あらゆる壁を超えていけ。
8月21日(土)
亜美たちは準決勝でアメリカ代表に対して6対1で勝利。明日は一度敗れているオーストラリア代表との対決が決まったのだ。
「ねえ、優勝したらなんかご褒美ない?」
「いや、女子相手で『ご褒美』はないな。……『お疲れ様』はありだけど。むしろ(大学の)秋季リーグで活躍できたら『ご褒美』な。」
「むー。ケチ。」
とほほを膨らませる亜美。ああ「かわいい」な。これは間違いなく俺の中の人が通算人生40年だから思う感想。……だから「お疲れ様」も言葉だけじゃないっての。連日の試合とプレッシャーで神経が
8月22日(日)
本日は移動日のためデーゲーム。午後1時の
2回表、二死一塁で第一打席。初球は外角にわずかに外れたがストライクを取られる。次はインハイの4シーム。3球目のカットボールがど真ん中に入ってきたのを打ち返したがわずかに左翼線を切れる。あまりのコースの良さにちょっと力んだか。4球目は振らせにきたチェンジアップだが見え見えすぎて通用しない。5球目の4シームが真ん中高めに。
今度は無心に振りぬくと打球は左翼スタンドへ。久々の32号2ラン本塁打。淡々と
ダイヤモンドを一周する。ベンチは俺の久々の一発に興奮してくれていた。
チームも2対4と連勝。次の対戦カードに弾みをつける形になった。試合後のロッカールームにはいつもより大勢の日本人記者さんたちが押し寄せる。試合前にドリンク当番済ませておいてよかったよ。
「健ちゃん、日本人選手メジャー最多本塁打記録だよ、おめでとう。」
あ、そうなんだ。
「ありがとうございます。個人的にはようやく調子を取り戻した感じなので、頑張っていきたいと思います。」
そこまで答えて、ふと「頭の悪い質問」が脳裏をよぎる。
「ちなみにこれまでの記録保持者ってどなたなんですか?」
「松居さんだよ。次のアンカーズ戦で対戦だね。」
ありゃりゃ。そうだったんだ。なんか挨拶に行きづらいタイミングで打ってしまった。
亜美たち女子日本代表の優勝はロスへ向かう飛行機の中で知った。13対3の5回コールドでの圧巻の優勝劇だった。亜美は打率.598 打点25 本塁打12という圧倒的なというかもはや「人間離れ」した成績で2大会連続の三冠王で大会MVPにも文句なく選出された。
祝勝会もそこそこに日本への帰路に着くという。そこらへんはやはり女子スポーツの経済基盤の小ささを物語るのだろう。
もしかしたら亜美ならプロ野球にいけるんじゃなかろうか。そう思えていきた。おそらく「センス」だけなら十分に通用するだろう。それでも男女の身体的格差という大きな壁が立ちはだかっているのだ。俺の支援魔法を使ったとしたら?いろいろな仮定が俺の脳裏をよぎる。
8月23日(月)
ロスはオークランドより600kmほど南にある。そのため日中は30度を上回る。だけど湿度が無い分、汗ばんでも「うだるような」ことはない。
「健、今日から投手登録に変更だから。」
ベンチコーチに告げられる。俺の「復帰戦」の先発は25日ということだ。そして俺と同じく休養で前線を離れていたウェズも合流してきた。
「健、身体は
ウェズも明日が先発復帰ということでやる気満々である。
「いや、俺は野手でずーーっと出てますがな。」
投手復帰のため打撃練習は一番に。ただし、これは俺が優遇されているからではなく、練習後はすぐに「球拾い」に行け、ということ。登板日ではない先発投手の役目なのだ。
外野でヘル吉たちと
「すみません。本来ならこちらからご挨拶に伺うのが筋なのに。」
俺が恐縮すると
「まあ気にしないで。」
と怒る様子もなくほっとする。
さすがに「現役選手」に後輩があなたの記録を超えましたが、なんて尋ねる空気を読まない記者さんはおらずそれもほっとした。西海岸の気候の話とか今季のボールが飛ばないとかたわいもない話で終了。冗談もぽんぽん飛び出し、 俺の成績に関してはそこで笑っていいのかどうか迷う場面も。
東京ギガンテスからNYヤーナーズと日米を代表する名門で長年一線級の活躍をしてきただけあり「品格」のあるプレイヤーという役割を果たしてきたが、今はそこから解放されてのびのびとやってる感が強く感じられた。
先発はこちらがフィールズ。アンカーズはイズミール。彼は昨シーズン途中までレイザースに在籍していた左腕投手である。3試合連続で先発投手が左腕というのも珍しい。俺は7番指名打者。松居さんは5番指名打者だ。
【沢村健の今季成績(通算)。】
打者
(左)打席173 打数151 安打48(長打28)四球15死球2敬遠2 犠打4 打点62 二塁打7三塁打1 本塁打19
(右)打席74 打数68 安打29(長打19) 四球5敬遠1 打点31 二塁打6 本塁打13
(合計)打席239 打数211 安打73(長打45) 四球20死球2敬遠3 犠打4 打点95二塁打11.三塁打1 本塁打32 打率 .352 出塁率.402長打率.863 OPS1.265
盗塁6
投手
(左)試合8 5勝1敗 58回 失点14 奪三振44 防御率2.17
(右)試合8 4勝 3敗 55回 失点15 奪三振38 防御率2.45
合計 試合15 9勝 4敗 113回 失点29 奪三振82 防御率2.31
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