本塁打王を賭けて。

9月9日(木)


 トロントはすでに肌寒いレベルになっていた。緯度的には北海道より北にある街なのだから仕方ない。とはいえ街行く人はみな薄着である。 宿舎のホテルは中心街ダウンタウンにあるブルージーンズの本拠地球場の近くにあるのだ。


 俺は街をぶらつく予定もなく、ホテルのフィットネスセンターで汗を流す。高級ホテルなので周りの人もお金持ちそうな人たちばかりだ。


 俺の顔を知っていてサインを求められたりもしたが、騒ぎになるほどではなかった。まあこれがめんどくさければみんなと一緒にゴルフに行けばいいだけなんだよね。


 夕食に日本食レストランにロッソとデズとヘル吉を連れて行って昇格祝いをやった。やっぱり「日本人」の料理人が作る日本料理は美味い。アメリカにはどの町にも日本料理店はあるがほとんどが華僑系か南高麗人が料理していて仕事も味もガサツなことが多い。入口にヰチローさんのサインが飾ってあったんで間違いなく美味い店だなと思っていたのが当たる。俺もサインを書かされるとは思わなかったが。


 この日、ブルージーンズのバチスカーフが44号本塁打を放った。


 9月10日(金)


 球場に着くと、日本人よりカナダの記者さんたちが多くて驚く。

今、バチスカーフが本塁打トップなのだが、そのまま本塁打王キングになれば平成元年のマクガリフ以来21年ぶりのブルージーンズからのキングになるそうだ。そりゃ地元なら盛り上がるよね。そして「ライバル」なのが6本差で38本塁打の俺というわけ。


 なるほど、「ある程度」離されているからこそライバルとして「持ち上げて」くれるのね。ふーん、まだ余裕があるんだ。確かにローテーション投手としての出番もあるから、圧倒的にバチスカーフの方が有利なのだ。


 先発はこちらがフィールズ。相手は例の『キツネ目スクィント』の男、ジセル(左腕)。俺は8番レフトと久しぶりに守備に入る。指名打者はロッソ。


 先回は球審に「クソボール」をストライクに取られて調子が狂ったからな。今回は初回から味方打線がジセルに襲いかかる。


 カールの今季11本目のタイムリー三塁打やドンゴのタイムリー、ロッソのタイムリー二塁打で4点。二塁にロッソを置いて俺。一球目、完全にボールな内角球(カーブ)をストライクに取られる。ここは普通は取らんだろうよ。球審の悪意にイラっと来る。3球目に1球目と同じコース4シーム(144km/h)がきたので思いきり引っ張ってやった。左中間への39号2ラン本塁打。


 その後2点加点して8点差としたがじりじりと返され、5回裏にはバチスカーフの45号2ラン本塁打で5対8となったところでフィールズはお役御免。ところが7回にバチスカーフの46号2ラン本塁打で同点に追いつかれる。


 8回表一死無走者。マウンドはこの回から上がった右腕のカンプ。1球目の2シームが見送って、2球目のチェンジアップをすくいあげた。40号ソロ本塁打。(ちなみに同日タイタンズのM.カブレロは34号を打っている)。


 ちなみにレイザースの球団記録はベーニャが昨シーズン本塁打王を獲った39本なので球団新記録をマーク。試合は9回をトリアーノがしっかりとしめて42SP。8対9で緒戦を制した。


 9月11日(土)


 この日はアメリカ人の「トラウマ」ともいうべき「911同時多発テロ事件」の日。ちなみにTVを一切観ていなかった俺は「あの」映像を去年初めて見たのだ。まるで映画みたいだなぁ、とつぶやいたらチームメイトから激しくガン見されたことを覚えている。始球式もその関連の方。黙祷をささげてからの試合開始プレイボール。(トロントはカナダなのでそこまでセンセーショナルではなかった)。


 今日は8番指名打者。まぁ自由に打って良いというお墨付きなので不満は言わないことにする。先発はこちらがウェズ、あちらがロメオ(左腕)。最初の打席はセンターフライ。大きかったけど方向が悪かったかな。


 試合が動いたのは4回、ゾルディストの二塁打で2点先制。その後ロメオの制球が定まらず一死満塁で俺。ちょっと余分に魔法きあい入れとこうか。マウンドにコーチが行くも続投の模様。一球目はワンバン。大丈夫かい?2球目は臭いところに来て思わずカット。3球目はもはや「置きに来た」感じの外側高めの絶好球。ゴメンね、これは打たせてもらうよ。右翼席に飛び込む41号満塁本塁打グランドスラム


 これで1対6。今日はここでほぼ試合が決まってしまい、1対13で圧勝。8回にはデズがメジャー初安打となる2塁打を放った。個人的にはそれがいちばん嬉しかったかな。


 ちなみに同日ホワイトアックスのコルネコが35,36号本塁打を放って単独3位に。

ヤーナーズが敗戦してゲーム差は首位まで1と迫る。


【沢村健の今季成績(通算)。】 

 

打者

(左)打席214 打数188 安打60(長打35)四球20死球2敬遠4 犠打4 打点72 二塁打8三塁打1 本塁打25 

(右)打席88 打数80 安打33(長打22) 四球6敬遠1犠打1 打点39 二塁打6 本塁打16


(合計)打席302 打数268 安打93(長打57) 四球26死球2敬遠5 犠打5 打点111 二塁打14三塁打1 本塁打41 打率 .343 出塁率.417長打率.866 OPS1.279

盗塁6


投手

(左)試合11 5勝2敗  67回 失点22 奪三振50 防御率2.96

(右)試合10  4勝 3敗  61回 失点16 奪三振41 防御率2.36

合計 試合21 9勝 5敗   128回 失点38 奪三振91 防御率2.67  


 

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