「下克上(ジャイアントキリング)」

 7月26日(火) TBレイザース対DETタイタンズ 6回裏 2対2の同点二死一塁。


 ここ2打席バートランダーは初球は4シームで入ってきた。おそらくは今回も同じ組み立てで来るはず。セットポジションから放たれた投球は外角高めアウトハイへ。芯でしっかりと捉えた打球はレフト方向へ。一瞬ファールかと思ったがポール際に入る勝ち越しの22号2ラン本塁打。内角低めインローを狙ったのが「逆球」になったのかも。


 そしてそのまま逃げ切って4対2で勝利。地元局の「ヒーローインタビュー」に呼ばれる。その後日本からの報道陣を相手に。表面上はクールに装ったが内心はウッキウキ。家に帰ってから存分にガッツポーズをやりましたよ。


 7月27日(水)


 先回の登板では降雨コールドで負けるという憂き目を見たが、ここはドーム球場。天気だけは心配がなく気温も湿度も一定。でもドーム球場は人気がないのだ。


 本日は右投げである。


 タイタンズ打線のキモとなるのは中軸の二人。ダイモンとカヴレラ。特にカヴレラはOPSが10割を超え、打率も長打率も高い「三冠王」タイプなのだ。一発があるうえ確実性を伴う打者は近年のMLBではなかなかいない。


 と、散々警戒した挙句に打たれる。ダイモンに初回の二塁打から失点し3回には7号ソロ本塁打。そして6回にはカヴレラの25号ソロ本塁打で6回3失点。警戒してなお打たれるのはまだ俺の球が完成していないからだ。負け惜しみに聞こえるかもしれんがこの肉体からだはまだ19歳11か月、建物で言えば土台固めをしている状態なのだ。


 ただ味方が初回裏からすぐに追いつき、逆転してくれ8勝目をプレゼントしてくれた。これでシーズン10勝も視界に入ってきた。

 

7月28日(木)


 試合前にアメリカのTV局のSEPNが取材に来た。全米ネットの取材は初めてだった。試合後に簡単にインタビューがあるそうな。今日はデーゲームだからってことか。次のカードはホームに首位ヤーナーズを迎える大事なカード。


 要は今季のア・リーグの新人王候補4人のうち、俺(現在8勝3敗)とウェズ(現在8勝9敗)、そして新人ながらタイタンズの中軸をまかされているブッシュ(現在打率3割)がそろっていたためだ。(もう一人はテキサス・レイナーズのクローザー、フリッツだ。)


 ウェズは明日のヤーナーズ戦先発なのでベンチ入り免除のため練習が終わった後にインタビューらしい。


 こちらはエースのブライス、タイタンズは昨季高卒2年目で開幕メジャーデビューを果たしたポーセリオ。マスコミさんは俺と対比させたいのやろな。もちろん俺と同じくまだ完成されてはいない、素質とセンスだけでメジャーリーガーを張ってるのは共感できる。俺も5番指名打者、ブッシュは5番右翼手ライト


 今日活躍したのはどの新人でもなくベーニャだった。2回には先制23号ソロ本塁打。3回には追加点となる適時打。8回にも追加点と大活躍。チームも4対2で勝利。

対タイタンズ4連勝スイープ。チームも6連勝。


 俺は四球2つと飛球二つ。ま、こんな時もあるさ。


試合後SEPNの取材を受ける。日本からの取材陣もさらに遠巻きにそれを見守る。

「こんなに観客ギャラリーがいると緊張するわ。」

インタビュアーのお姉さんも苦笑。ただ日本の女子アナとはちがい、れっきとしたジャーナリストである。


 でもやっぱり俺が英語を話すと褒められる。

「メキシコのテレビ局でしたらスペイン語で話しますし、モントリオールのテレビ局ならフランス語でお話できますよ。ただしどちらも『ヨーロッパ訛り』.ですけどね。」


 軽くアメリカンジョークを交えて応対。日本人選手の最大の障壁の一つはやはり言語なのは確かだ。

「新人王をだれがとるかどうかというより、今はチームがポストシーズンに行くこと、そしてそのメンバーに自分が入っていることしか考えていません。」

と優等生な答えを返しておいた。


 取材が終わり、撮影カメラを止めてからお姉さんは

「やっぱり4人の中だとあなたとレイナーズのフリッツのどちらかになりそうね。」

と私見を述べていた。


 7月29日(金)


 レイザースは6連勝(63勝38敗)しているのだが、いまだに2位。貯金25で追いつけないとか異常すぎない?


 そう、首位ヤーナーズとの直接対決。いざ、「下克上」へ。

 【沢村健の今季成績(通算)。】 


打者

(左)打席125 打数107 安打36(長打22)四球13死球2 犠打4 打点52 二塁打7三塁打1 本塁打14 

(右)打席49 打数46 安打18(長打11) 四球3  打点27 二塁打3 本塁打8


(合計)打席174 打数153 安打54(長打33) 四球15死球2敬遠1  犠打4 打点79二塁打10三塁打1 本塁打22 打率 .353 出塁率.404長打率.863 OPS1.267

盗塁4


投手

(左)試合7 4勝1敗  51回 失点12 奪三振40 防御率2.12

(右)試合7  4勝 2敗  47回 失点14 奪三振36 防御率2.68

合計 試合12 8勝 3敗   98回 失点26 奪三振76 防御率2.39


 


 



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