万年補欠の下克上！！！（第3期）ー再転生した野球少年は底辺スキル「支援魔法」でメジャーリーグを駆け上がれ！

新鋭スターのお悩み。

8月7日(土)

　現在ア・リーグの本塁打王争いで首位を直（ひた）走っているのはジョーイ・バチスカーフ。今相対しているトロントの主砲だ。現在33本塁打。

　ドミニカ出身で松阪世代(俺の10コ歳上)。ドラフト20位(全体599位)からのしあがってきたまさに「下克上」。メジャーデビューから6シーズン目。ただこれまでずっと活躍していたというよりは今季突如として「覚醒（ブレイク）」した選手だ。(昨年までの6シーズン通算で69本塁打)。そういう意味では俺と相通ずるものがあるのだろう。

　俺が打撃練習の球拾いをしていると、彼が俺のところに近づいて来たのだ。

地元マスコミの記者も付いて来ている。俺を遠巻きに見ていた日本からの記者さんたちも近づいてくる。

　本塁打王争い(と言っても現在6本差の27本)の二人の「邂逅（かいこう）(出会い)」に色めき立つ。

「よお。カルロス（ベーニャ）に聞いたけどお前スペイン語が出来るんだってな？」

「まあね。『ヨーロッパ訛り』で良ければな。」

スペイン語でやりとりするとスペイン語が聞き取れない日本人の記者さんたちは露骨に嫌な顔をした。ゴメンて。

「いや、俺はむしろその方がいい。俺もよく親父の訛りでからかわれたものさ。」

Jバッツ(バチスカーフの愛称)としては彼の父親がスペイン国籍だったそうで、俺の「本国訛り」のスペイン語はむしろ懐かしいものだと言う。アメリカは色々な出自の「移民」たちで出来ているから面白い。もっとも彼の英語力は十分に高いのだが会話は打撃のことだけではなかった。

「お前は違法薬物（ドーピング）検査をやたらと受けさせられたりしていないか？」

「今年はまだないけど。」

　彼は今季の「覚醒」のせいですでに10回も受けさせられているという。すごく悔しそうなのが伝わってくる。確かにMLBの検査は予告なしだし、いきなり検査員の前で全裸（フル●ン）に剥かれたりする「屈辱的」な手法なので気が滅入るのも頷ける。

　しかもこの検査は「不定期」かつ「ランダム」に行われていると検査側が主張している。とは言えさすがに4か月間で10回とは恣意的（ワザと）と言われても仕方ない極端な頻度だ。

「代理人（エージェント）を通して機構側に抗議した方がよくないスか？」

「そうだよなぁ。お前もやられたらそうすると良い。」

　お互いに「駆け出し」なのでこの成績を続けることができれば、外国籍であろうと有色人種であろうとそれなりに敬意を払って貰えるはずだが、それまでの扱いがあまりにも乱暴（ザツ）すぎるのだ。

　今日はダンが3番、ドンゴが4番、俺が5番というクリーンアップ。

　試合は乱打戦。両軍併せて30安打10本塁打。ただ「併せて」というのが「言葉の綾」でブルージーンズが20安打８本塁打17点。レイザースが10安打２本塁打12点で打ち負ける。

　バチスカーフが34号２ランを打てば、俺も最終回に28号満塁本塁打（グランドスラム）……でも追いつけず。ずるずると4連敗。なんか責任を感じてしまう。

　「どうにもかみ合わないな。投手陣も疲れがたまって来る時期だからな。健もシーズン通してチーム成績を考えながらプレーするのは初めてだろ？」

　ロッカールームでドンゴにそう声をかけられる。

「そうだね。一年前は自分が上に上がることだけで必死だったから。」

「それは良いんだが、やっぱりお前、身体（せん）が細すぎるな。もう少し食う量を増やさないとばてるぞ。まぁそれでも俺より本塁打を打ってんだから余計な世話かもしれんが。」

8月8日(日)

　「健、球があんまり来てねーぞ。」

今日は先発。100マイルの4シームが「売り」の右腕でブルペンに入っているのにショーンに指摘される。

「せっかく彼女がＮＹにいるってのに、自分はなぜトロントにいるのだろう？ってか。」

亜美たちもそろそろＮＹに着くころだろうか。

「いや、そもそも付き合ってること自体非公開だしな。お互い恋愛に現（うつつ）を抜かしている場合じゃないから。」

俺がからかいに乗らないのつまらなかったのかショーンも真顔に戻る。

「そんなもんか？……ちょっと疲れがたまってきてんだろうな。ケガには気をつけろよ。」

　試合はまたもや投手戦。相変わらず内角を取ってもらえず２番エスコバルを四球で出すと味方エラーと４番の安打で１失点。正直この偏ったストライクゾーンが俺にとっての一番の難敵だ。

　いわゆる「隅１」で試合終了。俺に４敗目が付く。トーナメントではないのだからさほど気に病む必要はない、とコーチに言われても気にしてしまう。

　そして、俺は登録を「投手」から「内野手」への登録変更を言い渡される。

「健、やはりお前はまだ若い。１年を通して戦える身体にはなっていないのだよ。だから２週間ほど打者に専念してもらう。」

　いや……、悪くても悪いなりに抑えているつもりなんだが。

　【沢村健の今季成績（通算）。】　

打者

(左）打席145　打数126　安打41（長打26）四球13死球2敬遠1　犠打4 打点59　二塁打7三塁打1 本塁打18　

（右）打席57 打数53 安打21（長打14) 四球3 敬遠1　打点29 二塁打4 本塁打10

(合計)打席202 打数179 安打62(長打40) 四球16死球2敬遠2　犠打4 打点88二塁打11三塁打1 本塁打28 打率 .346 出塁率.395長打率.888 OPS1.283

盗塁4

投手

（左）試合8 5勝1敗　　58回　失点14　奪三振44　防御率2.17

（右）試合8　 4勝 3敗　　55回　失点15　奪三振38　防御率2.45

合計　試合15　9勝 3敗　　 113回　失点29　奪三振82　防御率2.31