「雨に唄えば」「雨ニモ負ケズ」


7月22日(木)


結局、せっかくの休日もホテルのジムでトレーニングして終わり。


7月23日(金)


 朝から曇り空。しかも天気予報は雨。そして球場はドームではない。さらに俺は先発投手。


 案の定午後から雨が降り始め、グラウンドでの練習は中止。雨足が弱まるのを待って1時間遅れで試合開始プレイボール。しかし雨はやまないし、蒸し暑いし、

ボールが滑る滑る。何よりテンションが上がらない。


 初回裏、先頭から四球と安打で出し、アウト2つ取ったが1点献上。たびたび雨が強くなって中断。集中力が途切れまくる。ベンチに戻って濡れた身体を拭くとまたグラウンドに出るのがいやになる。ただ、中断するたびにブルーシートでグラウンド保守に奔走するスタッフさんたちには頭が下がる。


 相手先発投手がマウンドを変な掘り方しやがってムカつく。球宴にも出場経験があるエース格のフェルナンデス。文句も言えやしない。


 2回に味方に追いついてもらったが3回に再び1、2番に連打。3番秋シンシュの併殺打の間に1点を取られる。


 6回を投げ切ったところで7回。表の攻撃が終わったところで雨足も弱くならず、また中断かと思えば2対1でのコールドゲーム。踏んだり蹴ったりの3敗目を喫する。日本だったら最初から雨天中止やもん。


 ただ疲れ以上に精神的ダメージ。

「健、気を抜くと体調を崩すぞ。」

ショーンに言われる。ホテルに帰って久しぶりにバスタブに「湯を張って」の入浴。なぜアメリカ人は傘をささないのか。雨にぬれても平気なのか。不思議すぎる。


 これが「雨に唄えば」と「雨ニモ負ケズ」の差なんだろうか?雨をぬれても楽しめる文化と雨に濡れることすら嫌う文化。……やっぱり俺、日本人みたいです。


7月24日(土)


 「健、お前雨が苦手やろ?お前の弱点発見したぜ!」

サンダーナがベーニャのところにあいさつに来た。そして俺を巻き込むな。

「で、健を抑えるのに『雨乞い』でもするんか?」

ベーニャのツッコミ。

「ブードゥーのまじないでもやるんすか?」

俺も加わる。

「いやだなぁ、俺らちゃんとしたクリスチャンだぞ。……教会は年一回行くかどうか知らんが。」

 それちゃんとしてねーじゃん。いや、俺も初詣に年1行くかどうか怪しいレベルだが。


「そういや健は東洋系アジアンやったらチューさんに挨拶せんのか。彼もこっち見てんじゃん。」

確かに俺は「言語魔法」で高麗語も十分に使えるのだが問題はそこではない。


 「うーん、国が違うんで。」

「へー、彼は中国人なのか?」

いや、お前チームメイトやろ。ただアメリカに住む人間のアジアに関する知識はほぼ0と言って過言ではないレベル。


 「俺さ、南高麗の人って苦手なんだよね。すぐ怒鳴りつけてくるし。」

それにマウンドに国旗も立てるしな。

「あー。確かにあの人すぐ怒鳴るわ。クラビー(スタッフさん)とかによく怒鳴りつけてるよな。なんかクラビーが可哀そうなんだよ。」

おっと、これ以上は聞かない方が良さそうだ。


 本日は5番指名打者。こちらはエースのブライスが先発だったのだがいきなりつかかまる。くだんのシュさんのタイムリー二塁打で先制される。2回にはダンガンの2ラン本塁打で3点差に。


 4回の第2打席。二死から四球で出たベーニャを一塁において。しつこくシンカーを投げてくる。フルカウントからの6球目、やっぱりシンカー。ライトスタンドへの20号2ラン本塁打。新人王レースで一歩リードとも言えるラインに到達。これで勢いがついた打線は5回にゾルディストの6号2ラン本塁打で逆転。そして6回にベーニャの21号ソロ本塁打で引き離す。そして3対6で勝利。


 試合後のインタビュー。ベーニャが「いつの間にか健が俺の記録に並んでいてびっくりした。」と言っていた。……ふふふ。抜かされるのも時間の問題だよ。


7月25日(日)


 今日はデーゲームのため午前中には球場入り。


試合前の打撃練習。ケージ前で順番待ちをしていると

「健、久しぶりだな、俺んとこにもあいさつに来いよ。」

とやってきたのは昨日のゲームで本塁打を打ったダンガン。彼は昨シーズンのAAAインターナショナルリーグのMVPを受賞した男である。ヤーナーズ傘下のSWBスクラトン・ウィルクスバリレイダースの主砲を張っていた男。リーグ本塁打王をすんでのところで俺にかっさわれて恨んでいる、といったところか。


「ども。ヤーナーズから移籍したんですね。」

なかなかチャンスが回ってこないの「ビッグクラブ」よりは出場機会を求めるのもありだろう。そう考えると「貧乏球団レイザース」への入団を選択したのはあながち間違いではないのかもしれない。


 本日も6番指名打者。先発投手はこちらがウェズ。そして相手チームは右腕のパスターソン。


 初回裏にサンダーナの犠飛で先制される。しかし2回表、俺の四球とショーンの安打からブライアンの6号3ラン本塁打で逆転。その裏にバードレッドの野選フィルダースチョイスで1点を返されるも、5回に安打で出た俺がカールの犠飛でかえって4点目をあげ、そのまま2対4で勝利。


 ちなみにダンガン氏は代打で登場したが凡退に終わる。気持ちがなければ話にならないが気持ちだけでもなんともならない野球というスポーツの本質を垣間見た思いだ。ちなみにこれでセント・ピートに帰れるんですけどね。


【沢村健の今季成績(通算)。】 


打者

(左)打席114 打数98 安打35(長打20)四球11死球2 犠打4 打点46 二塁打7三塁打1 本塁打12 

(右)打席49 打数46 安打18(長打11) 四球3  打点27 二塁打3 本塁打8


(合計)打席163 打数144 安打53(長打31) 四球13死球2敬遠1  犠打4 打点73二塁打10三塁打1 本塁打20 打率 .368 出塁率.414長打率.868 OPS1.282

盗塁4


投手

(左)試合7 4勝1敗  51回 失点12 奪三振40 防御率2.12

(右)試合6  3勝 2敗  41回 失点11 奪三振32 防御率2.41

合計 試合12 7勝 3敗   92回 失点23 奪三振72 防御率2.25



 

 


 



   


 

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