。まあ高卒2年目のド新人に本塁打キングになってほしくないという気持ちはまるわかりである。


 打者

(左)打席253 打数223 安打72(長打44)四球29死球3敬遠5 犠打4 打点83 二塁打10三塁打1 本塁打33 

(右)打席95 打数87 安打36(長打24) 四球6敬遠1犠打1 打点43 二塁打6 本塁打17


(合計)打席348 打数310 安打106(長打67) 四球35死球3敬遠6 犠打5 打点126 二塁打16三塁打1 本塁打50 打率 .348 出塁率.434長打率.894 OPS1.328

盗塁8


投手

(左)試合13 5勝5敗  80回 失点26 奪三振58 防御率2.93

(右)試合12  5勝 3敗  73回 失点21 奪三振50 防御率2.59

合計 試合22 10勝 8敗   153回 失点47 奪三振108 防御率2.76


 


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