一発病?
9月6日(月)
ボストンの本拠地フェンウェイパークは大正時代に建てられた古式ゆかしき球場でとにかく狭い。打高投低の球場でありある程度の失点は覚悟の上である。正直言って投手でボストンに行きたくない。なので松阪さんや丘島さんはそれだけでもすごいのだ。相手先発は左腕エースのラセター。
ボール半個分外すイメージでの投球。前回左で打ちこまれているのでじっくりと攻める投球を心がけることに。俺の早いカウントで勝負する傾向を見抜かれているためだ。
1回を三者凡退に抑え、0対1とこちらリードで迎えた2回。4番のオーティスにインハイの4シームで身体を起こそうとしたのだがものの見事にグリーンモンスター越えの28号ソロの一発を浴びる。
しかも続くベルトラにボールになるインローの4シームを打たれてこれまたグリーンモンスター越えの26号ソロ本塁打。たった二振りで逆転される。そりゃ二人とも殿堂入りレベルの選手なのはわかるけど。投手コーチのジムが間合いを取るためにマウンドまで来た。
「健、超一流には打たれても仕方ないし、なんなら普通の球場ならレフトフライ程度の打球だった。切り替えていけよ。お前はここじゃまだ
そうだった。俺は本来こんな舞台に立てることすらできない「万年補欠」だったじゃないか。丁寧なピッチングを心がけ、6回2失点でマウンドを降りる。7回表には味方打線が3点を挙げ逆転に成功。勝利投手の権利は得た。
しかしそこからまたもやブルペン陣投手が崩れ、7回裏に5失点。結局8対5で敗れ10勝目は再びお預けに。朗報なのはヤーナーズも「お付き合い」で負けたことくらいか。
9月7日(火)
今日は球場にやたらと日本からの報道陣が多い。というのも今日は松阪さんとの「日本人対決」だからだ。球団にとって話題になるのは良いことだと思う。ただし、ほかの選手たちにとっては単に「邪魔」になるだけなのだ。文字媒体の記者さんたちは割とその点はわきまえてくれているのだが、映像媒体の記者さんたちはそうではないことが多いのだ。
ロッカールームやカフェテリアでの取材はお断りしてロビーで取材を受ける。いずれにしても日本人の関心があるのは良いことなのだ。
こちらの先発はブライス。そして松阪さん。俺は1番指名打者。最初の打席は全部2シーム。いわゆる「フロントドア」なんだけれども
一方ボストンは初回からエラーと四球で無死二塁一塁から3番Vマーチンズの二塁打で2点先制。
3回一死無走者で2巡目の打席。また2シーム。2球続いたところで3球目が4シーム。真ん中高めの明らかに失投。こんなんここで振るしかないやん。ライトスタンドへ38号ソロ本塁打。「やっちゃった」顔の松阪さんの顔に思わず苦笑。続くゾルディストにも9号ソロ本塁打が出て昨日の俺と全く同じ展開に。
ただ松阪さんは4回に四球3つで崩れてしまい降板。試合はレイザースが5対14で圧勝。連敗を3で止めた。俺は3打数1安打2四球。松阪さんからの本塁打についてしつこく聞かれたが「打った球?覚えてないですね」で通した。「テレビ的に面白い」答えを半ば強要しようというのはいただけない。
9月8日(水)
3戦目の相手は「ナックルボーラー」ウォークフィールド。ナックルボールとは極力、揚力を生じさせるボールのバックスピンを抑えて、重力による落下による変化をもたせる球だ。
フォームもほかの球種と明らかに違うためナックルボーラーは基本的にナックルしか投げない。もちろんナックルと見せかけて4シームを混ぜることもあるが球速は110km/h台。ただのスローボールだ。
こちらの先発がゲイザー。俺は一番指名打者。
最初の打席、2B2Sからの5球目。落とすつもりのないナックル(高めのスローボール)を打ち返す。ライトオーバーの2塁打。俺はドンゴの犠飛で生還して1点先制。2回にも長短打で3点を挙げた。ナックルボーラー攻略成功!と思いきやゲイザーも崩れる。やっぱり投手陣も疲れているよね。
試合は乱打戦に持ち込まれ11対5で敗北。俺は2打数1安打四球2(敬遠1)
直接対決で負け越し。
夜は久しぶりに亜美と通話した。
「せっかく連覇したけどなんかいまいち盛り上がらなかったというか。」
一応テレビにもみんなで呼ばれたそうだが、好きなタイプの男性タレントとか、好きな食べ物とか野球に関した質問はあまりなかったとか。
「結局プロ野球選手にでもならない限りは注目されないよね。」
日本でも独立リーグにドラフト指名された女子選手がいて、彼女が「女性プロ野球選手1号」ということになっているのだが、あくまでも独立リーグである。
亜美の打撃センスだけなら通用するとは思うが、結局プロのパワーとスタミナとスピードと比べるとそれだけでは無理がある。
「4シームなら135km/h出るんだけどねぇ。」
「そうだなぁ。ナックルボーラーにでもなれれば通用するかもなぁ。」
【沢村健の今季成績(通算)。】
打者
(左)打席212 打数185 安打59(長打34)四球20死球2敬遠4 犠打4 打点71 二塁打8三塁打1 本塁打24
(右)打席83 打数75 安打31(長打20) 四球6敬遠1犠打1 打点33 二塁打6 本塁打14
(合計)打席295 打数260 安打90(長打54) 四球26死球2敬遠5 犠打5 打点104 二塁打14三塁打1 本塁打38 打率 .346 出塁率.414長打率.846 OPS1.260
盗塁6
投手
(左)試合11 5勝2敗 67回 失点22 奪三振50 防御率2.96
(右)試合10 4勝 3敗 61回 失点16 奪三振41 防御率2.36
合計 試合21 9勝 5敗 128回 失点38 奪三振91 防御率2.67
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