万年補欠の下克上！！！（第3期）ー再転生した野球少年は底辺スキル「支援魔法」でメジャーリーグを駆け上がれ！

休み前で浮かれるな。

　7月9日（金）

　先発はフィールズ。俺は5番指名打者。久しぶりのクリーンアップ昇格。

１回裏二死二塁一塁から初球外角への４シームを逆らわずに打ち返して2点タイムリー。先制。

　ただそこから点の取り合いに。3回も二死二塁と再びチャンスが。だが迷わずサンダーナが立ち上がって敬遠。観客からはブーイングが出たが６番のショーンがフライアウト。

　結局、5対9で敗戦。負けは８回に４失点したソニースタインについた。サンダーナが彼らの地元の記者たちに新人選手を敬遠したことについてツッコまれていたが平然と「僕も新人ですから。逃げたのは投手ではなく僕です。ただ勝った以上僕の判断は妥当だった、ただそれだけです」と涼しい顔。大物の片鱗（へんりん）を見せていた。

　7月10日（土）　

　ついに４番復帰。というか監督自身が打順をいじりまくる人なのであまり気にしない。俺も打順が何番だろうと試合にさえ出られればそれでいいのだ。

　ベンチ内の会話ももう「オールスター・ブレイク」の話ばかり。割と緊張感がない。

　先発はゲイザー。相手先発は左腕のレフリー。

「さあみんな、仕事の時間だ。」

ベンチコーチの叱咤（しった）も心なしかウキウキ。

　チャンスは初回。ノーアウト二塁一塁からドンゴが併殺をくらって二死三塁。そのバッテリーの一瞬の「乗り切った」という気の緩みを俺は見逃さなかった。バックスクリーンへの16号２ラン本塁打。俺はサンダーナが「しまった」という表情をしたのをついチラ見してしまった。これは我ながら悪趣味。

　4回にはケプラーのタイムリーで２点追加。5回には二塁打のドンゴをおいて俺のタイムリー二塁打で１点追加。結局６対0の完封リレーで勝利。

　7月1１日（日）

　本日は左投げ。前半戦はこれで最後。あしたからはお待ちかねのオールスター休暇（ブレイク）。

「健、休みは1日くらいみんなとのゴルフに付き合えよな。」

ブルペンで肩を作っているとウェズに声をかけられる。

「へえ、ウェズはゴルフやってんだ？」

開幕からメジャーなのは今季が初めてのわりにずいぶんとブルジョアなスポーツをおやりに……という皮肉は思うだけにしておく。

もっとも日本に比べればアメリカにおけるゴルフへの敷居はそれほど高くない。俺の「中の人」は高校時代にバブル景気だったので「ゴルフ場の会員権が１億円」とかとんでもない「金持ちの道楽」というイメージしかないのだ。アメリカだってピンキリでファミリー向けの安いものもあれば高級ホテルのリゾートゴルフに至るまで様々だ。

　それにメジャーの最低年俸でも日本の大企業の雇われ社長よりは稼いでいるわけなんだから別におかしくともなんともない。

　　それにまだ身体が出来上がっていない年齢なんでトレーニングに専念したいところでもある。

「なに言ってんだ。お前の出身高校だってゴルフコースらいあっただろう？」

確かに俺が留学していた方の学校にはあったわ。

　今日は試合後にクラブハウスのカフェテリアでオールスターゲームに出場する連中への「壮行会」もある。

　浮かれていたのか、初回二死から3番サンダーナに2塁打。さらに4番カーンズにも安打を打たれて先制点を献上。ここで目が覚める。浮かれている場合ではない。なんとか後続を断つ。

　チームも4回、5回で４点を奪い逆転して４対１とリード。ただ俺は６回に２失点して4対３と詰め寄られるも、なんとかブルペン陣が踏ん張ってくれて5対３で勝利。６勝目を挙げた。

　地元局のヒーローインタビューはセーブポイントを挙げたトリアーノと１１号本塁打を放ったカール。二人ともオールスターゲームに選出されている。トリアーノは最初は選外だったのだがヤーナーズの抑え投手（クローザー）のリベロが出場を辞退したための出場だ。

　家族も同伴可だったのでわりといっぱいいっぱいになっていた。まあ立食パーティーだから座席はないんだけどね。割と子どもたちが俺の周りに集まってくる。東洋系（アジアン）は顔が幼く見えるから「仲間」だと思われているのか。

　ほぼ「子守要員」に徹していると珍しくマディソン監督が絡んできた。

「健、キミの今の成績ならオールスターゲームに出てもおかしくはない成績だった。選ばれなかったことに悔しさはないのか？」

　お、酔っているのか元からなのか。白人の赤ら顔は見分けがつきにくい。俺は半分煽るように言ってみた。

「そりゃ悔しいですよ。開幕からメジャーに居れさえすればあるいは、とも思いましたけどね。

　でもね、考えてみれば僕はまだまだ未完成の状態なんですよ。打撃（バッティング）でも投球（ピッチング）でもね。なのでオールスター・ブレイクを楽しめるのは今季だけかもしれませんね。」

　そんな鳩が豆鉄砲を食ったような顔はやめてください。まだ身長に見合ったスタミナとパワーがついていない今、柔軟性（しなやかさ）とセンス（魔法含む）だけで野球をやってんですわ。

「で、健。ゴルフの話なんだけどな。」

監督をドン引きさせる程度にはイキリまくった俺にお構いなしにウェズが割り込んできた。

【沢村健の今季成績（通算）。】　

打者

(左）打席87　打数78　安打28（長打15）四球7死球2　犠打2 打点24　二塁打6三塁打1 本塁打8　

（右）打席42 打数40 安打16（長打9) 四球3 　打点23 二塁打2 本塁打7

(合計)打席129 打数118 安打44（長打24) 四球10死球2 　犠打2 打点47 二塁打8三塁打1 本塁打15 打率 .373 出塁率.424長打率.839 OPS1.263

盗塁4

投手

（左）試合6 4勝０敗　　45回　失点10　奪三振35 　防御率2.00

（右）試合5　 ２勝 2敗　　34回　失点9　奪三振23　防御率2.38

合計　試合11　6勝 2敗　　 79回　失点19　奪三振58　防御率2.16