外野シフトと対抗策?

8月5日(木)


 俺も亜美の代表選出に浮かれている場合ではないものの、WBCで代表に決まった時の高揚感を思い出してウキウキしていた。そんな気持ちをすっかりめさせることが。


 なんと、俺の打席でトワイライツの首脳陣ベンチは「外野シフト」を敷いて来たのだ。内野シフトはわかる。だが、外野シフトなんてあったっけか?三塁手が左翼のポジションに移動。そして左翼が左中間に中堅が右中間よりに。4人目の外野手が登場。十数年前のステロイド全盛期の強打者相手に敷かれたシフトだ。


 呆れている場合ではない。ただまんまとはまってしまった、という結果に。俺の魔法はあくまでも「支援魔法」とそれを発展させたものなのだ。バットに当てて飛ばすことはできるがその行方や飛距離まで保障するものではない。


 もちろんどれだけシフトを敷かれようが「頭の上」を越せさえすれば関係ない。ただ「確実に」そうするためには「一撃魔法クリティカル」をかける必要がある。発動に応じて相応の飛距離は保障されるが、その一撃を繰り出すためには身体への極端な負担がかかる。それを軽減するため、関節や靭帯など身体の各所にさらなる肉体強化系の支援魔法をかける必要があり、かけてもそのパワーの反動で摩耗するため、そう何度もかけられるものではないのだ。


 高校野球なら「本番」となる試合数は春秋の関東大会、夏の甲子園、神宮大会など予選をいれても30試合程度。試合が連日あるのは準決勝と決勝くらい。「一撃魔法クリティカル」は使い放題に近かった。だが今は162試合。「治癒魔法ヒール」は使えないので、使えるのは支援系魔法である「自動回復リジェネレーション」である。


 だからこそ俺は愚直にトレーニングを続け、素体となる己自身の「肉体」と「技術」の底上げをし続けなければならないともいえる。魔力はあってもその魔法に肉体がえられないようでは困る。


 とは言え、8回まで6点リードされ、BJのソロ本塁打後、二死満塁で俺に回ってくれば使わざるを得ない。相手投手は左のメイにスイッチしてきたため、俺も右打席にスイッチ。3ボールからのど真ん中に置きに来た4シームを素直に弾き返した。1点差となる27号満塁本塁打グランドスラム。四人の外野を嘲笑うかのごとく2階席にまで運んで行った。これで外野シフトが効果ないと思ってくれれば良いんだけど。


 続くジョイナーの代打で出たバードレッドにも3号本塁打が出て同点に追いついたものの、9回にブノワが2点を奪われてそのまま敗戦。


8月6日(金)

 

 翌朝、次の対戦相手ブルージーンズの本拠地のトロントへと向かう。

「パスポート、ちゃんと持ったよね?」

球場まで送ってくれたマシューもだいぶ「マネージャー」らしくなってきた。というか「オカン」かよ?


 由香さんが亜美の取材のためにアメリカを離れるため、マシューが代理の取材者として遠征に帯同することになったのだ。


 ちなみに亜美たちは昨日「結団式」をして今日の公開練習後、早々にニューヨークに渡り、そこで「時差ボケ」を抜くらしい。日本とNYの時間差は12時間。飛行機搭乗時間も12時間。12時間経っても少しも時間が変わっていないというのはなかなかに強烈な経験である。


 なぜにNYかというと前述したが日本から開催国のベネズエラへの直行便がないこと、そしてベネズエラとニューヨークは同じ時間帯タイムゾーンにあるからだ。「極めて」治安の悪いところで過ごすよりは安全にという判断だそうだ。


 もちろんニューヨークも「場所によって」は治安が悪い。ただ「トランジット」なので原則外出禁止。ホテルに缶詰めだそうだ。


 それはアメリカのどの都市でも言えることでメジャーリーグの球団はすべからく大都市に本拠地が置かれているため、治安の悪い地区には足を運ばないよう球団から説明レクチャーを受けることが多い。


 そして、球場は中心街ダウンタウンにあることが多く、その付近が該当地区だったりすることもある。


 さすがにブルージーンズまで「外野シフト」を敷いてくることはなかった。第一打席。初回の二死二塁で4番に座った俺に回ってくる。まだ初回だし少し試してみよう。「命中率上昇」の支援魔法で左翼方面を指定。風速3.75m/s左翼方向から吹き込んでこんいる。バットには「カウンター」魔法。


 初球の4シームは外角中程の絶好球。見事にラインドライブの打球が左翼線を突っ切っていく。本塁打は狙えないが十分二塁打にはなる。外野シフトを敷かれたらこの手で行きたいところだが、成功率はまだ定かではない。


 というのも、同じ手法ではこの1安打のみ。先発のゲイザーは2失点で完投したもののチームは1対2で敗れる。前日は投手陣が崩れ今日は打線の援護なし。投打がかみ合わないというのがチームの現状だ。これで3連敗。俺たちの背中にはすでに3位のボストンが迫っていた。

  


 【沢村健の今季成績(通算)。】 


打者

(左)打席140 打数122 安打40(長打25)四球12死球2敬遠1 犠打4 打点55 二塁打7三塁打1 本塁打17 

(右)打席57 打数53 安打21(長打14) 四球3 敬遠1 打点29 二塁打4 本塁打10


(合計)打席197 打数175 安打61(長打39) 四球15死球2敬遠2 犠打4 打点84二塁打11三塁打1 本塁打26 打率 .349 出塁率.395長打率.892 OPS1.281

盗塁4


投手

(左)試合8 5勝1敗  58回 失点14 奪三振44 防御率2.17

(右)試合7  4勝 2敗  47回 失点14 奪三振36 防御率2.68

合計 試合15 9勝 3敗   105回 失点28 奪三振80 防御率2.40


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