危険な世界。

 8月14日(土)


 野球の試合中に銃撃事件など物騒きわまりない。不幸中の幸いは被害選手の生命に別条があるわけではなく病院で銃弾の除去の治療だけですぐに退院できたそうだ。

 

 事件がおこった台湾対香港の試合は「軍の施設内」の球場で行われており、運営側は「軍の訓練での誤射」による流れ弾の可能性が高いとのこと。おかげで今日の試合の予定はすべてキャンセルされたようだ。もちろん、運営としては「事件」ではなく「事故」であることを殊更ことさらに強調したいのは見え見えだ。


 日本チームは現地にいたわけではないが、銃犯罪が身近ではないことや、被害に遭った香港代表選手と試合を通じて交流があった選手も多く、動揺が広がっているそうだ。


「さすがにこういうことに免疫はないよね。」

他人事のように淡々とした反応の亜美に少しあきれる。

「亜美さん、なんか余裕があるね?」


「ほら、あたしの場合は白馬に乗った王子様が助けに来てくれたからね。憶えてる?5年前にさ。」

……はい、アテクシの黒歴史でゴザイマス。もちろん亜美を助けに行ったこと自体は後悔していないが、「人生2周目」の割にやり方があまりに「稚拙ちせつ」だったことはお恥ずかしい次第です。ただ、その事件をきっかけに海外留学を経験して

現況に至っているのも事実なのだ。あの事件がなければ、日本でプロになってポスティングかFAでメジャーリーグに挑戦していたはずなのだ。


 今日は先発がソニースタイン。俺とウェズが先発投手陣から離脱したためにヘル吉とともに「穴埋め」をしてくれるわけだ。一方オーソドックスの先発は左腕のブライアン・マティス。ちなみに彼は俺と同期のオーソドックスのドラ1投手(全体4位)である。明らかに俺をライバル視している。久しぶりのクリーンアップ復帰の5番指名打者で先発。


 第一打席こそ気合に圧倒されて凡打に終わった。ただ4回裏、3点リードされた場面、2塁打で出たドンゴを二塁において真ん中低めの4シーム。きっちりすくいあげて久しぶりの29号2ラン本塁打。さらにショッパーの3ラン本塁打で逆転に成功。


 続く5回にはやはり2塁打で出たドンゴを二塁において代わった右腕アルバーツの146km/hのシンカーを完璧に捉えて2打席連続の30号2ラン本塁打。ついに大台に乗せた。


 実況の地元放送局のアナウンサーは「最長不倒!」と繰り返し叫んでいた。というのも明日の二十歳の誕生日を迎える前日に30号本塁打というのは大いに意味がある。これまでの10代の本塁打記録は昭和37年のボストンのコグニアロ選手の24本塁打。48年ぶりの記録更新だったのだ。たしかに「最長不倒」と呼べるにふさわしい記録といえる。


 それに投手休業による「休養」の成果も出ているのだろう。身体の「キレ」も取り戻しつつあった。


 試合も8対3で快勝。シーズン70勝にのせた。


 ちなみに試合終了後、亜美から「大会続行」の連絡が来た。事件のあったカラカスでの試合も含めてマラカイですべての試合を開催することになったという。


 8月15日(日)


 おお、ついに誕生日を迎える。ナポレオン一世・ボナパルトと同じ誕生日である。日本だと成人、つまりお酒が飲める年齢ということで特別感があるがアメリカで飲酒-は21歳からなのでスペシャル感は薄い。


 ただデーゲームなので朝から感傷に浸る間もなく球場へと向かう。道中マシューから

「きみの家族ファミリーからプレゼントが届いているよ。」

と聞かされ、少し期待しておくことにする。少し笑っていたのでいやな予感も残るが。

 

 グラウンドでは記者さんたちからプレゼントをいただいた。しかも植原さんからもいただいてしまった。

「お前五輪の時にもちょうど誕生日やったよな。そういえばあの頃母校が甲子園で負けて、お前泣いてたよな。まー、あんときは初々しくて可愛げがあったわ。……俺は甲子園行けてへんから少しイラっとしたけどな。」

 相変わらずのトーク力で笑いを全部持っていかれました。


 今日は6番指名打者で先発。投手はヘル吉。バースデー本塁打とはいかなかったが3打数1安打(2塁打)1四球という結果。チームも3対1で勝ちヘル吉も無傷の3連勝。


 アパートに帰ると家族がいた。プレゼントってまさかこれですかね?


  【沢村健の今季成績(通算)。】 


打者

(左)打席163 打数141 安打43(長打28)四球16死球2敬遠1 犠打4 打点60 二塁打8三塁打1 本塁打18 

(右)打席58 打数53 安打21(長打14) 四球4 敬遠1 打点29 二塁打4 本塁打10


(合計)打席217 打数191 安打63(長打41) 四球19死球2敬遠2 犠打4 打点89二塁打12三塁打1 本塁打28 打率 .343 出塁率.392長打率.885 OPS1.280

盗塁4


投手

(左)試合8 5勝1敗  58回 失点14 奪三振44 防御率2.17

(右)試合8  4勝 3敗  55回 失点15 奪三振38 防御率2.45

合計 試合15 9勝 4敗   113回 失点29 奪三振82 防御率2.31









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