夢と憧れの国(の近く)で。

8月23日(月)


 昭和45年生まれの「中の人」と平成2年に生まれた「今の人」。少年期は2度経験しているが憧れの選手というと「中の人」の場合はON砲の残照を観た最後の世代だろう。幼稚園の時に「ミスター」が引退し、小学校1年生の時に「世界記録」の756号本塁打をナイター中継で観ていた。その体験が俺の野球の原点になっている。一方「今の人」にとってはヰチローさんと松居さんの二人がそれにあたる。


 まだ夏休み中でもあり日本からも大勢の観光客。日本人対決を観るためのツアーも組まれていたよう。アンカーズの本拠地アナハイムにはディ〇ニーランドもあるのでセットになっているところも日本人には好評の模様だ。


 試合はBJの12号先頭打者本塁打で先制。ちなみに俺は最初の打席の時にはすでにチームは3点のリード、長打を狙い真ん中低めのシンカーを打ったもののセンターフライ。昨シーズン対戦しているものの、やっぱり松居さん無自覚に意識しているのがわかる。


 松居さんも最初の打席は三振だったけど先発投手フィールズのワイルドピッチになって「振り逃げ」。おー、なんかこういう泥臭いともいうべき懸命な姿がぐっとくる。俺に対して勝利へのこだわりを背中で伝えようとしてくれているかのようだ。


 チームは3対4で勝利。俺は3打数1安打1四球。松居さんも二塁打一本。


8月24日(火)


 亜美たち女子日本代表の取材でベネズエラに行っていた由香さんが俺の取材に現場復帰。自分がいない間に俺を取材する記者団がすっかり大所帯になっていることに驚きを隠せなかったようだ。


「いや今週は日本人対決だから『松居番』もいるんで多く見えるんでしょ。せっかくなんで今晩あたり(酒宴を一席)どうですか?姐さんの復帰祝いということで。」

「『姐さん』はやめてくださいよ。」

愛想笑いを浮かべつつ由香さんは戸惑いも隠せない。


 今日は2週間ぶりに復帰したウェズが先発。相手はエースのアービン・サンドナ。

先発投手が右腕なので俺は晴れて?一番打者へ。もうこの監督の起用基準が理解できん。というかこの監督だからこそ二刀流が認められてるところはあるんだけど。


 メジャー屈指と言われるサンドナのスライダーを三塁強襲安打にすると彼の低めに集める制球力に悪影響を及ぼした模様。1回はなんとか無失点に抑えたものの2回には四球と安打で1失点したうえ、一死満塁で俺にまわってくる。


 絶体絶命のピンチにおいても低めに集める制球力とその自信は大したものだ。

しかし、低めに「集める」というのは裏返せば「狙いやすい」ということでもある。


 アウトローいっぱいのシンカーをしっかりと踏み込んでとらえるとセンターオーバーの打球。中堅手センターがそのまま見送ってバックスクリーン超えの33号満塁本塁打グランドスラム。申し訳ないが失投ではない。ただ彼のスライダーが「見えて」いても打てるとは限らなかったのだ。


 一方松居さんも好調でタイムリー2塁打を含む3安打猛打賞。俺は4打数2安打打点4と結果を出す。そして俺はア・リーグの本塁打ランキングで2位になった。現在のトップはトロント・ブルージーンズのバチスカーフの40本塁打。俺が少し足踏みしていたせいで7本離されてしまってはいるが。


 8月25日(水)


 体調不良による15日間の投手休業が終わり、ついに先発へ。あと一つ勝ち星を挙げれば10勝。本塁打30本と合わせれば「新人王」はほぼ確定になる。休養も十分。体力も勘も戻ってきたところで満を持しての先発。

 

 左投げでの先発となる。


 制球コントロールには自信がある左投げ。ところが低めと内角いっぱいをストライクにとってもらえない。昨日のサンドーナの時はしっかりと取ってくれていたのに。もちろん、昨日とは球審は別の人。


 先頭打者を四球で出し、不運な投手強襲安打などもあって1死満塁で松居さん。外角高めの153km/hの4シームを右翼線に運ばれ走者一掃のタイムリー2塁打。ショーンがせっかく先制ソロ本塁打を打ってくれたのに3対1とされてしまう。


 もちろん、審判によってストライクゾーンの「ずれ」があり、とくに打者のひざ元をストライクに取ってくれないことは多々あるのだが、昨日のサンドーナのストライクゾーンをきっちり取ってもらった印象が残っている俺はどうしても納得いかない。


 2回はなんとか無失点に抑えたものの、3回にも松居さんに四球を与えてしまって満塁に。そして「空振り」を取るための縦スラを6番ネープルに掬われてレフトオーバーの2塁打で2失点。まるで昨日のサンドナのリプレイ動画を俺がやってる形に。


 さらに4回に先頭のヘンドリックにソロ本塁打を浴びて降板KO。もうこのころには完全に俺自身のが「怒り」の感情に呑まれていて、それがフォームに悪影響を及ぼしていた。3回0/3で6失点はメジャーというかこれまでの「野球人生」でもワースト記録。

 

 ベンチでアイシングをしながら天を仰ぐ。監督は俺を自分の隣に招くといった。

「せっかくの復帰戦だったんだが。今日の健は制球コントロールが良すぎるのがわざわいしたね。もっと手元で『動く』球を覚えた方がいいだろう。キミの投球ボールは少しばかり正直すぎる。」


 見逃し三振を取りすぎたせいで見逃してくれなくなったというわけだ。


  【沢村健の今季成績(通算)。】 


打者

(左)打席177 打数155 安打50(長打29)四球15死球2敬遠2 犠打4 打点66 二塁打7三塁打1 本塁打20 

(右)打席78 打数71 安打30(長打19) 四球6敬遠1 打点31 二塁打6 本塁打13


(合計)打席255 打数226 安打80(長打48) 四球21死球2敬遠3 犠打4 打点97二塁打11.三塁打1 本塁打32 打率 .352 出塁率.402長打率.863 OPS1.265

盗塁6


投手

(左)試合8 5勝2敗  61回 失点20 奪三振46 防御率2.95

(右)試合8  4勝 3敗  55回 失点15 奪三振38 防御率2.45

合計 試合15 9勝 5敗   116回 失点35 奪三振84 防御率2.72

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