舐めてもらってナンボの世界

8月11日(水)


 今日を凌げば久しぶりのオフが待っている。ただし、その凌ぐべき今日の相手が昨年の最多勝投手、ジャスティン・バートランダーということがそもそもの問題だ。こちらの先発はゲイザー。


 そして昨日に引き続き6番指名打者の先発。右対左なのであのキレッキレのスライダーは「見せ球」以外にはあまりこない……はず。俺の狙い目は「チェンジアップ」。右投手が左打者を打ち取るときによく使う決め球ウイニングショットの一つだ。もちろん一級品のチェンジアップ。ただ魔眼を持つ俺にとっては、4シームかチェンジアップかはフォームの良しあしに関係なく「見えて」しまうのでタイミングを狂わされることはなく、ただの打ちごろの球に過ぎないのだ。


 ただ残念なことに、先回の対戦で俺がチェンジアップが得意なのがばれていた。そして代わりに投げてくるのが「カーブ」。これがまた一級品で「見える」のと「打てる」のはまた別問題なのだ。野球は良くも悪くもデータのスポーツなのだ。


 「新人だから」とか、「まだ二十歳にもなっていないから」などと舐めてもらっていた方がこちらには好都合なのだがそうも言っていられない。間違いなく俺のことを意識して仕留めにかかってくる。今回は負けておくが球の軌道は覚えさせてもらった。うーん、これじゃ「今日はこれくらいにしておいてやる」的な捨て台詞をはく三下モブキャラみたいだな。


 試合も2対3で敗北。俺も無安打1四球で終わる。帰りの飛行機は負けた後のわりには雰囲気が重くなかった。明日が休みオフだからだ。


 8月12日(木)


  日本ならちょうどお盆休みの時期で、夏の甲子園の時期だ。母校は甲子園出場を逃してしまい、吹部の妹の夏休みも甲子園ではなくコンクールに照準を変えた模様だ。


 午前中は目いっぱい寝て、午後からは久しぶりに地元の大学のプールを借りて水泳トレーニング。とにかく距離を泳いだ。夜は自宅でマシューとTVを観る。


 なにしろ亜美の出場する女子W杯が今日開幕するのだ。女子日本代表は今年から女子野球のプロリーグが創設されたことで「プロ組」の代表不参加が当初から決定しており、前回大会の優勝メンバーは半分しか残っていない。


 試合はナイトゲーム。試合の相手はアメリカ代表。亜美は4番遊撃手で先発す津城。危なげない試合で5対1で勝利していた。亜美も第二打席でソロ本塁打。なんの気負いもない鋭い振りで弾き返していた。亜美に女子相手に金属バットを使わせるのは「反則」にしか見えない。


 女性は腕に筋肉がつきにくい。男性に比べて半分と言われている。一方、下半身の筋肉は男性と比べて75%くらいはつくといわれている。だからこそ、亜美の体幹や下半身のトレーニングは俺よりも数をこなしているはずだ。


 俺も言い訳して「体力がもたない」とか言ってる場合じゃないよね。


8月13日(金)


 今日から本拠地ホームで同じ地区のボルティモア・オーソドックス戦。同じ地区だけど3週間ぶりの対決で久しぶり感がある。お盆時期でもあり日本から来たお客さんも多い。いつもの3倍はサインをしているかもしれない。

「おーい、健!」

俺を呼ぶ声。日本人相手にサインしていた植原さんであった。

「お前のサインも欲しいってよ。」

「あ、はい。」


  サインをしていると植原さんが少し意地悪そうに言う。

「最近調子が悪いみたいやんか。」

「そっすね。ただ、もう底は打ったかもです。あとは上がるだけですよ。」

俺も少しムキになって応えると

「株やと『底割れ』とか『二番底』とかあるらしいで。」

とさらにからかわれる。

「やめてくださいよ。縁起でもない。」


 ただ今日の試合も3打数無安打の1四球のみ。植原さんは2番手で登板して2回無失点と好調なようだ。残念ながら直接対決はなかったが。

 

 試合結果も地区最下位のオーソドックスに0対5で負け連敗。


 女子日本代表はキューバ相手に3対1で勝利。これで予選リーグ突破の可能性をぐんと引き寄せた感じだ。ただ、日本とは別組の予選リーグが行われている球場で銃撃事件がおこり、流れ弾がプレーしている香港の選手の脚に当たるという事件が起こったのだ。


 大会の続行そのものが危ぶまれる事態になってしまったのだ。ちなみにアメリカでは銃声そのものはよく耳にするのであまり気にならない。よく日本の「地震」みたいなものというレベルなのだが。


 


 【沢村健の今季成績(通算)。】 


打者

(左)打席159 打数138 安打42(長打27)四球15死球2敬遠1 犠打4 打点60 二塁打7三塁打1 本塁打18 

(右)打席58 打数53 安打21(長打14) 四球4 敬遠1 打点29 二塁打4 本塁打10


(合計)打席217 打数191 安打63(長打41) 四球19死球2敬遠2 犠打4 打点89二塁打12三塁打1 本塁打28 打率 .343 出塁率.392長打率.876 OPS1.274

盗塁4


投手

(左)試合8 5勝1敗  58回 失点14 奪三振44 防御率2.17

(右)試合8  4勝 3敗  55回 失点15 奪三振38 防御率2.45

合計 試合15 9勝 4敗   113回 失点29 奪三振82 防御率2.31


  


  


 



  




  


  


 


 



 


 




 



  


  


 


 



 


 

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